第50話 クリアだけならキッズでも
そんな訳で、三階層に挑戦することになった。
何か知らんが囮共にも戦わせないといけないらしいな。
なので、適当に厨装備を持たせておいた。
最大強化された厨装備なら、キッズが振り回してもどうにかなるからな。
この手の厨装備は、RTA用か、もしくはどうしてもボスに勝てない人向けの救済措置みたいなもんだから、俺はあまり使わない。
それに、対人高レート帯では100%対策済みだから意味ないんだよな。
あくまでも、何度もリトライできるゲームの世界で、何をしても戦法を変えてこないボスを倒せる、ってだけの話だ。
対人だと、高Tierなビルドが出回ると、すぐそのメタビルドが流行して……のいたちごっこだったからな。
だから最終的に、自分が一番自信があるビルドを極限まで極めて一点突破するか、万能型になるかの二択だった。
因みに、俺は万能型だな。
まあその辺はどうでもいい。
とにかく、これで雑魚共もある程度使い物になるはずだ。
端っこの方で申し訳程度に武器ぶんぶんさせときゃそれで良いだろう。
低ステータスな連中にいい装備を無理矢理持たせた訳だから、律珠枠は全部『装備制限緩和』で埋まってる。
律珠っていうのはアレだ、アクセサリー枠……?いや、武器に嵌めるタイプの……、何だろうか、珠?
別に、使う魔法を「ぜんたいか」とか、黄色い「いのり」の玉とかがある訳じゃない。尚、ムーザランでは縋る神は全て狂って暴れているがそれは余談だ。
律珠ってのは、指輪などの自身に補正をかけるアクセサリーとは異なり、武具そのものに補正をかけるアイテムだ。
三つまで武器に嵌め込むことができ、その効果は例えば「攻撃力◯%アップ」「獣に対して攻撃力◯%アップ」「技量補正一段階増加」とかそんなん。
その貴重な強化枠を、「装備制限を緩和する」珠を三つ嵌めて潰してあるものを、囮共には渡した訳だな。
故に、理論値の最大火力は出ない。
が、固定砲台くらいにはなるはずだ。
三階層。
更に広い迷宮で、長物も余裕を持って振り回せるだろう。
その分、トラップも大掛かりになっているらしく、ブービートラップの類の他、「移動する壁」や「モンスターハウス」などがあるとのこと。
俺は適当に、ロングボウで援護しておこう。
《ロングボウ》
《兵士が使う標準的な長弓。
単純な機構のそれは、単純故に信頼性が高く、技量をもって使いこなせば、何よりも頼もしい武器になるであろう。》
寄生とかいうのが駄目らしいので、申し訳程度に戦わせておけばいいだろう。
「インプだ!奴らは小さいが、かなり魔法が達者だぞ!気をつけろ!」
ナンシェが叫ぶ。
そして、かわいい小悪魔さん達が「キキー!」とか言いながら出てくる……。
何度も言うが、ムーザランの地獄みたいな暗鬱グロテスククリーチャーと比べれば、こちらの世界のそれは酷く可愛らしい。
明らかに悪意がある、制作会社のCGデザイナーの歪んだ人格が垣間見えるようなデザインと違って、こちらの世界のエネミーはマシな造形だった。
まあ殺すんだが。
「任せて!」「行くにゃー!」
アニスとランファが前に出る。
「「武技発動!」」
そして、武技を発動する。
俺がいつもやっているのは、武器に備わる「武技」を、その武器でない別の武器で再現する高等テクニック、「武技再現」だ。
逆に言えば、ムーザランの武器を持てば、武器一つにつき一つ、「武技」を……。
所謂、「必殺技」を使えるのだ。
当たり前だ、そうじゃない限りクリアできない。
厨装備を持ち、地道に強化して、オンラインで仲間を呼び、囲んで棒で殴れば、キッズでもクリアすることだけなら容易なのだ。
周回するたび難易度が上がっていくことと、一部の対人勢が極まっていることを除けば、実はクリアするだけならそう難しいことではない。
フォミ通のレビューでも40点を出した良ゲーなのだ、そこまで極端な難易度設定ではないとも。
周回、全ては周回が悪い。
周回すればするほど、全プレイヤーのプレイデータというビッグデータが共有され解析され、ディープラーニングによる超強化が行われて、NPCがどんどん強くなっていくだけだ。
理論上、百周以上は人間ではクリアできない難易度になるらしい。
俺は少なくとも一万周はしたが。
さて、そんな訳で、この世界のような一周目基準の難易度では……。
「『影獣の構え』!そして、『影潜り』!更に、『影の刃』!」
「『星体化』!『星体の飛刃』!」
厨装備は、信じられないほどに有用だった。
アニスに与えたのは『ジェヴォーダンの牙』……。
影の魔獣ジェヴォーダンの牙から作られた「伝説の武器」の一種。
影と同化することができるボスエネミー、立場的には夜の女神の護衛であるジェヴォーダンの特性を持つ厨装備だ。
効果としては、武器を逆手に持つ特定の構えの時に、影のオーラが立ち上る。これを「影獣の構え」という。
その構えの状態で移動をすると、一番近い影に転移、ワープする。これが「影渡り」だ。
そして、「影獣の構え」の状態で、影のオーラを掬い取るようにして敵に叩きつけると、暗黒属性が付与されて、影の刃でリーチが伸びる。これが「影の刃」。
「影渡り」で奇襲して、「影の刃」で暗黒属性の連続攻撃をぶん回せば、キッズでも楽勝という訳だ。
「影渡り」よりも寧ろ「影の刃」の方がぶっ壊れで、短剣の重さで長剣の長さがある物を、刃筋もクソもなくぶん回すだけでどんどんダメージを与えられるのがヤバい。
これは要するに、暗黒属性のライトセーバーみたいなもんだからな。
刃筋の立て方も知らんキッズ共の御用達だな。
そして、ランファに与えた『星体界の秘爪』もまた、かなりの厨装備だ。
上位次元世界たる星体界(アストラル界)の物質で作られているその爪は、相手の盾や鎧をすり抜けて、肉体のみを斬り刻む。
特に、肉体をアストラル体に変化させる「星体化」は事実上の無敵モードだし、アストラル体の刃を飛ばす「星体の飛刃」はガード不能遠距離攻撃の代表格だ。
これもまた、半エネルギー体のような半物質の刃だから、刃筋もクソもなくブンブン振り回すだけで効果がある。
何度も言いたいが、刃筋を立てて人体を斬り裂くというのは、実は高等技術なのだ。
基本的に初心者は、メイスか槍を使った方がいい。
ムーザランの第一エリアである『再誕教会』にゾロゾロいるNPC共にお願いすれば、戦闘訓練をやってもらえるぞ。
『墓探しのアームル』が特に優しいのでおすすめ。
逆に、『漆喰のサイゴーズ』は初心者にはおすすめできんな。あのサイコパス野郎の訓練は死ぬほどスパルタだから。まあ逆にサイゴーズおじさんに勝てれば、本編で事故死はしないってことにはなる。因みにこれをサイおじチャレンジと言う。
ついでに言えばサイゴーズはイケメンで、アームルはブサイクだ。つまり、イケメンに教えを乞うと酷い目に遭う訳だな。制作会社の人格の歪みが見て取れる。
……とまあ、そんな感じで。
囮共が申し訳程度に戦って、三階層を攻略していると……。
「おい!お前ら!そこで止まれ!」
黒尽くめの男達に足止めされた……。
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