第33話 血霞の乱れ散り

『ニンゲン!!!!ナノレ!!!!!』


こいつは……。


奥にいた、一際大きい巨人か。


大きさは10メートルくらい、赤みがさした白肌の、裂けた口を持つ巨人。


それは、身の丈を越える鉄の剣を持ち、鎧まで着込んでいて。


ノーズガードのついた砲弾型のヘルムから、血走った赤い瞳で、こちらをねぶるように睨みつけていた。


『ワガナハ、《ウォーバッハ》!!!!!ユウモウカカンナル、ギガンテスノ《族長》!ウォーバッハ、ダ!!!!!』


なるほど……。


名乗るとか礼儀正しいな。


ムーザランのボスエネミーは名乗りもせずに襲いかかってくる精神異常不審者カスゴミの方が多いからな。


そして、名乗る奴はドン引きするほど強いのでカス。


ムーザランは基本的にプレイヤー含めて全員がイカレポンチなのは言うまでもないが、下手に会話ができるくらいの知性をお残しになっていらっしゃるエネミーは、武技の冴えもまたお残しでいられる。


もうあのクソエネミー共は全員死ねばいいのに。いや、殺したけど。


『《魔王軍》ノ、《八魔将》!!!!!《力のウォーバッハ》ダ!!!!!』


はあ、八魔将。


そうですか。


よく分からんけど、なんか八人いるボスエネミーの一体ってこと?


レジェンズアニマ民にはちゃんと、ゲーム開始前にオープニングムービーでボスの顔見せしてくれないと困るよ。


謎のババアにねっとりボイスで英文読んでもらわなきゃ、誰がボスだか分からないだろうが。


まあ、アレだろ?


最終的に全員殺せば良いんだろ、俺は知っているぞ。詳しいんだ。


だがしかし、名乗りだと?


アホらしい、そういうギミックは大嫌いだ。


どうせアレだろ、特定の装備とか特定のセリフとか言うと、ボスエネミーがいきなり発狂モードに入ったりするやつだろ?


何回見てきたと思ってんだ、毎シリーズでこの手のクソギミックぶち込んでくるだろあの制作会社は。


俺は知ってるんだ、やらんぞ。


「お前如きに名乗る必要はない」


『ナニィ?!!!!』


というより、そもそも、だが。


「ここで死ぬ奴が、俺の名前を覚えてどうするんだ?」


『キサマァッ!!!!!』


その一言で激昂した巨人……、ウォーバッハは、その長大な剣を振りかぶり、俺を押しつぶすかのように叩きつけて来た。


ふむ、勢いからして大した威力ではないな。


この程度なら、弾ける。


俺は、即座に左手を空けて、小盾を装備する。


《バックラー》

《金属製の小さな盾。

防ぐことよりもむしろ、弾くことを主眼に置いたもの。

相手の攻撃を弾くことにより、隙を作り出す。》


タイミングを合わせて……、バックラーで、迫り来る大剣を、弾く!


武技発動。


《パリィ》


『ヌ、オオオオッ?!!!!!』


金属同士がぶつかり合う凄まじい轟音。


閃光のような火花がぱっと散り、その瞬間にはウォーバッハの剣は弾き飛ばされていた。


『バカナアアアッ?!!!!!』


「得物から手を離すとは、素人だな」


踊る、ように。


左足を前へ、右手で大槍を。


突いて、跳ねる。


『グガアッ?!!!!!』


槍を、足場に。


飛んで、グレートソードで膝を抉る。


『キサマ!!!!!』


腕振り下ろし、回避。


三回、テンポはとん、とんとん。


見切った。


とん、とんとんはいここ、二本目の大槍を取り出し、下腕を貫く。


『ガアアアッ?!!!!!コ、コノ、ムシケラメッ!!!!!』


もう片腕の薙ぎ払い、ウォーバッハの下腕に刺さった大槍を掴んで移動して回避。


同時にルーン術を発動しておいた。


———理の力ここなり。


《理力の礫》


青白い理力の矢は、素早く飛んでウォーバッハの右目を焼く。小さな術も使いようだ。


『グガアアアアッ?!!!!!』


それにより、ウォーバッハは反射的に、『両手で顔を押さえる』のだ。


そして俺は、ウォーバッハの腕に取りついている。


つまり、自動的に、ウォーバッハの顔面まで運んで貰える訳だ。


「潰れろ」


武装取り出し、《グレートメイス》……。


《グレートメイス》

《金属製の巨大な棍棒。

重い金属の塊であり、これを振るうには想像を絶する膂力が必要だろう。

殴打の武器は、エネミーのガードを崩しやすい。》


轟。


風が死ぬ。


恐ろしく重いグレートメイスを、カンストしたステータスで振り回すのだ。


それは、押し潰された風が死に、悲鳴を上げるかのような、そんな風切り音を残す。


右手で振り抜いたグレートメイスは、ウォーバッハの鼻っ柱を思い切り潰した。


『ブ……、ゲラアッ?!!!!!』


大量の出血を伴いつつ、ウォーバッハは縦に三回転して吹っ飛び、地面に叩きつけられる。


どうやら、見た目よりも軽いらしい。


血肉で出来た肉人形に過ぎないこの世界の巨人は、骨も肉も鉱物でできているムーザランの『岩巨人』達と比べれば、酷く軽量で、脆い。


『ブギ、プギイイイッ?!!!!!』


「豚の真似か?ムーザランなら、豚でももっと強いぞ」


あ、これは事実だ。


ムーザランの豚は全長4メートルくらいあるからな。うん、普通にバケモノ。


ってか……、この世界の巨人って、単なるデカい人なのかよ。


それじゃ、ただの的じゃねえか。


『ヤ、ヤメロォ!!!!!クルナ、クルナ、クルナアアア!!!!!』


「へえ、痛みとか恐怖とかを感じるのか。ムーザランのエネミーとは違って人間らしいな」


俺は感心しながらも、グレートメイスを両手持ちにして、ウォーバッハが振り回す腕を弾くように打ち据えた。


すると、鈍い音が響く。


この感触……、骨を砕いたな。


鎧に包まれたウォーバッハの腕は、明後日の方向に捻れる。


『イイイッ……ギィヤアアアアアアア!!!!!!!』


「腕が折れたくらいで、女のようにひいひい泣くなよ。戦士だろうが」


呆れながらも殴打の嵐を浴びせる俺。


最早、戦いに楽しみを見出せなくなるほど戦ったので、面白いとか面白くないとかはないのだが、それでもこうも弱いとつまらないな……。


ほんの十数回殴打しただけで、ウォーバッハは赤い肉塊になってしまった……。


「つまらんな」

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