鉱山都市ウェルハース&王都オークション編
第59話 鉱山都市へ
鉱山都市ウェルハース。
火山などの複数の山々に囲まれたところに位置する都市で、その地熱を使っての温泉が観光名所。
だが、街としてのメインの収入源は、鉄鋼業である。
元々この街は、ドワーフと呼ばれる種族の里だったのだ。
ドワーフ達は、製鉄技術に長けた種族で、独特の超感覚で鉄の純度や質などを判定できる。他にも、手先が器用で力強く、職人肌な気質を持つ……。
故にこの街は、建国王ヨシュアに恭順し、サーライア王国の一部に組み込まれる遥か昔から、確かな技術力で栄えた大都市なのだ。
「……という訳です」
と、馬車で隣に並走しているヤコが、俺に声をかけてきた。
「そうか。興味ないな」
ヤコの勧める高級宿にチェックイン。
ヤコも、隣の部屋にチェックインした。
そのまま、夕食を摂りに一階の食堂へ行く。
メニューは、鉱山都市名物のヴルストを中心にしたものだそうだ。
熱された小さな鉄板皿の上でじゅうじゅうと音を立てるヴルストは、とても旨そうだ。
「にしても、よろしかったので?」
俺の向かい側に座り、ヴルストにフォークを差し込むヤコは、そう声をかけてくる。
「何がだ?」
「お仲間、置き去りにしてきたじゃないですか」
お仲間……?
……ああ!囮共か。
「そう言えばいないな、あいつら。全く、どこで水を売っているんだ?」
「ああ、本気でご興味がないんですねえ。……多分、まだスワンケルドで寝込んでいらっしゃると思いますよ。連絡しておきますか?」
「良いんじゃないか?どうでも」
「では、一応連絡を入れておきますね」
それよりも……。
「今後の予定は?俺は何をすれば良い?」
「うーん、質問を返すようで申し訳ありませんが、お急ぎですか?お急ぎでしたら、すぐに仕事の話を進めさせていただきますが……」
いや、そうだな……。
「急ぎではない、な」
「でしたら、一週間ほど、ララシャ様とデートでもなさっていてください。わたくしの方は、事務処理や会場設営などを済ませておきますので」
なるほどな。
「理解した。一週間後、その、ドワーフとやらに会うんだな?」
「はい。こと武具において、ドワーフの目利きほど確かなものはありませんから。そんなドワーフ達に『鑑定書』を付けてもらえば、箔がつくというものです」
ふむ……。
動物の血統書のようなものだろうか?
「『鑑定書』は、価値のある職人のものであるほど、効果が高いですわ」
「ふむ、理解できる」
そうだろうな。
確かに、良い職人が良い武具だと認めた鑑定書には、価値がありそうだ。
「ですが、ドワーフもプライドの高い職人。簡単に、自分より腕が良い存在がいるとは認めたがらないでしょう……」
ふむ。
「……ですから、最初の説得材料として、何か軽く、武具をお預け願いますか?」
「説得材料?」
「はい。ドワーフはプライドが高いので、自分より腕が良い職人がいるとは中々認めたくない……、とは言いました。ですが、腕で負けたことを意固地に認めないほど愚かではありません」
ふむ。
「良い武器を見せれば、必ず食らいついてきて、こちらに接触しようとしてくるでしょう」
なるほどな。
「……というより、そうでもしないと、上位層の職人は会ってくれませんわ。ほんっとうに偏屈ですから、ドワーフは」
「つまり、そこそこ良い武器を使って釣りをしようってことか」
「そんな感じです。そして、狙うのは四人!この街で最高の職人、『グランドマスター』の四人ですわ!」
『赤髭』ガーランド
『隻眼の』モーゼス
『金顎の』ゴルドー
『鉄姫』センジュ
四人の名前が上がる。
「ご興味はないでしょうから、簡単なプロフィールだけ説明いたしますわ。取引相手の顔も名前も知らないのは良くありませんから……。まあ、無用なトラブルを避ける為に、少しだけ脳の容量を割いてくださいというお話です」
そう理論的に説得されれば、俺としても否とは言わない。
普通に、聞く体勢に入る。
「ガーランド。赤い髭が特徴の最年長。鎧職人で、盾も作ります。近年は職人と言うより政治家のようなことをしています」
「モーゼス。魔具の職人です。潰れた片目には、魔力の形を捉えるスキルが備わっているらしいですわ」
「ゴルドー。事故で失った口と顎を、黄金の入れ歯にしているのが特徴ですわ。こちらは、『絡繰』と言うものの職人なんだとか」
「そして、センジュ。勇者の剣を鍛えたという、ムラマサ家の姫君です。刃物の専門家で、五十歳の若さでグランドマスターの称号を得た天才だそうですわ」
なるほど、理解した。
「この四人のグランドマスター全員を、認めさせれば良いんだな?」
「いえいえ、全員ではなくとも大丈夫ですよ。グランドマスターの鑑定書は、十数年に一度、『この武器の最低限の機能は認める』くらいの文書が出て終わりですから。一筆貰えるだけでも上等ということですね」
ふむ……。
「……ですが、神代の武具ともなれば、グランドマスター全員の、高評価の鑑定書を得られるかもしれません。そうすれば王家か、それに準ずる大貴族が、膨大な金と利権で買ってくれますわ!」
何でも、グランドマスター全員が高評価の鑑定書を書くことはほぼないらしく、過去にあった数少ない事例では、『建国王の愛刀』や『国宝の聖剣』、『伝説のトレジャーハンターが見つけた古代の魔法盾』などの、特別なアイテムだけらしい。
そう言ったものは、『国宝』と指定されて、魔王と戦う戦士などに下賜されたりするのだとか。
「もし『国宝指定』を受けられれば、その武器を王家に献上すると伯爵位くらいは貰えてもおかしくありませんわ」
「要らん」
「あ、はい。そうでしょうけれども。あくまで喩えですわ、喩え」
そうか。
「ですがまあ、もしも国宝指定されたならば、逆に売らない方が良いかもしれませんね」
「は?何言ってんだお前?」
言ってることがめちゃくちゃだぞ。
「ああいえ、その……、世の中では、お金で買えないものがあるんですよ」
ああ、そう言うことか。
「つまり、国宝献上という功績は、純粋な金銭に替えるよりも、『金じゃ買えない権利』とかにした方がお得って話か」
「んー!話が通じる人は本当に大好きですわ!」
なるほどな……。
「権利とは、例えば何がある?」
「そうですねえ……、爵位はさっきも言いましたが……、例えば、王都の一等地、貴族用の屋敷の譲渡。島一つの譲渡。貴族の娘との縁談とかも行けますわ」
ふむ……、微妙だな。
「……というか、ここは爵位一択だと思うのですが?法衣貴族身分で適当に名前だけでも爵位を得れば、ある程度の逮捕権や執行権、不逮捕特権なんかが得られて便利ですよ?」
「俺はララシャ様以外に仕えるつもりはない。例え形だけでもな」
「……一途なのですね。ララシャ様には、少し妬けてしまいますわ。貴方ほどの素晴らしい殿方に、ここまで言わせるだなんて……」
そう言って溜息をつくヤコ。
それを見たララシャ様は、ちょっぴりドヤ顔をなさっている。可愛過ぎて頭がおかしくなりそうだ……。
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