第53話 月にキスマークを

ギルドの建物の再度破壊により、罰金の額が三倍に増えた。


が、まあ、こんなものは誤差だ。


四階層のボスをマラソンしたら、ダンジョンアタック数回で全額返済できてしまったからな。


罰金制度って最高だな!


それってつまり、金さえ払えば何をしたって合法ってことだろう?


あまりにもお得だ。


建国王ヨシュア様様である。




さて、ブラックマンズだが。


あの後、散発的に暗殺者的なのを差し向けられたが、特に問題はない。


「大有りですよね????」


「いや、ない」


「有りますよぉ!お陰で私達、スティーブンさんを除くパーティメンバー全員が、一つの部屋で雑魚寝しなきゃならなくなったんですから!!!」


「嫌なら自分の部屋に戻れば良かっただろう」


「だーから!貴方が大暴れしたせいで、暗殺者が来てるんですよぉー!!!」


「大した奴は来ていないぞ?自分で倒せば良いだろう」


「そりゃあ、エドみたいに、暗殺者を見つけて殺し返せるならそれで良いんでしょうけどねぇ?!でも、私達にはできないんですよぉ!!!」


「そうか」


知らんが。


「しかし……、エドワード殿は強いな。ブラックマンズから差し向けられた刺客の中には、冒険者ランクで言うB相当の存在も多かった」


「そうか」


どれも一撃で殺せたが。


「存じ上げているだろうがあえて言おう。傭兵の強さは、冒険者のそれとは違うのだ」


そこそこ出ている胸を張って、そう講釈するナンシェ。


「冒険者の主な相手はモンスターだから、自然と、大型武器を叩きつける力技になることが多い。何せ、モンスターは大体は、碌な知能がないからな」


ふむ、そうだな。


「だが、傭兵は違う。傭兵の相手は基本的に人間だ。人間は、ほんの一寸、首筋に刃を食い込ませれば死んでしまう脆い生き物だが……、武術を鍛えた人間は、モンスターよりもある意味では難敵になる!」


確かにそうだ。


「対傭兵と考えれば、冒険者ランク換算なら、プラス一段階上と思っても良いくらいだ。それを、こうも簡単に片付けるとは……」


そんな、恐れ慄いた、と言った顔でこちらを見られてもな。


対人高レート帯ではあの程度、ゴミ以下だ。


レジェンズアニマの高ランク集団は、リアル剣豪などの化け物揃い。


俺達『聾の者』は、ガチの剣士などと本気でやり合ってきたのだから、格が違うぞ。


現代のVR技術と言えば、思考入力のラグは極限までゼロに近い。


更に、VRならではの技術を使って、仮想空間故の本気の殺し合いができるから、下手すれば中近世よりも殺し合いの武技は発達していると専らの評判だ。


あー、つまりだな……。


二十三世紀のVRゲーム、仮想空間では、ほぼ完全に電脳空間で現実世界をエミュレートできる訳で。


その、電脳の仮想世界で、現代人百億人が、好き勝手に武術を磨いているんだよ。


ゲームなのに、現実のように痛みや欠損などをオンにできる、超リアルな空間で殺し合いができて……。


そしてゲームだから、死んでも何度でもやり直せる。


例えるならば、北欧神話のヴァルハラだろうか?


戦士(プレイヤー)達が日中はノリノリで殺し合いをして、明日には復活し、また殺し合い、武術を鍛えていく……。


そんな時代に生きた俺達は、その辺の小中学生でも武術のブラックベルトレベルの能力があった。


その中でも、レジェンズアニマのようなビッグタイトルの上位層となると、リアルでは剣術のインストラクターであるなどの、本当のプロであることが殆どだ。


そのプロと渡り合い、ランク一位を維持していた俺が、その辺の雑魚に負ける訳がないだろう。


こちとら、三歳の頃からおっさんになるまで、ずっとVRゲームの世界で戦い続けてきたんだぞ。そして、ムーザランで何百何千年もやってきたしな。


「しかし、その若さでそれほどの剣技……、どうなっているのか聞きたいものです」


スティーブンが来た。どうやら、差し入れを持って来てくれたようだ。


差し入れは……、中華まんみたいなの?


なにこれ?饅頭とあんぱんの中間みたいな……。


まあ、あんこと、バターの風味が香るパン部分が合わさって美味いんだが。


「ああ、こちらは、赤狐商会で経営しておりますコンビニ『コンコンマート』の新商品、あんバタまんパンケーキでございます」


饅頭なのかパンなのかケーキなのかはっきりしろよ。


……どうでもいいか、興味がない。いや、味は美味いが。


「そうか、美味いぞ」


「ありがとうございます、お嬢様にお伝えしておきます……。して、その実力の秘密についてですが」


「なんてことはない。俺は死んでも蘇るから、それを利用して常に自分より強い存在と戦い続けただけだ。数百数千年、ずっとな。そうすれば、才能がなくともいくらでも強くなれる」


「……なるほど」


俺は、ボウガンを取り出して、引き金を引いた。


「ぐあっ……?!な、何故……?!」


胸にボルトが突き刺さった男が、窓の外で倒れる。


また、暗殺者だ。


「全く……、大したホーンもない癖に、出てくるなよ。RTA勢に殺されても文句言えんぞ」


俺はそう言いながら、ボウガンを懐にしまった……。


「「「「「………………」」」」」


周りの奴らが凄い顔をして黙り込んでいるのスルーして、俺はテーブルの上の焼き鳥を口に運ぶ。


うむ、美味いじゃないか。


この飯の美味さは、この世界に来て一番嬉しいものだな。


ムーザランもまあ、肉とかは結構美味いんだが、聾の者は基本的にバフアイテムしか食わないから……。


「美味いか?」


おお!ララシャ様!


「ええ、非常に美味でございます。ララシャ様が仰られておりました『穏やかな生活』というものが、段々と分かってまいりました……」


「ふふ……、そうか。愛い奴よな、お前も」


「ああ、ララシャ様……。俺も、貴女様を心より愛しております……」


「うむ……。幸せに、幸せになれ、我が剣。事こうなっては、私に望みなどないのだから。私の為に身を粉にして働く必要は……」


「そんなことを仰らないでください。俺は、ララシャ様に、全てを捧げたいのです……」


「そうか……、なら、共に在ろう。お前が終わるまで、共に……、永遠に……」


「ララシャ様……」


俺は、振り返らずに投げナイフを後ろ手で飛ばした。


「ぐああっ!く、くそが……!」


裏口から入ってきた暗殺者の心臓が貫かれる。


「あの……、人殺しながらラブシーンやるのやめてもらっていいですか????」


うるさいぞ、野良犬魔法使い。今良いところだろうが、空気を読め。

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