第55話 存在崩壊死

「『暗黒属性やられ』だ」


「ぐああっ!」


「う、腕が!俺の腕がぁアッ!!!」


「足ィ!俺の足ぃい!!」


「暗黒属性の攻撃を受けると、攻撃を受けた部分が脆弱化し能力低下。そして暗黒属性やられゲージが蓄積する。ゲージが溜まりきると……」


「「「「ぁピ」」」」


「『存在崩壊死』……、特別な死亡演出が入って、即死する。そう、ちょうどこんな風に、風化して砂になるような感じにな」


おっと、もう誰も聞いていないか。




死んだ暗殺者共は、肉体の一部を残して黒い砂になった。砂鉄みたいだ。


さて……、あっさり不意打ちされて死んだ囮共と肉盾を蘇生せねば。


面倒な奴らだな……。


こんな程度の雑魚にやられるとは……。


歌唱術発動。

 

「A———、RA———、MAMA—MALCHE—、CuziR—Sahia—!U—Wana—!」

 

大いなる地母神マルシェよ、畏み申す。


眠りを醒す光の指先。

 

旅人達に御手を触れ給え。

 

《死者蘇生》


胸に穴が空き、瞳孔が開き切って、ついでに股からも尿を漏らしているシーリス。こいつ毎回漏らしてんな。


床に流れた血の滲みがうねり、傷口に吸い込まれてゆく。


まるで、渦巻のように回転しながら失った血が補填された後は、穿たれた肉が沸き立つように盛り上がる。


「がっ!がっはっ!ゴホッ!はっ、はっ、はーっ……?!!」


息を吹き返したシーリスは、四つん這いになって咳をする。


気管に詰まった血の塊を吐き出したようだった。


「は……、は?え?わ、わ、私!し、しっ!死ん、死んで……?!!!」


何かよく分からないことを言っているが、無視して囮共と肉盾を蘇生してやる。




「そ、蘇生魔法……?!!!それが許されるのは、ディバイン教の『聖人』だけでは……?!!」


なんかごちゃごちゃ言っている囮共を連れて、俺は四階層に戻り、四階層のボスを周回し始める。


転がる三匹のデブ以外で周回するのは癒しだな……。


デブはもう嫌だ。


イギリスの諺に、転がる石に苔は生えないと言うものがあるが、ムーザランには、転がるデブには草も生えねえ、という格言がある。


何を隠そう、この俺が作った。


周回中毒者御用達のダンジョン、コードOpP4i8a1(通称オッパイパイ)のボスである三匹のデブの部屋前には、俺がSNSで呟いた「転がるデブには草も生えねえ」という格言が死ぬほど落書きされている。


拡散、というやつだな。


有名プレイヤーや実況者を口汚く罵り、オンライン対戦の様子を晒し上げ、失言やつまらんギャグを言えば即拡散……。


素晴らしいムーザランの風物詩だ。


滅びれば良いのに。いや、滅びかけなんだけどな。


むしろ滅びて当然だあんな世界は。


ララシャ様以外全部クソだな。


ララシャ様は、今あるムーザランの全てを薪にして、新しい世界を創造しようとなさっているだけだから、他の狂人共と比べればまともなんだよな……。


それなのに、ララシャ様に協力することを公言すると、ほぼ全てのNPC共が敵対してくるのだ。あいつらはクソである。


ララシャ様の作る新たな世界の養分になれるのだから、喜んで死ぬべきでは?馬鹿の考えることは理解できない。


さて、四階層のボスであるグリフォン?だったか?


それを軽く百回ほど周回して倒した。


人の握り拳二つ分はある魔石が、百個。


これは高く売れそうだ……。


金ができたらララシャ様にお貢ぎしたい。


ララシャ様に相応しい食事を用意して、ララシャ様に相応しい寝床でお休みになっていただき、ララシャ様に相応しい娯楽を楽しんでいただきたい……。


俺は、明るい未来に想いを馳せながら、魔石を抱えて帰還した……。




ギルドに行ったが、相変わらず全壊していた。


ご都合主義まみれのつまらんファンタジー世界なのだから、よく分からん便利な魔法やら何やらでパッと直してほしいものだ。


とりあえず、全壊したギルドの隣にある、天幕の中に入る。


「「「「ヒェッ……」」」」


そこにいた冒険者共は震え上がり、一歩も動けなくなるが……、俺の知ったことではない。


俺は、長テーブルが置かれているカウンターに、魔石を叩きつけた。


「売る」


「ひっ……!は、はいっ!」


受付は女だ。


前の受付は俺が殺したからな。


どうやら新人らしく、十代後半程度の若い女で、胸の名札には『研修中』と書かれていた。


ああ、そうだ。


「それと、ダンジョン内で人型エネミーに襲われた。エネミーは、部位提出をすると金がもらえるんだったな?」


「ひ、人型のモンスターですか?えーっと……、確か、四階層では人型のモンスターは出ないはずですが……?もしかして新種ですか?!部位提出をお願いします!」


そう言われたので俺は、辛うじて残っていた肉片を提出する。


さっきの暗殺者の顎、眼球、指、顔の皮など、適当に剥いできたのだ。『存在崩壊死』によるものなので、ところどころが暗黒属性で黒く変色している。


「う、うぉおえ……!!!」


すると、受付の新人女が、いきなり嘔吐してきた。


何だこいつ、気持ち悪いな。


机の上の書類に、ドブ色の吐瀉物が撒き散らされて悪臭を放つ。


「ニーナちゃん!」


奥から複数の職員が出てきて、受付女を介抱する。そういう茶番はいいので、早く報酬を出してほしいのだが。


「さ、殺人は犯罪ですよ?!」


誰かが叫んだ。


「エネミーだろ?エネミーは殺すだけだ」


面倒な……。


エネミーとエネミーではない奴の違いなんてないだろうに。


仮に、相手がエネミーではなかったとしても、悪意を持って襲い掛かってきたのならそれはエネミーだ。


相手がハゲの盗賊でもない限り、一度刃を向けてこれば、土下座しても何をしても許されない。いや許してはいないけどなあのハゲも。


アイテムを捧げて贖罪しても、決定的な敵対をすれば無意味なのだ。


やはり、敵は殺すしかない。


「お待ちを。この、手の……残骸に握られているのは、『記録水晶』かと。こちらを見れば、事件性の有無が確認できます」


と、横から肉盾ジジイ。


なるほど?


俺も大体分かってきた。


記録水晶が何なのかは知らないが、語感的には、映像か音声を記録するものなのだろう。


これなら……。




『記録、メウィの月、二十日。我々は、ブラックマンズ精鋭部隊のアンブロウズ。目的は、我々に逆らう愚か者を抹殺すること……』

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