第62話 グランドマスター会議

「儂らが全員集められたと言うことは、相当な話なんじゃろうな?のう、『鉄姫』の?」


赤い髭に、前髪が大きく後退した禿頭。


凄まじく大きな広背筋と、革手袋のような分厚い手のひらは、熟練の職人の証か。


このウェルハースの事実上の王、『赤髭』ガーランドはそう言って自慢の赤髭を撫で付けた。


「まあそう言うな……。グランドマスターが全員揃うことなど、暫くぶりだ……。どうだ?久方振りに酒でも……?」


そう言って酒瓶を掲げるのは、黒い眼帯で片眼を隠した、隻眼のドワーフ。


白髪混じりの黒髪黒髭を、ドワーフ基準の短めに纏めた、優しげで寡黙な男。


『隻眼の』モーゼスだ。


「ヘイ!そうやっテ暇なのは、魔王軍の侵攻で『魔法金属』が手に入らなくなったアンタだけだゼ、モーゼス!」


そう言って、金色の金属でできた下顎で不自然なイントネーションで話すのは、世界最高峰のカラクリ技師。


『金顎の』ゴルドーである。


「喧しいのじゃ、ジジイ共!先方たってのお願いとのことで集めたのじゃぞ?!この街の品位を落とすような物言いは許さん!」


そう言って叫ぶのは、褐色肌に緋色の髪を二つに結んだ、目つきの鋭い少女……、否、ドワーフ。


『鉄姫』センジュだ。


ドワーフの職人の頂点、『グランドマスター』の四人がここにいた……。


「はて?先方とな?儂らが風下に立つような『先方』がおるのか?」


ガーランドは笑う。


それもそうだ。


ガーランド達グランドマスターの武具は、王侯貴族すら手に入るものではない。


それこそ、敵国である『帝国』にすら、ドワーフらの技術力には一目置かれているくらいなのだ。


あの、人間至上主義の帝国が、である。


そんな中でもトップの四人であるグランドマスター達は、ガーランドの言う通りに、誰にも遜る必要などなかった。


しかし、それに対して、センジュは。


小脇に抱えた鋼鉄の箱を出して、こう返す。


「これだから、頭の硬いジジイ共は!これを見るのじゃ!」


鉄の箱には、鍵が三箇所あり、仕掛け細工が施されたもの。


地球で言うならば、アタッシュケースのようなものだった。


その厳重な保護をされたケースを開いたセンジュは、中から白く輝く短刀を取り出した……。


「な、なんと……?!」


「これはっ?!」


「オーゥ?!」


すると、センジュ以外のグランドマスター……、ガーランド、モーゼス、ゴルドーの三人は目を限界まで見開いて驚きの声を上げた!


「て、ててて、鉄姫の!こ、これはっ、これはどこから?!」


ガーランドは、わなわなと震える手で、センジュの肩を思い切り掴んだ。


それをいなしながら、センジュは言うのだ。


「これが、その『先方』からの依頼品のうち一つじゃ」


と……。


「依頼……、つまりは『アイテム鑑定書』か!」


モーゼスが膝を叩く。


「なるほどナ!オレらの鑑定書が欲しい訳だ!マァ、確かにこのレベルなら、一筆書いても全然オウケィだがヨ!」


そしてゴルドーも、頷きながらモーゼスの言葉の続きを繋げる。


「よ、よし!では早速鑑定してゆくぞ!まず儂が見る!見せろ!」


ガーランドはそう言って、手を出そうとするが……。


「待て待て!こりゃマジックアイテムだろう?!なら、俺の専門だ!」


その手を、モーゼスが掴んで妨害。


「オレも見てェよ!独り占めはアウトだロぉ?!」


ゴルドーも乱入……。


あわや、喧嘩か!となったところで。


「うるさいわ!人の話をちゃんと聞くのじゃ、ボケジジイ共〜!」


と、センジュが一喝した……。


「じゃ、じゃがのう、このレベルの武具はもう五十年ぶりくらいで……」


ガーランドは、センジュに対しておずおずと何か言おうとするも……。


「あ"ぁ"?!!!」


「ひぃ」


ブチギレているセンジュに黙らされる。


やっぱり、先代のムラマサ婆さんの血を継いでおるわ……などと小声で呟きつつ、小さくなった三人。


それにセンジュは、こう言って説得した。


「信じられぬ話じゃが、どうやら先方はこのレベルのアイテムを多く所持しておるらしい。それらの全ての鑑定を依頼したいそうなのじゃ」


「む……、それが本当なら、儂らも予定を空けることに異論はない」


ガーランドはそう口で言うが、目線は常に短刀に行っている。


「確かにな。俺達も忙しいが、それでも本分は鍛治師……。これほどまで素晴らしいマジックアイテムを鑑定できるならば、予定なんぞいくらでも空けるぞ!」


「オレも異論なしだゼ。むしろ、是非見せてほしいとこっちからアタマ下げるくらいダ!」


モーゼスも、ゴルドーも賛同。


「よし、では、先方に連絡して良いな?」


「「「賛成!」」」


そう言って、センジュが、短刀を仕舞おうとケースを閉じようとしたところ……。


「「「いや待て待て待て!!!」」」


と、三人が手を伸ばしてくる。


「まだ見てない!まだ見てないじゃろ!!!」


「魔法回路を見せろ!」


「材質〜!!!」


「うっさいわ!これから嫌ってほどに鑑定書を書くことになるんじゃから、黙っとれい!」


「そんなこと言ってお主は好きなだけ見たんじゃろ?!狡いぞ鉄姫の!」


「そっ、それは……、先方の応対をした妾の特権なのじゃ!」


「じゃあ儂も!儂も先方と会うから!」


「ええい!うるさいうるさい!後にせんか!これから先方が来るんじゃ!」


「後生じゃ〜!!!」

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