第58話 崩壊した街

それから、の話をしよう。


俺に殺されて、腐った肉の山となった領主は、爵位没収となった。


死んでいる奴から爵位を取り上げても無意味では?とは思うが、これは、死後の名誉を奪う大変残酷な行為らしい。


勲章持ちがプリウスミサイルして勲章没収みたいな話だそうだ。


そしてそうなってくると、領主の家族も、貴族の身内という特権を奪われて没落。


それどころか、街を破壊した化け物の身内であったとして、石もて追われる立場に転落したのだとか。


まあ、あれだけ私腹を肥やしていた馬鹿を止めなかった身内だ。碌でもない奴らなんだろう。


実際はどうだったとかそんなことは知らないし興味もないし調べるつもりもないが。


一方で、今回、全く良いところなしでボコボコにされた断罪騎士団は、と言うと。


「冒険者エドワードに、敬礼!」


「「「「敬礼!」」」」


俺に感謝の言葉を述べて帰っていった。ついでに、金一封を俺に押しつけて……。


まあ、あいつらが死ぬ時に放出したホーンを拝借しているので、感謝の気持ちは多少ある。


一人1000と、割とホーンを多く持っていたので、早く人員を補充して、また俺の前で死んでほしい。


そして囮共は。


「「「「「うーん、うーん、化け物が……」」」」」


異形化した領主を見たショックで寝込んでいる。


無視しよう。


街は……、ボロボロだ。


復興には、年単位の時間がかかるだろう。


領主が冒険者から巻き上げた税金?


そんなもの、残っていると思うか?領主はアレだぞ。


因みに、断罪騎士がその辺りを調査して帰ったそうだが……、流石に、調査内容を外部に漏らすような無能はいなかったようだ。


領主邸に残されていた資料は、精査の上全没収、そして王都に運ばれることに。


その護衛として、王都の三大特務騎士のもう一つ、護衛騎士こと『守護騎士団』がやってきて、資料を大勢で守って運んで行った。


……まあ、捜査内容がどうであれ、たかが書類にあれだけ大仰に護衛をつける辺り、だいぶでかい話なんだろうなとは容易に推測できる。


興味はないが。


そして、最も大事なララシャ様。


ララシャ様には、あの領主と、領主が暴れて死んだ人々のホーンを集めて捧げたので、大分お力が戻ってきたそうだ。


今は、戦闘能力は最低限だが、肉体の年齢やサイズ感は十代後半くらいになっていた。


本来のララシャ様は、肉体年齢は二十代半ばから後半ほどの、妖艶な美女のお姿であらせられるのだが、この世界では十代後半の少女の姿で通すらしい。


なんでも、この世界では早婚が基本だから、三十そこらの女を連れていると可笑しく思われるから、とのことだ。


俺のことを慮ってくださったのだ……。


なんと、なんと……、なんとも、光栄である。


もしもララシャ様の容姿や年齢について謗ろうなどという蛆虫がいれば、この俺が、最大最悪の絶望と苦しみを与えた上で、魂魄の欠片すらも残さずに完全に消し去るつもりなので問題は一切ないのだが……、ララシャ様の行動にケチをつけるとかあり得ないからな。


ララシャ様のなさりたいことが、俺のやりたいことだ。


第一、ララシャ様が少女の姿をおとりになったとしても、その美しさが翳ることはないしな!


