第56話 豹変する領主

記録水晶の記録を受けて、冒険者ギルドのギルド長や、領主の貴族、俺の後ろ盾である女狐(ヤコ)など、色々な奴らが集まってきた。


記録水晶の動画を再生して、事態の究明をこれからするらしい。


水晶は、ここ、ギルドの仮会議室で、専用の再生機(魔導具)に嵌められて……。


映像が、プロジェクターのように白い布がかけられた壁に映される……。




『記録、メウィの月、二十日。我々は、ブラックマンズ精鋭部隊、アンブロウズ。目的は、我々に逆らう愚か者を抹殺すること……』


『ブラックマンズに逆らう者の名は、エドワード・ムーンエッジ……。ブラックマンズは、この男に30000000Gの懸賞金をかけた……』


『クライアントからも、早く消せと指示が出ている。即座に抹殺する……。作戦はまず……』




どうやらこの記録水晶は、俺の暗殺計画について記されているらしい。


音声だけでなく鮮明な映像も記録されており、俺と戦う姿も残されていた。


恐らくは、これで俺を殺害するシーンを録画しようとしていたようだな。実際は逆になったのだが。


「どうやら、自明のようですわね?」


ヤコがそう言って、手持ちの資料で机を叩くように手を動かす。


一方で、ギルド長と領主は顔を青くして震えている。


「ま、待ってくれ!わ、私はこんなことを指示していない!ブラックマンズが全て、あいつらが勝手にやったんだ!」


速攻で、領主なる中年が保身に入る。


封建制度社会の癖に、貴族に犯罪とかそういう概念があるのだろうか?


と思いきや、法律書を見る限りでは、領主だろうが貴族だろうが、捕まる時は捕まるそうで。


つまりこの場合では、ブラックマンズに指示したことがバレれば、この領主は終わりだということになる。


「そ、そうだ!大体にして、その『クライアント』とやらが、我々であるなどという証拠はないだろう?!」


ギルド長の中年が叫ぶ。


「ハ、それ、本気で言ってます?」


調査すればすぐに分かることですよと言いながら冷笑するヤコ。


マゾには堪らないんじゃない?


「それにそもそも、わたくしが、確固たる証拠もなしに脅しつけにきた……、とか思っていらっしゃる?困りますわねぇ、自分の程度が低いと、相手の程度まで低いと思い込む……」


「「き、貴様ぁ?!」」


いきり立った領主とギルド長は、机を思い切り叩いた。


ギルド長はどうやら、元冒険者らしく、強い力で長机を叩き割る。


そして領主は、側近らしい兵隊に剣を抜かせた。


「広域捜査権を持つ王都の『特捜騎士』……、通称『断罪騎士団』に証拠を送りつければ、貴方達は終わりです」


「「やらせると思うか?!」」


「わたくしは、古い活劇の悪役ではないのです。貴方達に妨害される危険が少しでもあるなら、こんな重大なことを得々と説明したかと思いますか?」


「「ま、まさか」」



「三十五時間前に実行しましたよ」


その瞬間、ここ……、冒険者ギルドの仮設天幕の中に、十数人の騎士が殴り込んできた。


赤いマントに、白い霜と交差する旗の紋章……。


「断罪騎士団だ!スワンケルド領主、スワンケルド冒険者ギルド長!貴公らには不正徴税及びその示唆の嫌疑がかかっている!ご同行願おう!」


大型のメイスとカイトシールドを構えたこの騎士達が、国内ならどの領地でも出入りして、捜査も逮捕も、処刑すらも独自判断で行える騎士団、断罪騎士団だそうだ。


「な、舐めるなァッ!俺は冒険者時代では、Aランクの腕前だったんだぞ!断罪騎士団がなんだ!」


ギルド長はそう言って、腰の袋から大型の斧を二本出す。


ああ、あれはアイテムボックスが付与された鞄、アイテムバッグというやつらしい。横からヤコが耳打ちしてきた。


「公務執行妨害確認!」


「断罪!」


「「「「断罪!!!」」」」


騎士達は、メイスに電撃を纏わせると、複数人で囲んでギルド長に向けた。


素早く、なによりも抜群のコンビネーションでうまい位置を取り、お互いが攻撃を受けないように工夫して攻撃する訳だ。


ギルド長は、自らの四方を囲まれて、更にターゲットを絞れないように動き回りつつも絶妙な攻撃をしてくる断罪騎士団に、徐々に対応できなくなり……。


「あ、ばばばばばば!!!!」


背中から電撃が迸るメイスを突き刺さすように押し当てられ、感電しながら倒れた……。


なるほど、電撃で感電させれば、死なずに確保できるかもしれない、か。


殺しても良いのだが、捜査のためにできれば生かして捕らえたいということなんだろうな。


「ぎ、ぐ、くく……!き、貴様らぁ……!」


領主は、油ぎった顔を茹で蛸のように真っ赤にして怒り狂う。


禿頭が真っ赤で、まさにタコだ。


「こうなっては仕方がない!帝国の連中から買い取ったこの魔力増幅剤で、ぶち殺してくれるわ!!!」


そう叫ぶと、領主は、赤黒い丸薬を懐から取りだし、ガリガリと貪り食った……。


「げ、げ、げ……」


怒りで紅潮した領主の肌は、どんどん血の気が引き、真っ白に。


人の肌の色から遠くかけ離れた、青ざめた白に変色していく……。


「な、何だこれは?!!!」


断罪騎士の誰かが叫んだ。


『げ、げ、げ……、げおろろろおおおおーーーん!!!!!!』


瞬間、意味不明な叫び声と共に、領主のシルエットが膨れ上がる。


そこには……。


『げげげげげげ!!!!』


セイウチのような分厚い皮膚をした、タコのような触手を頭から複数生やす、曲がりくねった鉤爪を持った、奇怪な化け物がいた。


「へえ、ホーンが多そうだ」


俺は喜んで剣を抜く。


そうでなくては、「わざわざ強化されるのを見守っている訳がない」というものだ。


エネミーを追い詰めると第二第三形態があるのは、ムーザランでは当たり前。


形態変化後に殺した方がホーンが多くなるのもまた当たり前。


でなければ俺が、あんなゆっくり変身タイムを見逃すはずがない。


ムーザランのクソエネミー共は、ゆっくり変身タイムに謎衝撃波や咆哮を放ってくるので、変身タイムをボーナスタイムと勘違いして殴り続けていると吹っ飛ばされて死ぬのだが、まあそれは良いだろう。


さあ、とっとと片付けて、ララシャ様にホーンを捧げるぞ。

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