第32話 万軍の粉砕者

まさか、「俺が法だ!」をやられるとは思わなかった。


しかし、妥当性がある命令であり、その上大してデメリットもない……。


人間側が死んでもホーンは得られるが、クソ雑魚しかいないこの街の人間が死んだところで、得られるホーンは雀の涙ほど。


であれば、時短の為にとっとと皆殺しにしちゃった方が早くない?と言う気持ちは当然あるな。


そして、ついでに言えば、この命令を無視して国外追放とかになると、移動がめんどくさそうだし。


街を利用できない悪人プレイとか、ララシャ様に不便させそうで怖いもんな。


うん……、うん。


じゃあ、やるか。


「良いだろう、この街を救えば良いんだな」




まずは、適当に範囲回復でもしておくか。


歌唱術発動。


「A———、RA———、MAMA—MALCHE—、RignAki—La—!lesoBrI—RA—!」


大いなる地母神マルシェよ、畏み申す。


夜道を照らす光の波動。


旅人達に確かな温もりを与え給え。


《連鎖する回復波動》


黄金の光が大地を照らす。


癒しの力を持った輝きの波動は、地面を伝って人々の身体に取り憑いた。


「こ、これは……?!」


「あ、暖かい……!」


「傷が!傷が治っていく!」


そして、光の波動を身に受けた者は、その者の身体からも伝播するように癒しの波動が溢れてゆく。


そうして、鼠算式で回復者が増えていき、人々は癒された。


さて、後はモンスターの始末だな。


巨人系、敵多数……、回避は困難。


そして一周目並みのエネミー。


ならば、重装備だな。


《巉巌の大兜》

《巉巌の大鎧》

《巉巌の手甲》

《巉巌の足甲》

《『巉巌のロボロ』の纏う、最も重く、最も頑丈な大鎧。

黒曜岬の巌を削って作られたそれは、恐ろしいほどまでの防御力を誇る。

巉巌のロボロは、矮小なる人の身でありながらも黒曜巨人の公王を友とし、仕えた。

音韻の加護がムーザランから失われ、公王が狂おうとも、最期まで友であり続けたのだ。

たとえ、その先が破滅であろうとも……。》


黒曜石と黒鉄が融合したかのような独特の質感の、とんでもなく分厚い鎧を俺は着込んだ。


この頃には既に、エネミー共は行動を始めていた。


昨日のように、万に届かんという軍勢が、一斉に襲いかかって来ている。


投石弓矢に槍衾、火炎に氷刃の雨霰。


回避不能な飽和攻撃は、層の薄い部分にフル防御で突っ込むが吉である。


そして。


《魔鏡の杖》

《魔鏡の飾りのついた青黒い杖。

鏡とは、反転世界の入り口であると、学院の魔導師達は推論した。

次元を屈折させ、消費する精神力を2.5倍にすることで、一部のルーン術を2倍の規模で発動できる。》


魔鏡の杖を二本。


ルーン術は、文字を書くことによって発動する。


つまり、両腕で文字を書けば、二つ同時に術が使える……。


因みに、このグリッチを『多重起動』と言い、これができないと高レート帯ではマジックユーザーと認められないくらいの基礎的な技術だ。


そして、俺が唱えた術は。


ルーン術発動。


———魔鏡の映すは、醜きおのれなり。


———されど、醜さとはおのれになきものと言ひ換へらる。


———ならば、おのれの醜さを知る者こそが真にさかしき人なれ。


《魔鏡展開》


次に発動するルーン術が二倍に展開されるというもの。


そして更に言えば、このルーン術は「重ねかけが可能」なのだ。


一度までだが、次の魔法を二倍にする効果を、更に二倍にできる。


つまり、最大で六十四倍まで拡張可能と言うことだ。


そしてすかさず、次の術を発動。


———剣とは、遥か遠き昔より力の象徴なりき。


———ならば、剣の覚えさまを描かば、そは力となる。


