第49話 厨装備
「『寄生』とは何のことだ?」
「寄生というのは、弱い人が強い人に連れられて、レベル上げやダンジョン攻略をすることですよ」
シーリスが言った。
なるほど、意味は理解できる。
強い奴に寄生して、経験値という名の養分を分けてもらうってことだな。
つまりそれは……。
「お前らじゃん」
「「「まあ……、そうですけど……」」」
囮一から三号がそう言った。
「僕達は、寄生にはなりたくないですにゃ」
「そんなことをすれば、悪い評判が立って、冒険者としてやっていけなくなるからな」
恐縮するように小声で言ったランファ、腕を組みながら目を伏せるナンシェ。
なるほど……。
そういえば、人間社会では「社会的地位」みたいな言葉があったな。
薄らと残っている地球の知識……。
確か地球では、「キリスト教」とかいう宗教がかなり昔から流行っていたと思う。
そして、街の人々は皆、そのキリスト教の教徒。生まれてすぐに洗礼され、そのキリスト教に帰依するみたいな話があったはず。
で、別の国の人、つまりは「異教徒」には、何をやっても許されるとか。
更に言えば、悪いことをしたキリスト教徒は、「破門」というのをされて、キリスト教の加護から追い出され、「異教徒」と同じ扱いになる、と。
要するに、「社会的地位」とは「人権」に相当する訳だ。
「こんな、大勢の冒険者がいるところで露骨に寄生行為なんかをやれば、回状が回って干されちゃいますにゃ」
なるほど……。
俺は、囮一、二、三号を見る。
「「「干されてます……」」」
ああ、そうなんだ。
「そもそも、私は最初から干されてましたし」
とシーリス。
確かこいつは、極貧過ぎて魔導書を買う金がなく、魔法がろくに使えない魔法使いだったから干されていたな。
「あたしは半分スリだし……」
アニス。
そういや、こいつはコソ泥だったな。
「私は立場的に、組んでくれる人が……」
クララ。
勇者パーティ?だったか。よく分からんがネームバリューが大き過ぎるってことか。
「お前ら、俺を散々に異常者扱いするが、その実、俺に養われないとまともに働けないんだな」
「「「うぅ……」」」
まあ別になんでも良いが。
小間使い兼囮なら、三匹いても持て余さないだろう。
「とにかく、そんな訳で、もうこれ以上は……」
おっと……、抜けられるのは困るな。
「では、どうすればいい?」
俺は訊ねた。
面倒臭いお使いクエストはやめてほしいからな。
ムーザランのカス共は馬鹿みたいに勿体ぶるから、一度で終わるお使いを何度もやらされる。
一回で言え一回で。
そのアイテム、道中で拾ってこれただろうが。
あと、アイテム手に入れて戻ってきたら死んでるのマジでやめてくれ。
「い、いや、エドワードさんの問題じゃにゃくて、僕達が悪いんですにゃ……」
「修行を積んで力をつけることとする。いつか必ず再会しよう……」
んー……。
要するに、こいつらを手っ取り早く強くすれば良い訳だ。
で、あれば。
俺はインベントリを開いて、言ってやった。
「なら、手っ取り早く強くなってもらおうか」
「あ、あの、エド?こ、これ、良いんですか?」
シーリスの手には、杖があった。
捻れた龍骨、その一片に、縦に割れた黄金の龍眼が宝玉のように埋まっている。
《魔龍の杖》だ。
「これ、絶対に高価なやつ……」
アニスの手には、短剣があった。
黒い刃の、牙を削り出して作られた短刀。湧水のように暗黒の闇が溢れて、刃を濡らすように影を漂わせている。
《ジェヴォーダンの牙》だ。
「うわ……、何ですかこれ……?聖剣並みの神器……?」
クララの手には、錫杖があった。
幾何学的な鋭角の平面で構成された、人の右腕の骨を模した杖で、掌の部分には青白い水晶の連なる半月状の飾りが握られている。
《聖王の右腕》だ。
「こここここ、こんな、凄い、もの、良いんですかにゃ?!!!」
ランファの手には、鉄爪があった。
この世に存在しない幽玄的な、上位世界の薄刃。青白くぼんやりと光る星体界物質(アストラル)の爪。
《星体界の秘爪》だ。
「こ、これ、は……?!ど、どこかの国宝だったりしないか?貰って大丈夫なやつなのかこれ????」
ナンシェの手には、弓があった。
ムーザランの調和そのもの、「原初の旋律」を讃える為の神具である、火廣金(オリハルコン)の黄金弓。
《黄金律の弓》だ。
「……なるほど、理解いたしました」
スティーブンの手には、刀があった。
黒一色の刃、柄に赤布が巻かれた、鋸刃の打刀。神殺しの力たる深淵の蒼闇が纏わりつく。
《神斬丸》だ。
「全部最大強化してるし、バカが振り回してもそこそこ強いやつだから大丈夫だろ」
さあ、とっとと行くぞ。
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