第44話 漏らし

「いや、無理です」


まーた囮共が文句を言い始めたぞ?


「はあ?何言ってるんだ?」


「このままダンジョンになんて、いけませんから!」


涙目になってそう叫ぶのは、シーリス。


囮一号、痩せ犬のようなガキだ。


「だから、何でだ?何か問題でもあるのか?」


「そ、それは……」


そう言って、股を押さえるシーリス。


んん……?


ああ、失禁か。


「そんなもの、放っておけば乾くだろう?」


「にゃ、な、に!デ、デリカシー!!!」


そんな単語が異世界にあるとは驚き……、いや、また『建国王ヨシュア』か。


めんどくせぇぞこれ、余計なことをしやがって。


扱いやすい馬鹿のままの方が、賢い奴が得するのにな。


かつて、中近世の権力者は、教育を受ける者を限定していた。


何故なら、馬鹿な人民は操りやすいからだ。


この世界も本来ならば、教育を受けていない馬鹿に溢れており、権力者や賢いものが好きなように振る舞えたのだろうが……。


某建国王が余計な真似をしたせいで、騙せなくなっている。


だが、それはそれとして。


「尿程度の汚濁がなんだ、ダンジョンに行くんだから、もっと汚れるに決まっているだろう?その程度誤差だ」


そう、ダンジョン。


ダンジョンに潜るのだ。


ダンジョンといえばやはり、地獄の釜で絶望を煮詰めたようなこの世の終わり空間だな。


死と、汚濁と、冒涜に溢れた魔境。


ものにもよるが、まあ、ダンジョンを一階層から順に攻略していけば、大抵は全身汚濁塗れになるものだ。


膝まで浸かる、糞と血と呪いが沸き立つ沼。


冒涜の言葉が壁いっぱいに刻まれた洞窟。


重痾に満ち満ちた穢れの山道、腐肉と死血が散らばる城壁、そして、ただただ広がる深淵……。


「……そう言うところを通るのだから、自然と全身汚濁塗れになり、漏らした尿など気にならなくなるはずだ。よかったな」


「だーかーらー!!!それはエドの世界のダンジョンでしょう?!!こっちの世界はそんなんじゃないんですよ!!!」


ん……、そうなのか。


だがまあ。


「なら、それならそれでいいだろう。尿なら、歩いているうちに乾く」


「にゃあああ!!!」


はあ……?


よく分からん。


「我が剣よ。私は、明日でも構わんぞ?」


「はっ、仰せのままに!良かったなお前ら、ララシャ様が今日はもういいと仰せだ」


ララシャ様がなあ!そう仰せだからなあ!


「ありがとうございます!!!」


そう言って、ララシャ様に土下座するシーリス。


今日はこんなところで終わった。




次の日。


ギルドにまた集まった。


が、ギルドは、なんか知らんが「呪いによる穢れの除染作業」?とか言って閉鎖していた。


仕方がないので、ギルド前に集まった。


「えい」


「にゅ、にゃーーーーーっ?!!!!」


俺は、シーリスがまた漏らしていないか、パンツに手を突っ込んで確認した。


漏らしていたらまた、明日に先延ばしになるかもしれんからな。


「なーーーにを!!!やって!!!いるんです!!!かーーーーーっ!!!!」


「漏らしていないかの確認だ」


「漏らしてないですがぁ?!!!!」


「昨日は漏らしていただろ?また、今日も漏らしてないかと思ってな」


ダンジョン攻略がまた中止にされたら堪らんからな。


「だからと言って、女の子のパンツの中に指突っ込みますか普通?!!!ってか、早く手を抜いてください!!!」


「おう、漏らしてないみたいだしな。……ん?若干ぬめりが」


「ああああああああ!!!あああああ!!!あーーーーー!!!!」


全く……、朝からうるさい女だな。


「もう良い、馬鹿は放っておいて、とっととダンジョンを攻めるぞ」


「「「「えぇ……?」」」」


困惑の表情を見せる臨公パーティ。


俺、また何かやっちゃいました?




ダンジョン、とやらに来た。


松明が規則的に並ぶ、石造りの迷宮になっており、それらは保守点検なしでも動き続けている。


つまり、松明は燃えているが、燃え尽きることはなく。


石の迷宮も、壊してもゆっくりと元に戻る。


地下にこんな空間はあるはずもない……、やはり、この世界のダンジョンも異次元空間なんだろう。


「うう……、もうお嫁に行けません……」


メソメソと泣き言を言い続けるシーリスを無視しつつ、俺は先頭に立って歩いた。


囮四号ことランファと、五号ことナンシェが何か言いたそうな顔をしていたが、それもスルーだ。


「あ、あの、先頭歩くのはちょっと」


囮二号、アニスが横から口出ししてくる。


「何故だ?」


「斥候役の私が前に出て警戒をしないと、立つ瀬がないって言うか……」


「不要だ」


「うう、はい……」


お、罠だ。


飛び越えて、と。


で、後ろからついてくるシーリスが、床のスイッチを見事に踏む。


そしてギギギと、壁が軋み、開く。


「きゃあっ?!!!」


床のスイッチを踏むと、壁から矢が飛んでくるトラップだ。


オーソドックスなものだな。


ムーザランにもそこら中にあるものだ。


身長がチビなので、デカい黒帽子のみが貫かれ、囮本体は無事のようだ。


「おわああああ?!!!な、何で言ってくれないんですかあ?!!!」


「いや、見れば分かるだろ?」


「分からないから斥候役が要るんですよォ!!!」


そうですか。


そんな感じで、まったりとダンジョンを進んでいくと……。


「モンスターだよ!気をつけて!」


『『『『グオオオオッ!!!』』』』


エネミーが出てきたようだ……。

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