第54話 暗黒の呪い

さっさと終わらせよう。


俺は、ダンジョンの四階層の攻略を始める。


四階層からは、見た目が洞窟ではなく、煉瓦造りの迷宮となっていた。


どこも同じような景色が続く為、迷いやすいらしい。


例え、壁に傷や印をつけても、ダンジョンの特性により、すぐに治ってしまうそうで、『マッピング』……、つまりは地図記録が重要なんだとか。


「任せてよ!レベルが上がって、マッピングのスキルを覚えたんだ!」


とはアニスの談。


ふむ?


スキルを覚える?


俺は、エネミーを適当に蹴散らしながら、アニスに訊ねた。


「スキルとは、どうやって覚えるんだ?」


「へ?そりゃあ、勉強と練習でしょ?あとは、レベルが上がると覚えやすくなるとか……」


ふむ……?


「一説によると、レベルが上がってステータスが上がると、スキルの習得条件が満たされて、スキルを覚えられる状態になるんだとか……」


クララが横から口出し。


「なるほど、それは理解できる。ムーザランでも、要求能力値とはよく聞く言葉だからな。だがそれなら、今あるステータスで覚えられる限りのスキルを全て覚えていけば、簡単に強くなれるんじゃないか?」


「はぁ……。エドはバカですね!そんなこと、普通の人にできるはずないじゃないですか!」


横からシーリス。


「あ"?」


「ひっごめんなさい」


まあ良いや。


「スキルを覚えるにもセンスが必要なんですよ。無理に向いていないスキルを覚えようとしても、中々覚えられないものなんです」


クララがカットイン。


なるほど、センス。


またフワフワとした単語が出てきたな。


全てが適当で惚れ惚れとする。


こんなのゲーム化したら大顰蹙なんじゃないだろうか?


「一応、ある程度の傾向や習得条件は分かっている感じですよ?」


「因みに、『ちずさくせい』のスキルは、かしこさ150以上の斥候系なら大体は覚えられるみたいだね」


へえ、そうなのか。


一切興味はないが。


スキルだなんだとアホくさい。


迷宮の道を暗記するなんて、基本中の基本だろうに。


それに、特別な能力を使わないとできませんなどと……、無能を喧伝していると同じだ。


まあ、こいつら囮達には、エネミーのタゲをとってもらうこと以外、一切何も期待していないので問題はない。


知識?話し相手?全て不要だ。


邪魔するやつはみんな消してしまえば良いのだから……。




「あっ!いけません!ファングタイガーです!ファングタイガーは大型の獣モンスターで、その顎は鋼鉄すら」


瞬殺した。


「レッサードラゴン?!危険です!低級とは言え龍種で」


瞬殺した。


「キラーロボットです!腕の連装銃が」


瞬殺した。


「「「「「………………」」」」」


「どうした?早く進むぞ」


「「「「「あっはい……」」」」」


なんだこいつら?


「また、寄生がどうこうとか言ってるのか?」


「それは、そうですけど……」


「気にするな」


「でも」


「最初から、お前らに価値なんてこれっぽっちもないんだ。気にするだけ無駄だぞ」


「「「「「ひ、酷過ぎる……!」」」」」




そしてついに、四階層のボスである……、なんだったかこれは?


「グリフォンです……」


ああ、そうそう。


グリフォンとやらを始末して、俺は五階層へと足を伸ばした……。


すると。


黒い仮面、黒いフード付き外套、黒い曲刀。


変態集団が五階層の入り口を包囲しており……。


「いぎゃ」


「なっ」


「あ」


「ぐっ」


「あぁ」


囮共が全員殺された。


ったく……、動きが悪いからよお……。


肉盾ジジイはどうにか生き残ったようだ。ふむ、やるな。


にしても……、はぁ……。


「……我々は、ブラックマンズ精鋭部隊『アンブロウズ』だ。我々に逆らい、ここまでの損害を出した貴様は許されない。死んでもらうぞ」


「また三流野郎かよ」


敵と会話するとか、それは文化人のやることで、暗殺者としてはド三流もいいとこだ。


一流は姿と音と匂いを隠して忍び寄り、いきなり囲んで棒で殴ってくる。カスがよ……。


だが、ああ、まあ、確かにマシなんじゃないか?


一人一人が、0.8肉盾ジジイくらいの能力はあるし、最低限のコンビネーションも取れている。


……で、こんな程度で?俺を?


……殺すって?


馬鹿じゃないのか。


いや、ギャグとしては結構面白いかもしれない。


「しかし、喜劇をやるならば、最後には道化共には退場してもらわねば片手落ちだな」


俺は、ただのショートソードを抜き放った。


「死ね……、冒険者!」


「御託はもう良いぞ、同じギャグも何度もやると飽きてくる」


「舐めるなよ……!確かに貴様は強い、それは認めよう。だが、この閉所においては大規模な魔法は使えない!そして貴様は、グリフォンと戦い疲労している!」


何言ってんだこいつ。


「喰らえ!『ダークボルト』!」


「「「「『ダークボルト』!!!」」」」


暗黒属性らしき光線が、回避不能な物量で放たれる。


あ、肉盾ジジイが……、何発か切り払ったが、受けきれずに死んだ。


一方で俺は全て切り払い、ついでに軽く光線に触れる。


何だこれ?


暗黒属性かと思いきや、八割は魔呪属性じゃねえか。


馬鹿らしい、黒い光線なのに見た目だけで、殆ど暗黒属性ではないとは。


「馬鹿な……?!何故生きている?!」


「それが分からないから三流なんだよ」


そう言いながら俺は、ショートソードの樋に素早く文字を書き入れる。


理力を込めた指先が描く文字列はこう。


———昏き闇来たり。


《暗黒付与》


その名の通り、文字を書き入れたものに一定時間暗黒属性を付与するという単純なルーン術……、呪術だ。


エンチャント、と言えば分かりやすいだろうか。


呪術というのは、ルーン術の分岐系統の一つ。


さあ、これで……。


斬りつける。


ただ力任せに。


素早く、ただ素早く。


0.8肉盾ジジイの実力を持つ暗殺者共は、反射的に手持ちの曲刀を構えて防ぐが……。


「な、何だ?!ち、力が、抜ける……!ぐああっ!!!」


暗黒の刃に触れると、曲刀は砂のように風化して崩れてゆき、暗黒の波動に晒される暗殺者達の衣服や肉体も萎れて……。


抵抗する力を失い、倒れた……。


全ての力を『虚無』へと誘う。


これこそが、暗黒属性の特性である……。

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