月は、その満ち欠けすらも美しく、あらゆる時でも月であるように。


ララシャ様は、ありとあらゆる瞬間全てにおいて、三千世界で最も尊く、美しい御方だ。


俺はただ、ララシャ様の優しい光を遮る暗雲を斬り裂く、月華の剣であればいい。




ああ、そうだ。もう一人。


領主が大暴れしていると、速攻で『転移水晶』なる魔導具を使って逃走したヤコだが……。


この女は、領主が俺に殺されたのを確認するや否や、己の物流チェーンをフル活用し、破壊された街の復興事業の利権に一番最初に食らいついてきた。


いっそ、清々しいまでの拝金主義である。


俺はこういう奴が嫌いではない。


理論的に動くので、行動が読みやすい上に、理解しやすいからだ。


感情的に、「なんかムカついたのでやった」みたいなことをいうサイコパスが一番嫌いだ。


その時々のライブ感で生きているようなアホは、次に何をやるかわからないし、行動理念が常識からかけ離れているから理解できない。


この女の理念は、既に見抜いている。


つまりこうだ。


———「わたくしがお金儲けをして、雇用の枠を作り、人々を雇って差し上げる。そうすれば、私はお金持ちになって、皆さんも仕事とお金を得られる。皆が得しますわ」


金儲けがメイン、その余力で社会に奉仕するという、非常に真っ当で理解しやすい思考回路だ。


真っ当なことを真っ当にやる奴とは、得てして強い。


王道とは妨げられにくく、つまりは錦の旗であるからだ。


俺の動きを可能な限り制御して、可能な限りの利益を得て、その利益を俺や他の人間に分配する……。


素晴らしいフィクサーだ。


極論を言えば、世界の全てを更地にすることも、俺にはできる。


無論、それをやるとララシャ様にお叱りを受けるのでやらないが。


そんな俺には、力を振るう先を指定するフィクサーが必要だ。


ヤコの提案通りに動くと、社会と敵対せずに大量のホーンを稼げる……。


もしくは、俺がホーンを稼ぎ、その抜け殻となった死体をヤコに押し付けると、金がもらえるとかな。


金は別に、個人的には要らんのだが、ゴミを押しつけて大金をもらえるというのは良い話だ。


誤解しないように言っておくが、最低限の金は俺にも必要だからな。最近はそれを理解した。


別に、贅を凝らした食事をしたいとかそういうことはないが……。


例えば、雨の日に、ララシャ様に俺と一緒に野宿をさせるわけにはいかない。つまりは、宿屋に泊まる金が要る。


俺も、この世界の旨い飯を楽しみたいという気持ちは多少ある。そりゃあ、不味いよりかは旨い方が良いに決まっているからな。


それに、これもヤコからのアドバイスだが……、ララシャ様に相応しい館や、新婚旅行など、そういうことをするべきだと。


俺もそう思う。


思えば、ララシャ様には苦労をおかけしている。不甲斐ない。


今まではムーザランで、共に野晒しで生きてきたから、そこまで気にはしなかったのだが……。


よく考えれば、ララシャ様を安宿に泊めたり、低質な酒場に入れたりなどするのは不遜だった……。


無礼を詫びて切腹したのだが、ララシャ様に「自傷するな」とかなり強めのお叱りを受けたので、もうしない。


金だな。


金を作って、ララシャ様に相応しい生活を提供せねばなるまい。


と、俺がそう呟くと……。


「でしたら、一つご提案があるのですが?」


横からヤコが出てきた。


これが、古典アニメーション作品なら、ヤコの両目には「$」のマークが写っているだろうという、そういう顔でだ。


「先日、うちのスティーブンに貸していただいた刀なのですが……」


スティーブン?ああ、肉盾ジジイか。


「あれほどの逸品は、私でも目にしたことがありませんわ。一度目にした、王都大教会の聖遺物たる『ゆうしゃの剣』の二振りよりも凄まじいものでした……」


「ふむ」


「どうやら、素晴らしい武具が余っているご様子。わたくしにお任せいただければ、王都のオークションに出品して、爵位が買えるほどの大金にできますわよ!」


なるほど……。


悪い手ではない。


エネミーを退治して死体を売るのも良いが、強いエネミーは基本的に、山奥などの人類未踏の地にいることが多いらしいからな。


多少の金とホーンを集める為に、何週間もかけて遠出して山登りだなんて馬鹿らしい。


今回は、金稼ぎに徹するか。


「そしてその為には、武具や魔導具の目利きができるドワーフ達の鉱山都市に、武具を持って行かなければならないのですが……」


「ふむ」


「ああ、そうですそうです。鉱山都市には温泉がありますよ。貸切にして、ララシャ様と混浴とかいかがです?」


「行く」


行く。


絶対行く。


ララシャ様と新婚旅行する!!!!




「はい!では行き先は、『鉱山都市ウェルハース』ですね!」

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