第52話 囲まれた狂人
冒険者ギルド。
換金した金の分け前を囮共に押し付けて、さあ宿に帰るか、となったのだが……。
「待てよ」
ぞろぞろと、黒尽くめの男達が出入り口を塞いできた。
「このまま帰すと思ってんのか?」
受付の男が偉そうにそう言う。
なるほど、実力行使ということか。
「そうですか」
特に困らない。
はあ、そうですか。
「調子に乗ってられんのもここまでだぜ?これを見な、呪術師ぃ!!!」
……は?
呪術師?
俺が?
俺はスタート時のキャラクリエイトで選んだのは、生まれは『忌むべきもの』で職業は『放浪者』だったんだが……。
呪術師は確かに、呪属性の歌唱術である《呪いの波動》と《怨霊の手》が強力だが、序盤じゃあんまり使えないんだよな。上級者向けだ。
俺が脳内でそんな独り言を言っていると、黒づくめの男達は胸元を見せつけてくる。
そこには、白色の花を模ったタリスマンがあった。
「そ、それは!『ディバイン教』の聖なる守りの力が込められたタリスマンの……、『聖なる雛菊』ではありませんか?!何故、貴方達のような傭兵組織が?!!」
クララが叫ぶ。
ディバイン教というアホみたいな名前の宗教は、勇者の教えとこの世界の雑多な宗教が統合された宗教で、この国の国教だ。
ブラックマンズのような傭兵風情が、そのディバイン教の特別な装備を持っている。これはおかしいぞ、ということらしい。
「ククク……、俺達の力を甘く見るんじゃねぇよ!これで終わりだなあ、呪術師ぃ!」
ふむ、なるほど。
だが、一つ疑問がある。
「何で俺が呪術師だと思うんだ?」
「ハッ!タネは割れてんだよぉ!三階層のボスは『ハイ・レイス』!物理無効の幽霊だ!ゴースト系モンスターには、光属性が有効だが……、呪いによる攻撃もそこそこに効く!つまり、そういうことだろ!!!」
……どう言うことだ?
「それに、何だか知らんが、最初にギルドに来た時、呪いを使っただろうが!自分から手の内を晒すなんて、冒険者ってえのは本当に馬鹿ばっかりだぜぇ〜!!!」
あー……。
「あれを攻撃だと勘違いしたのか?」
「何、だと?」
そうだったな。
前に、冒険者ギルドに来たばかりの時に、ムーザランのやり方でダンジョンを開こうとして、付近一帯が呪われただとか何だとか言ってたな。
それで、俺のことを呪術師だと勘違いしているのか。
「何だ、他人に馬鹿だの何だのと言う割に、お前らの方が馬鹿じゃないか」
「な、何だとぉ?!!」
まあ、どうでも良いか。
「で、話は終わりか?」
「話せない身体にしてやるって言ってんだよこっちは!!!」
そうですか。
「じゃあ、とっととそうすれば良いだろうに。とにかく、俺は帰るぞ。帰ってララシャ様とお喋りをするという崇高な使命があるからな」
そう言って、俺は。
剣を構える受付の男の横を、ララシャ様を抱っこしながら横切った。
「テメェ……!そんな気色悪いなまっ白いガキがなんだってんだ?!舐めんじゃねえ!!!」
「……あ"?」
何だ、こいつ。
何だ?
何だ?
まさか、こいつ。
「貴様ァ……、おぉ、俺の、俺の美しきィ……、至高の姫君たる、ララシャ様をォ……!侮辱、したかぁ?!!!」
「な、何だこいつ、いきなり何を」
「薄汚い盗人風情がァ、我が、ァァア……、伴侶をォ!!!我が姫をォォ、侮辱したのかァアアア!!!!!!」
「「「「ひっ」」」」
「殺す」
「A———、RA———、MAMA—GRANA—DA—、GAsto—zIa—、WawA—nDa—mA———!!!」
大いなる冥王グラナダよ、畏み申す。
生者を呪う怨みの大腕。
聖なる全てを、呪い給え。
《冥王グラナダの腕》
大きな、大きな。
骸骨の腕だ。
白骨の腕には、青白い血管が浮かんでおり、悍ましく脈動する。
そして、その白骨に、蛆虫のように黒い呪いが、物質となるほどに濃厚な呪いが、夥しい量絡みついていた。
「あ、ああ、あ……!」
「う、おげえええっ!!!」
「ひっ、あ、ああ……」
泡を吹いて、失禁しながら倒れる囮共。
ブラックマンズと名乗るクソ虫共も、恐れ慄いて倒れ込んだ。
だが、許されん。
追加詠唱……。
「NagOLos———!!!」
骨の腕を操作して、薙ぎ払う。
冒険者ギルドが吹き飛び、呪いの飛沫があちこちに飛び散った。
物質化したほどの濃厚な呪いは、「ただ其処にあるだけ」で全てを侵す。
赤黒い呪詛溜まりが、怨霊を呼び込み、怨恨の炎が噴き上がる。
「ァアアアアアアア!!!!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!!」
殺す、殺し切る。
ただではおかん。
そうやって暴れる俺に、ララシャ様は……。
「ふふふ、そうか。私が侮辱されると、怒るか……。これこれ、そこまでにしておけ」
「はぁい!」
と、お止めになられたんで、やめた。
「愛い奴よ……、全く。だが、これでは今後の仕事に支障が出るのではないか?」
「誠に、その通りでございます!すぐに片付けますねっ!!!」
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