第39話 部下の能力は上司の能力に比例する
いやー、人数制限か。
まさかそんなのがあるとはな。
しかし、こんな時のために囮三体を飼っておいたのだ。
囮三体にパーティメンバーを組ませて、そこに建前上の荷物運びとして加入すれば、規則を破らずにダンジョンに入れる訳だ。
「いや、だから、無理ですって」
だが……、何故だか、またこんな風に断られてしまう。
「意味が分からんな、規則は守っているだろう?」
まさか、また、道徳とかいう意味不明なアレだろうか?
勘弁してほしいのだが……。
「いや、そうじゃなくって……、冒険者ギルドの規則では無理なんですよー」
「さっきと言っていることが違くはないか?パーティがいればいいと……」
「人数は、六人からです」
「………………は?」
「建国王ヨシュア様の提唱する、ダンジョン攻略時の規則は、一パーティ六人でなくてはならないのでぇ」
ろ、六人、だと?
そんなゾロゾロと引き連れて、ダンジョンを攻略するのか?
頭おかしいだろこの世界。
俺は、ちらりと囮三体の方を見る。
「あ、知ってます。ヨシュア王の『ウィズ式』ですよね?」
「『ウィズ式』となると、室内型ダンジョンだね」
「野外では『ディーキュー式』、野外型ダンジョンでは『ユグドラシル式』が基本ですからね」
んん……。
何の話だこれは……?
俺が眉を顰めていると、囮その二ことクララが俺に説明をしてきた。
「『ディーキュー式』というのは、野外でフィールドワークをする時の基本的なパーティ編成です」
「はあ」
「ディーキュー式では、四人の戦闘パーティメンバーと、馬車などで控えている複数のサブメンバーで行動をします」
「何で四人なんだ?」
「前衛後衛の二対二でバランスが良いので。それと、休憩中の仲間を守るために、馬車の四方を塞ぐことができるから、とも言われています」
うーん、そうなのか。
「そして、五人編成で野外型ダンジョンを攻略する『ユグドラシル式』と、六人編成で室内型ダンジョンを攻略する『ウィズ式』に、編成は分かれます」
い、意味が分からん……。
「何が違うんだ?」
「まず、ダンジョンには野外型と室内型の二種類があります。これはご存じですよね?」
「知らんが」
ムーザランは全身余すところなくダンジョンみたいなもんだったので。
しかも、ムーザランでダンジョンと定義されるところは地獄そのものだしなあ。
聖杯を捧げて、何度も同じ迷宮に潜り、ランダムダンジョンを踏破した挙句に手に入るのはゴミ……。
うっ……、頭が……!
「……えーと、ですね。ダンジョンには無限にモンスターが出ます。それは分かりますよね?」
「へえ、そうなのか」
「野外型と室内型は、開放型と密閉型とも言い換えられます。野外型は無限に広がる自然空間が殆どで、逆に室内型は、洞窟や城郭などの室内が殆どです」
ふむ。
「野外型では、四方八方から物理型のモンスターが襲いかかってくるものでして、これに対抗するために『前衛三人以上』の『高機動物理型』のパーティメンバーでダンジョンを駆け抜けます」
なるほど、戦闘がメインで前衛が多い、と。
「逆に室内型は、基本的に通路の前方さえ警戒していれば良いので、『後衛が多めに必要』ですね。そして更に、戦闘だけではなく、『謎解き(リドル)を求められることが多々ある』のです。『盗賊などの斥候ジョブは必須』と言って良いでしょう。物理無効などの耐性持ちも多いので、『魔法使いなども必要』ですね」
こちらはややこしい感じのやつか。
ムーザランにも、魔法エレベーターとか面白殺戮マシンとかクソデカ固定大砲とかのクソみたいなビックリドッキリメカがその辺に転がってたし、気にしないがな。
ムーザランも大分、謎解き要素は多かった。
……まあ、ムーザランのダンジョンは、こちらの世界で言うその、野外型?のようにクソエネミーがボコボコ湧いてきて、それをぶち殺しながらもクソみたいな謎解きをやらされるゴミだったが。
でも、武器に嵌め込んでエンチャントを発動させることができる石『律珠』を集めるのは、上位陣の義務みたいなもんだし……。
攻撃力30%アップ律珠は人権……!
呪重スタ減王級全強は必須アイテムだからな。
……もう俺は数十万個持ってるが。
とにかく、今回のスワンケルドのダンジョンは、室内型というもので。
『斥候』『術師』を含む六人のパーティでなければ、ダンジョンに入れないとのことだった……。
「じゃあ、どうすれば良い?」
俺を抜いてあと三人。
どうやってメンバーを増やそうか……?
俺がそう言うと、クララは更に続けてこう説明してきた。
「そんな時は、『臨公』です」
「りんこう?」
「『臨時で公平なパーティを組む』こと、略して臨公ですよ」
「なるほど、では、その辺の暇そうな冒険者とやらを捕まえればいいんだな」
「まあ……、そうなります」
全く……、面倒極まりないな。
そんな時、一人の老いた冒険者が、俺の前に立った。
「もし、よろしいですかな?」
物腰は柔らかで丁寧。
灰色の服の上に、銀鋼の胸当てとガントレット、脚絆とグリーブの融合したようなものを纏う、赤いマントの老剣士だ。
身体つきや立ち振る舞いから、この男が一流の戦士であると俺は見抜いた。
「何だ?」
……とは言え、害意はない。
適当に応答すればいいか。
「赤狐商会のヤコお嬢様が、わたくしめを遣いに出しましたので……」
「ふむ?」
「わたくしは『スティーブン』、元Aランク冒険者です。お力になりましょう」
なるほど、ヤコが手を回してくれたのか。
あいつは使えるな、使い勝手のいいNPCには好感が持てる。
では、あと二人か……。
俺が周囲を見回していると……。
「あ、あのっ!もしかして、『虚空剣』のスティーブンさんですかにゃ?!」
虎縞の猫女と耳長女のコンビが、スティーブンと名乗った赤狐商会が用意した冒険者に話しかけてきた。
「虚空剣、ですか……。懐かしい呼び名ですな」
はにかむスティーブン。
何か、過去にあったのだろうか?
「十年前、故郷の『ビーストランド』に攻めてきた八魔将の『鬼王ジゴバーン』を撃退してくれたこと、僕はずっと覚えてましたにゃ!」
なるほど。
察するところ、このドラ猫女の年齢は二十歳ほど。
子供の頃にこのスティーブンとかいう爺さんが戦うところを見ていて、憧れを抱いているとか、そういう設定か。
どうでもいいが、これなら、その……臨公?とやらに誘えるかもしれない。
しかし、俺が誘うのは無理そうだな。
俺はそう思って、スティーブンの爺さんに目を向ける。
すると、横目で俺の方を一瞬見た爺さんは……。
「貴女達も冒険者なのですか?」
「はい!僕はビーストマンのランファ、こっちのエルフは相棒のナンシェですにゃ!」
「よろしければ、これから臨公を組んでもらえますかな?」
「えっ!もちろんですにゃ!光栄です!」
と、俺の意図を察して動いてくれた。
流石は、ヤコの寄越した遣いだけあるな。
有能だ。
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