第38話 ダンジョンの準備

「あっちゃあ、これは……」


ヤコは、頭を抱えていた。


スワンケルドに来て、赤狐商会のスワンケルド支部に部屋を貰った俺達だが。


ヤコは、かなり落ち込んでいる。


特に心配とかはしていないのだが、何か良くないことが起きたのかもしれない。


一応、話を聞いておこう。


「旦那様……、申し訳ありません。どうやら既に、ダンジョンの利権はガッチリ取られてしまっているようです」


「なるほど……。すると、具体的にどんなデメリットがある?」


「端的に結果の方をお伝え致しますと、成果の半分ほどが税やみかじめ料として持っていかれます……」


何だと?


「ホーンもか?」


「ふぇ?……いやいや!経験値の半分を奪うって、そんな方法は存在しませんよ?!」


何だ、金が半分になるだけか。


それなら、別に困らないからどうでもいいな。


「なんだ、それなら別に構わんだろう」


「ええっ?!成果の五割ですよ?!暴利じゃないですか!!」


「税率やら何やらが諸々五割なんだろう?そんなもんじゃないのか?」


少なくとも、日本は五、六割持っていかれたからな。


そんなもんなのでは?


「いやいや!取られ過ぎです!普通、冒険者なら、税金は狩りの成果の一割から二割なのですよ?命をかける仕事なんですから……」


「はぁ?命をかけない仕事なんてないだろう?お前達商人も、命をかけて働いているはずだ。違うか?」


「あぁんもう大好きィ♡商人の意地と覚悟を分かってくれてる旦那様とか、ガチ恋しちゃうからおやめくださいぃ♡」


いや、そんなことを言われてもな……。


商人なんて、権力者に良いように使われるし、金を持っているからいつ誰に殺されるか分からない命懸けの仕事だろ。


というか、このような世界では、命懸けではない仕事の方が少ない気がする。


「確認するが、五割の税金を払えば、それだけのサービスを受けられるんだな?」


「そりゃあ、まあ、あの緑狸商会もそこまで露骨なことはしないでしょうけど……」


何でも、国共通の法律も何もないこの世界では、各業種ごとにギルド(組合)を作って一つにまとまり、それの内部で相互補助と制裁をするらしい。


露骨にやり過ぎた商人は、商人の仁義に反するとして、他の商人から爪弾きの村八分にされるそうだ。


故に、税率五割の阿漕な商売をやったとしても、最低限の役割は果たすとのこと。


つまり、今回、ダンジョンを私物化しているような緑狸商会のやり方は、アウトとは言えないがセーフとも言えないグレーゾーン的な蛮行なんだそうだ。


であれば、何も問題はない。


「因みに、一商会に税を集める権限があるのか?」


「どうやら、この街の領主に取り入って、徴税権を得たようですわ。もちろん、これもかなりグレーゾーンなやり方ですが……」


まあ、その辺はどうでもいいか。


とっとと行こう。




俺は、囮三体を引き連れて、スワンケルドの冒険者ギルドにやって来た。


前は、冒険者ギルドに入ると、変な奴らに絡まれたのだが、今回はそんなことはないようだな。


今思えば、農民Aのような格好で戦士がいる場所に入ってこれば、変な目で見られるのは当然だったと分かる。


今のように、しっかりと戦士の格好をして入れば、絡まれるどころか尊敬の視線を向けられるのが普通らしい。


青と黒の鎧に身を包み、質の良さそうな剣を帯びた俺は、相当に名のある剣士に見えるとは囮三体の談だ。


「止まれ」


……とは思ったのだが、早速、変なのが前に出てきた。


全身黒づくめの、厨二病のガキのようなファッションセンスの男達だ。


まあ、ムーザランも大体こんなもんなので文句は特にないが。


「俺達は、この街で徴税の代行をしている『ブラックマンズ』という組織だ!」


はあ、そうですか。


「お前、中々強そうじゃねえか。俺達の仲間にしてやるよ」


「結構だ」


「まあそう言うな、俺達につけば良い思いが……」


俺は、冒険者カードを受付に提出する。


そこにはもちろん、堂々の「Fランク」の文字。


「……はぁ?!何だよ、見かけ倒しかよ!しっしっ!消えろ、低ランク!」


それを見た黒づくめの男達は、一転、顔を顰めてどこかへ行った。


アレは何だったのだろうか……?


まあ、何でも良いか。


俺は受付の女に話しかけた。


「ダンジョンに潜りたい」


と。


「うんそれ、無理」


しかし、緑色の髪という、人間とは思えない髪色の受付の女は、そう言って俺に断りを入れてくる。


眠たげな面を緩ませて、「無理無理〜」と。


「君、Fランクでしょ。Fランクは基本的に、ダンジョンへの入場権なんてないよ」


ごめんねー、などと言いながら、俺を受付から突っぱねようとする受付女。


うーむ、そう来るか、困ったな。


……いや待て、基本的に、だと?


「例外的に入場する方法があるのか?」


俺はそう訊ねた。


「んー……、ダンジョンではさ、運び人(ポーター)って仕事があるんだよね。これなら、Fランクでも他のパーティについて行って護衛してもらえるからセーフみたいな、そういうのはあるよ」


と、受付の女は返す。


「でも、運び人も簡単な仕事じゃないからね?専門の運び人も業界にはいるくらいなんだから、何の技能もない、装備だけが立派なFランクを受け入れてくれるパーティなんてないと思うよ?」


聞けば、運び人というのは奥が深い職業らしい。


ただの屈強なだけの荷運び人夫には務まらない、難しい仕事なんですよと教えられた。


具体的に言えば、「野外料理がうまい」とか「ある程度の戦闘が可能」とか、「人の何倍も荷物を持てる」とか、何かしらの売りがないと、運び人としてやっていくのは厳しいんだとか。


なるほど、この世界の人々は、俺達「聾の者」のように、インベントリに無限にアイテムを詰められる訳ではないんだな。


そうかそうか、運搬役か。


……なら、問題はないな。


俺は、囮三体を引っ掴んで前に出す。


「こいつらは全員、Eランク以上の冒険者だ。俺はこのパーティの運び人をやる」

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