第61話 神との交わり

ララシャ様とデートだ。


ララシャ様とデートだ。


つまり、ララシャ様とデートだ。


どう言うことか?


ララシャ様を、この美しい世界でエスコートできる。


共に手を繋いで街を歩き、楽しむ為の食事をして、温泉に浸かる。


そして……。


心の底から愛を捧げる、我が姫君に。


幾千幾万、歌っても足りることのない、愛の歌を捧げるのだ。


ララシャ様はお優しい。


聞いてくださるのだ。


変わらぬ微笑みで。


俺の拙い歌を。


ララシャ様が。


聞いて、くださるのだ。




高級宿の一室で。


裸の俺に抱きついている、ララシャ様。


柔らかな表情を浮かべた、美しいかんばせに。


俺の黒い長髪を一房手に取り、優しく押し付ける。


「いい、香りだ」


甘い吐息で。


「月の香りだ」


凍えるかいなで。


「私と同じ香りだ」


蕩けるような、星の声で。


そう仰られたララシャ様は、いつものように、いや、いつもよりも愉快そうな態度で。


穢れを知らぬ乙女のようでいて……。


普段の、威厳溢れる神姫としての姿ではなく。


俺の、俺にだけ見せる、甘えと親愛がない混ぜになった、年頃の少女のような溌剌さ……。


そして、艶かしい腰付きが、青褪めた白肌が……。


ああ、ああ……!


冷たい熱が!


俺の肌に、優しく触れて……!




久しぶりだったので、熱く燃え上がってしまったな。


もちろん、夫婦であるからして、このようなこともする。


まあ、いくら身体を重ねても、俺が『聾の者』である以上、子を望むことはできないのだが。


更に言えば、ララシャ様は神なので、赤子はできない。


上位者、神なる者、神秘、神威。それらは、赤子を抱けぬ運命にある。死に向かうムーザランでは特に。


考察スレによると、「ムーザランの神々の類は霊的なものであるから霊的な交信によらない行為は全て無効で肉体など器に過ぎないよ説」と「本編の文書の中に『神々は微細な生物であり〜』みたいな文章が出てくるし菌類を模した生物だから株分けでしか増えないよ説」、もしくは「そもそもムーザランが終わってるから無理だよ説」などがあるが、真実は分からん。


少なくとも、我々矮小な「ヒト」は、そう言って自らの知識にあるものなどで喩えないと理解できないだけで、神々は考察とかそういう次元にはないんだよな。


神々は神々というそう言う定義の存在で、人間の知恵や知識では喩えようもなく、理解することもできないんだよ。


とにかく、神に類する存在は、子供を作ることができないのは確かだ。


が、まあ、なんだ。


ララシャ様と子供を作れないからと言って、俺達の愛が濁る訳じゃない。


この愛だけは真実で、一点の曇りもないのだ。


これは、ただ、俺達夫婦が、そういうものだと理解しているというだけの話だ。


別に慣れたこと。


共にいられるだけで、この上ない幸福であることに間違いない。


俺はそう思いながら、行為を終えた後の、息が乱れたララシャ様の細い肩を優しく抱いた……。


「ララシャ様……、すみません」


「何を謝る?」


「俺は……、ララシャ様の本当の望みを、何一つ……」


「よい、言うな」


「ですが」


「よいと言った」


「………………」


「……ふふ、だが、我が剣よ。私の望みのひとつは、叶うやもしれんぞ?私は感じている。我が胎で、命の鼓動を」


「それは……!」


「ああ、そうだ。この世界は、ムーザランとは根本的に違うらしい」


ララシャ様、曰く。


ララシャ様が分霊となり、大きく霊格を落とされたこと。


この世界が、呪いに満ちたムーザランではないこと。


この二つの理由から、励めば赤子が望めるかもしれない、と。


ララシャ様はそう仰った。


「だからな、我が剣よ。我が手にややこを抱かせてくれ。かわいいかわいい、お前のややこを……」


ララシャ様の、赤子を……?


ララシャ様に、赤子を産んでいただける?


ララシャ様が!あれほどに望んでいた赤子を?!


……ララシャ様が、本編で、ムーザランの全てを薪にして燃やし尽くして世界を再誕させようとする理由は、ララシャ様が赤子を産みたいからであることは公式設定そのままだ。


呪いに満ちたムーザランでは、神々すらも狂い果て、滅びゆく運命にあり、事実俺も何体もの狂神を討ち滅ぼした。


ララシャ様は、そんな世界を終わらせて、自分が新たな時代の神の赤子を産み落とそうとなさっていたのだ。


ララシャ様自体も、俺達『聾の者』の信者達に大量のホーンを捧げてもらい、どうにか延命していた状態だったからな……。


ムーザランは、それ程までに終わった世界だったんだよ。


まあ「この先、尻が有効だ」「尻!キノコ!致命攻撃!」「この先、尻があるぞ。だから、キノコが有効だ」とかクソみたいなコメントをそこら中に落書きする我々クソプレイヤー共の方が終わってるので、総合的に見てトントンみたいなところはあるな。


そして、ララシャ様の城の前に「白くべたつく液体が有効だ」「この先、アワビあり」「胸!尻!」「尻の香りがする……」などと落書きしたカス共は、一人残らずぶち殺したので安心だ。


まあその辺はどうでもいい話だな。


……特にアワビありは許せん。ララシャ様のはとても綺麗だ。あれを書いたカス野郎はなぶり殺しにしてやったぞ。


余談だったな。


とにかく、ララシャ様のお望みである、赤子を抱くこと。


それを叶えるのが当面の目標となるだろう。


となれば、居城と下僕、乳母くらいは用意せねば、旦那としても従者としても名が廃るというもの。


とりあえず、ヤコの報告待ちだな……。




——————————


https://kakuyomu.jp/works/16818023212415401358


新作あるので読むといいよ。


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