第45話 2m以下は子犬判定

「ゴブリンライダーだよ!」


アニスが叫ぶ。


ゴブリンライダーと呼ばれたそれは……。


「小ぶりな犬に乗った小人さん、か?」


「目と頭大丈夫です????大型の狼に乗ったゴブリンですよ!!!!」


シーリスが横から俺に引っ付いて叫ぶ。


「大型の……、狼?」


ムーザランでは、大型と言えば10mはないと……。


大体にして……。


『『グオオオオ、ガッ?!!!』』


「こんな閉所で騎乗とかアホでしょ」


小回りが利く方が有利な閉所のダンジョンで、わざわざ嵩張る犬に乗り、長柄武器振り回してるとか、こちらを舐めているとしか思えないんだが。


武技もルーン術も歌唱術も使う必要がない。


ただ、真正面から、ショートソードで叩きつけるように斬り伏せた。


ホーンは……、50かよ。しょっぱいな。


「エドワード様!危ないっ!」


背後でクララが叫ぶが……。


俺は振り返らずに、手首の返しだけでナイフを投げつける。


音の壁を容易に突き破ったナイフは、子犬の腹を突き破り、小人の股下から下腹部を破壊しながらダンジョンの石壁に突き刺さった。


「えぇ……?何でダンジョンの石壁にナイフが刺さるんですか……?」


「そりゃ、ただの石くらい斬れなきゃムーザランでは生きていけないからな」


投げナイフを回収した俺は、そのまま先へ進む……。


「あっ、待ってよ!解体は?!」


アニスがそう言うが……。


「そんなカス、金になるのか?」


「そこそこお金になるよ!50Gくらいは!」


「ゴミだろ」


「むむっ!1Gを笑う者は1Gに泣くんだよ?!」


えっ何それ?そんな日本的な言い伝えがあるのか?


いや、これもどうせ建国王ヨシュアの仕業だろうな。


全く、碌なことをしない。


馬鹿共に無駄な知恵をつけさせるから、騙すのにも言い包めるのにも苦労する。




「後どれくらいあるんだ?」


俺は、肉盾爺さんにそう訊ねた。


肉盾……、名前は何だったか?


そう……、確か、スティーブンだったな。


スティーブンの爺さんに訊ねる。


「はっ、調査によると、十階層はあるとか」


「ふむ、面倒だな」


俺は、武器をショートソードから切り替える。


特大鎚の『ハンガラナの神殿柱』だ。


《ハンガラナの神殿柱》

《神官戦士、『清きハンガラナ』の持つ特大武器。

ハンガラナは、最も大きく、優しく、力強い戦士であった。

清貧であり、振るう武具も、崩れた神殿の柱を括り付けた棒であったという。

それは吝嗇ではなく、既に神秘を失った神殿の一部を共に連れてゆく、慈悲であった。》


「「「「………………は?」」」」


「ん?何を見ているんだ、早く行くぞ」


「い、いや、それ」


「これか?これは、ハンガラナの神殿柱だ」


「……人間何人分ですか、そのハンマー」


「三、四十人分だな」


「……何で持ち上げられるんです?」


「装備の要求するステータス(筋力50)を満たしているからだ」


さあ、とっとと行くぞ。




「モンスターが」


俺は、ハンガラナの神殿柱を軽く振るう。


直径三メートルはあろうかと言う円柱がついたハンマーは、唸りを上げて大気を押し潰し、エネミーに直撃した。


『ピギュ』


エネミーはミンチになった。


何のモンスターかは知らんが、ホーンは200だ。


悪くない。


当然、狭いダンジョンではハンマーが引っかかるが、無視して力ずくでぶん回す。


壁や床にクレーターを作りながら、エネミーをどんどん潰してゆく……。


そして、一階層のボスのところまで、一日かけてたどり着いた……。


ボスは、赤肌のゴブリンだ。


余談だが、ムーザランには、現実世界の神話や伝承に出てくるようなモンスターがそのまま出てくることはほぼない。


まあ、ドラゴンや巨人などと言った種族レベルではあり得るが。


それにしたって、「伝承そのままのモンスターを正直にお出しする」ようなことを、あの制作会社がやる訳はないのだ。


むしろ、伝承と同じ名前のモンスターだが、「性能が大幅に違う」ような詐術は使ってくる。


更に言えば、ムーザランには、ただただ薙ぎ倒される雑魚エネミーというのはそう多くない。


最弱エネミーであろう『亡者』であっても、発狂振り回しによる連続ヒットからの事故死などが充分にあり得るものだった。


しかし、ここのゴブリンなる小人は、事故死すら有り得ないレベルの雑魚だ。こんなでは、反撃してこない野生動物とそう変わらん。


だからこそ、ホーンも多くないのだろうが……、それはそれで困るな。


「レッドキャップだよ!あのモンスターは」


アニスが何かを言う前に、俺はレイピアを抜き放っていた。


《レイピア》

《主に、貴族達の決闘に用いられる刺突剣。

細く頼りないと蛮人に侮られる剣だが、貴き者達の使う流麗な剣技は、粗野な豪剣を容易く貫いた。

細身の剣故、扱うには高い技量を要求される。》


武技、発動。


「『貫通刺突』」


『ギャ……?』


赤いゴブリンの胸に、小さな穴が空く。


ほんの、親指程度の風穴だ。


『ア、ギ……』


力を失い、膝から崩れ落ちる赤ゴブリン。


「……弱いな、こんなものか」


この有様だと武技も要らんかもしれんな、これは。


「な……?!い、今、何をしたんですか?!」


「突いただけだ」


叫ぶ囮共を無視して、ホーンは……っと、おお!


何と500も入ったぞ!


だが、この効率ではマラソンをする価値はないな。


先に進もう……。

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