第46話 報告する老剣士

さあ、先に進もう!と思ったのだが、これ以上は食料が保たないとか何だとか言って連れ戻された。


しかし、ダンジョンは階層をクリアするごとに、踏破した階層にワープする装置がついているらしく、それを使えば二階層からリスタートできるらしい。


それならまあ、良いだろう。


打ち上げという訳で、冒険者ギルドの酒場……は閉鎖中なので適当な酒場に入って、祝杯を上げる。


「凄かったにゃあ!」


「うむ!素晴らしい戦士なのだな!」


猫人間のランファ、耳長エルフのナンシェ。


この二人の女に持て囃された。


「こんなに強いのに、どうしてFランクなのかにゃ?」


「特にデメリットがないからな」


「あの剣技はどこで習ったのだ?」


「使い手に千回くらい殺されれば嫌でも覚える」


キラキラした目の二人に引っ付かれる。


一、二、三号の囮共も最初はこうだったな……。


「ふふふ……、ああやって笑っていられるのも最初のうちだけです……」


「そうだよ……、すぐに暴虐に耐え切れなくなるよ……!」


「彼の異常行動に振り回されて擦り切れる前は、私達もあんな顔をしていたのでしょうか……」


中古の囮共は、ハイライトを無くした死んだ目で、そんな会話をしていた。


一日休んで、明後日からまたダンジョン。


このパーティは継続とのことなので、助かるな。




その一方。


ララシャ様は、遠見の魔法で、肉盾爺さんことスティーブンの動向を見ているらしく、その様子を見せていただいた……。




スティーブンは、赤狐商会の支部へと戻っていった。


そこで、会長であるヤコに報告をする。


当然だ、雇い主はあちらなのだから。


「おかえりなさい、スティーブン。それで、どうでした?」


バスローブを身に纏い、ペルシャ猫のような生き物を膝に抱きつつ、高級ワインを楽しむヤコ。


どっからどう見ても悪の組織のボス的な感じだが、これで善人なので笑える話だ。


偉そうに足を組んで座り、チラリと内股が見える。


もう既に性欲も擦り切れているが、まあ、セクシーと形容される姿と仕草なのだろう。


しかしその妖艶な脚を見ずに、猟犬が如く跪いているスティーブン。


よく躾けられている。


「はっ、では、先ず事実の方から述べさせていただきます」


頭を上げずに、スティーブンは報告を始めた。


「本日は、ダンジョンの一階層の攻略を完了いたしました」


「まあ!もう攻略を?」


「ええ、本来であれば、Cランクの平均的な冒険者パーティだとすれば、一階層の攻略には一週間はかかるかと」


「一週間の道程を一日で?」


「いえ、道の長さ的には一日歩けば丁度なのですが……」


「なるほど、モンスターと頻繁にエンカウントするから……ということですわね?」


「はっ、その通りでございます。更に言えば、一階層でも致死性のトラップや複雑な分岐路などがあります故……、本来であればマッピングをする必要もあります」


「しかし、一日で終わると言うことは、旦那様はそうしなかったと?」


血のように赤いワインで、瑞々しい唇を濡らすヤコ。


唇の桜色に、ワインの赤が混ざる。


「はっ……、かのお方は、超大型の鈍器で、ダンジョンのトラップや壁を破壊しながら押し通り、遭遇した全てのモンスターを……、ボスも含めて一撃で仕留めておいででした」


「あは♡やはり、旦那様は素敵ですぅ〜♡」


色づいた頬に両手を当てて、年頃の少女のように顔を綻ばせるヤコ。


その姿は、見る人が見ればギャップで可愛らしいと答えるのかもしれないが、俺からすれば普通に痛々しかった。


「……で、旦那様はどのようにしてダンジョンの破壊を?わたくしの知識では、ダンジョンの破壊は困難とのことでしたが」


「そうですな。ですが、私でも、本気でスキルを使えば、一時的に壁一枚を断ち切るくらいなら可能です」


「……では、旦那様は、Sランク並みと謳われる貴方のスキルと同じ威力の攻撃を、コンスタントに放てると?」


「そう申し上げております」


「んー、ブッ壊れですわねえ」


「付け加えるならば、その時持っていた大型の鈍器は、神殿の柱でした」


「は?」


「王都の大神殿の主柱のような、象を殴り殺せる大きさの柱に、棒を括り付けたハンマーでした」


「は、あははは……!本当に素敵……♡」


そうして、ワインを飲み干したヤコは、更に質問を続ける……。


「……では、貴方の所見はどうですか?」


「は、所見……ですか?」


「ええ、そうです。元Aランク冒険者の、『剣鬼』とまで謳われた伝説的剣士である貴方の感想をお聞かせ願いたいですわ。……わたくしは、自分が知らないことは、信頼できる専門家の意見を聞くことにしていますの」


「はっ!お嬢様からの信頼のお言葉、大変嬉しゅう思います。……しかしながら、ご報告できることはそう多くありません」


「あら、それは何故です?」


「……虫けらが、空の広さを知れますか?」


ただ、淡々と、諦めの言葉を吐くスティーブン。


これは、俺には勝てないと言う敗北宣言だった。


「……それほどまでですか?」


「並の者ならば、あのお方と相対すれば一合も持ちませんな。私でも二合がやっと……、命をかけて運が良ければ三合でしょうか?」


「……分かりました、強さの方は無限大だと思っておきます。他には?」


「斥候としての技能は少なくとも本職並み、膂力は巨人を超え、知性も高く、知識を持ち、呪いに対する高い耐性と、何らかの呪術を使えます」


「……それで?」


「立ち振る舞い、間合いの取り方、身のこなし、どれをとっても超一流。少なくとも、王都の剣聖バルシュほどの腕前は確実ですな」


「……他には?」


「睡眠、食事、排泄の一切が不要。常に全開の集中力を発揮でき、疲労は一切感じません」


ヤコは、ワインを勢いよく飲み干した。


「うーん!化け物!」


「ええ、そうですな」

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