第42話 準備完了

「んー、そうですかにゃ?見た感じ、戦えそうですけどにゃあ?」


鎧姿の俺を見て首を傾げるランファ。


「飾りだ」


「にゃ?」


「この見た目は飾りだ」


「にゃ、にゃあ、そうですかにゃ……?」


だが、説明するのも面倒なので、適当にしらばっくれておいた。




さあ、とっととダンジョンを攻めよう。


俺はそう言った。


「にゃ?そっちの娘さんはどうするにゃ?」


娘?


……ああ、ララシャ様のことか。


今のところ、ララシャ様のサイズはロリだからな。娘だと思われたのか。


「彼女は俺の女神だ。常に俺と共にある」


が、しかし、これに尽きる。


「は、はあ、そうですかにゃ……」


何故かドン引きされたが、問題はない。


「待て、荷物持ち。準備が必要だろう?」


エルフ女……、ナンシェは、金髪をかき分け、そのキツい目つきでこちらを睨みつけながらそう言ってきた。


その言い様は、まるでこちらを咎めるような形だ。


「何だ、その顔は?ダンジョンアタックの際は、荷物持ちがポーション類の補充などをあらかじめやっておくものだろう?」


ああ、そういうことか。


荷物持ち、『運び人』は、ただ物を運ぶだけではなく、雑用全般を引き受けなければならないと言うことか。


そういえば、料理が上手いなどのスキルがある運び人は重宝される……、みたいな話を聞いたばかりだったな。


つまり、運び人は、ダンジョン内での料理や見張り、薬品などの物資の管理など、やることは意外と多い、と。


いかんいかん、興味がないことは覚えないと言うスタンスはいい加減やめなくては。


「分かっていると思うが、領収書はちゃんと受け取れよ?でなきゃ、経費は払わないからな!」


うわ、領収書とかいうシステムまであるのか……。


識字率とかも高いみたいだし、そうもなるか。


あのアホそうなシーリスも、文字の読み書きから計算までちゃんとこなすし……、そもそも、「娯楽小説」などと言うものが出回るくらいに、教育が一般化している……。


本当に、よく分からん世界だな、ここは。


ってよりも、ポーション……?


ええと、ああ!怪我をした囮共が服用している、あの水薬のことか。


俺は飲んでも回復量が足りずにほぼ効かなかったからよく分からんが、この世界の回復アイテムらしいな。


うーん、それは……。


「この、『女神の純血』では駄目か?」


インベントリに腐るほどある回復アイテムの一種、『女神の純血』だ。


《女神の純血》

《ムーザランの創造主である『原初の女神』の血。

赤と白が入り混じったその液体は、女神の母乳でもある。

原初の女神は、これを我が子らに与えたもうた。

服用すると全ての消耗を回復し、状態異常を治す。》


ムーザラン創造の女神である『原初の女神』の血だな。


これを飲むと体力気力精神力スタミナが全回復して、バッドステータスも解除される。


一周しても百個程度しか手に入らないレアアイテムだ。


俺は数千万個持ってるからもう要らんが。


「な、何、何だそれは?!!!」


「何たる、神威……?!!!」


ナンシェとクララが尻餅をついた。


何だ?


オーバーなリアクションだな。


「こ、これ、は……、神族の血液か?!!!」


「まさか、そんな!神の血なんて……!」


「何か問題でもあるか?」


「大有りだ!!!!」「大有りですよ!!!!」


はあ……。


「我々、矮小なるヒト族の身では、神の血など、一滴飲んだだけでも魔力過剰で五体が弾け飛ぶぞ?!!」


「いえ、ですが、数百……、数千倍ほどに希釈すれば、エリクサーとなりますね」


エリクサー……?


ああ、何だか、ゲームとかで聞いたアイテム名だな。


万能薬だとか、寿命を延ばすとか、そう言う話を聞く。


「本来、エリクサーは、ドラゴンの血と世界樹の葉を使って作る物ですが……、神の血となればただ希釈するだけでもエリクサーになるでしょうね」


へえ、そうなのか。


「とにかく、これは使えないんだな?なら、こっちはどうだ?」


俺は、インベントリから更にアイテムを出す。


『涙石』だ。


《涙石》

《ムーザランの創造主である『原初の女神』の涙。

心優しき原初の女神は、死してなおムーザランの為に祈りを捧げている。

人々に癒しがありますように、と。

服用すると体力を少し回復する。》


「「だーかーらあああっ!!!」」


「うお」


何なんだ?


「これも神の体液じゃないですか?!!」


「そうだな」


「これも、身体に取り入れれば、過剰な魔力が溢れて全身から血が噴き出るぞ!!!」


「そうなのか」


……この世界の人間、脆過ぎるだろ。


回復アイテムを使って回復過剰で死ぬとか、おかしいにも程がある。


「だが、すり潰した物を、ほんのひとつまみくらいなら大丈夫かもしれん……」


「危険ではありませんか……?」


「いやそこは、オイルウィードで練って軟膏にして、経口摂取を避ければ……」


「なるほど、それならば、魔力吸収を阻害するジャマーフラワーを混ぜ込んで……」


「おお、お前は賢いな。それならいっそのこと痛み止めにペインキルリーフを……」


なんかごちゃごちゃ言ってる女二人。


「食料の買い込みも必要ですな」


と、爺さんが言ってくる。


ああ、それもあったな。


こいつら人間は、飲食の必要があるとか。


「……まあ、それについてはこちらでご用意させていただきましたが」


と、俺に、食料と水の入った革袋を渡してくる爺さん。


……この爺さん、めちゃくちゃ使えるな?


囮共と違って、肉盾になる上に気も利く。


なるほど、ヤコの手下な訳だ。


俺は受け取った食料をインベントリにしまう。


《上質な食料》

《ファンタジアスで流通している食料のうち、上等なもの。

保存食にしては悪くない味わいの、生きる為の糧である。

僅かながら、気力を回復する。》


「それと、こちらも」


爺さんは、更に革袋を渡してくる。


《冒険者の雑貨》

《剣と魔法の世界ファンタジアスにて、魔物退治を生業とする者達の道具。

円匙やナイフ、ロープに手拭い、包帯、ポーション、魔物避けの香などがある。

しかし、『聾の者』にとっては、どれも全てがらくたに過ぎない。》


助かるな……。


本気で気が利く。

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