———かくて、月の姫が下賜せるそは、星の雨に例へらる。


《ララシャの剣陣》


十六本の理力……、まあ、魔力のようなもので作られた剣。


それが、両手で使って三十二本。


先程の術の効果で、掛ける六十四。


合計して。


二千四十八本の理力剣が、空を埋め尽くした。


「行け」


青白い剣の雨。


朝焼けの空に流星群。


飛来した理力の剣は、それぞれが別に動き、雑魚モンスターであるゴブリンやコボルトの肉体を貫いた。


それにより、雑魚モンスターは一掃される。


「嘘……?!」


「神の、業か……?」


「あり得ない、こんなこと……!!」


周囲の驚きの声を受けながらも、俺は杖を仕舞い、次の武器を取り出した。


《グレートソード》

《金属の巨大な剣。

大きく、分厚く、重い。

この剣を扱うのであれば、巨人の如き膂力を要求されるであろう。》


《巨人狩りの大槍》

《大剣が先端についた長大な大槍。

石巨人達の外殻を貫く鋭さと重さ、そして大きさを持つ。

優しき巨人、それを狩る者共は、皆人でなしであった。

そして、人でなしこそが、悪辣で効果的な武具を扱うのだ。

大きなエネミーに大ダメージを与える。》


俺は、《迅雷の踏み込み》……、一瞬だけ肉体を電気に変えて、雷の速さで踏み込む武技を発動しながら、敵陣に突っ込む。


迅雷の踏み込みは、所謂一種の瞬間移動である霞の踏み込みとは異なり、慣性を残すことができるのだ。


故に、まっすぐ前へと肉弾特攻するならば、迅雷の踏み込みが選択肢としては一番目に上がってくる。


そして、またもや武技発動。


《グラビスの引力波動》《回転する星玉》


掲げられたグレートソードから発せられる強力な引力波動に引き寄せられたエネミー共は、その後に発動した《回転する星玉》により、俺の周りを回転する、赤熱した星玉にぶつかって砕け散った。


この星玉は、魔力で作った仮想体だが、質量と熱は本物の隕石と同じ。生身の生物ならば、触れた瞬間に砕け散るのが道理だ。


《飛散する星玉》


続けて俺は、回転している星玉をそのまま方々に飛散させ、被害を撒き散らす。


使い終わった星玉をただ消すのではなく、利用して飛ばすのだ。こうやって、関係が近い武技を連鎖して発動する……、所謂「コンボ」は、精神力の消耗を抑えられることが知られている。上位ランカーでは基本テクニックだな。


《グラビスの斥力波動》


さあ、今度は斥力の波動だ。


剣でなぞった空間に一瞬にして発生する、不可視の強烈な斥力は、複数の巨人を内側から膨張させ、血霞に変えた。


見えない爆発とも言えるそれと、爛々と輝く星玉の熱と光は、巨人達を混乱させるには充分だった。


『オオオオッ?!!』


『バカナ?!!』


『ニンゲン、フゼイガ、ナゼコンナニ……?!!!』


その混乱している巨人達に、俺は真っ直ぐ突撃。


基本的に、この手の大型の人型エネミーの倒し方はどんなゲームでも一緒で、「だるま落とし」形式だよな。


つまりこうして。


右手のグレートソードで、目の前の巨人の片足を斬り飛ばし。


『グアアッ!!!アシガァ?!!』


そして、倒れ込んできた巨人の頭に向かって、巨人狩りの大槍を突き立てる。


『グペッ?!!』


言っちゃ悪いが巨人はカモだ。


動きが鈍いのはそれだけで不利。


むしろ、小さくて素早い奴……、犬とかの方が厄介だな。


犬はカス。


犬は、カス。


我々プレイヤーの中では、デーモンより犬の方が怖いと専らの噂。


そんなことを思いながら、無心で無双していると……。


『グハ、グハ、グハ!!!!!オモシロイ!!!!!!』


おお……?


なんかボスっぽいのが出てきたな……?

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