第31話 事実と法と

俺は、見習い相当のFランク冒険者という立場。


前線へは邪魔だから行ってはいけないらしい。


むむむ、困ったぞ……。


……いや?


困らないな。


別にモンスターがこの街を滅ぼした後でも、モンスターとは戦えるだろうしな。


寧ろ、ある程度雑魚を減らして、そこそこ強い奴のHPを削ってくれると言うのだから、是非やってくれという話だ。


だが、当然ながら雑用などしたくはないので、適当に仕事をしているふりをしてサボろうじゃないか。




Eランク魔法使いのシーリスは、街の住人の避難の手伝い。


Dランク斥候のアニスは、Cランクパーティのサポートへ。


Cランク神官のクララは、他のCランクパーティにサブで入った。


一方で、Fランク剣士の俺は……。


「ふむ、弱いな」


「ええ、弱いですね」


運べと言われた兵糧を放置して、城壁の、人の登れない尖塔屋根の天辺に立っていた。


なんかアレを思い出すな、フードを被った暗殺者のゲーム……。


うーん、家族のこととか一切覚えていないのに、こういうどうでもいい知識は頭に残ってるなあ。


そして、側には、愛するララシャ様もいる。


さて……、魔王軍だが。


「あれは……、トロルか?」


「大きさは確かにトロルですが、トロルならもっと腕が大きいのでは?」


「しかし、巨人にしては小さ過ぎるだろう?ムーザランの巨人は、最低でもあの倍はあったぞ」


「巨人公王はあれの二十倍くらい大きかったですからねえ」


いや本当にね……。


百メートルのバケモノ巨人と殴り合いはね、辛いんだ。


本来なら、特別な武器とか攻城兵器とか使って戦うんだけど、殴り合いもできるんだよね。


でもそうすると、全ステータス99でも、攻撃が掠っただけで即死するクソエネミーと三日三晩殴り合いせにゃならない訳で。


あれはもう二度とやりたくない。


まあ、二度と言わず千回くらいやった記憶はあるが。


暇って怖いね。


「おお、あれは、ムーザランの巨人くらいに大きいな」


「ええ、あれならまあまあ食い出がありそうです」


魔王軍は、5mほどのトロル?巨人?まあよく分からんが人型のエネミーを中心に、数千の人型雑魚モンスターを引き連れた大軍。


最奥で指示を飛ばしている10mほどの巨人がボスエネミーだろう。


ああ、因みに、ホーンは俺が倒さずとも近くで死ぬ者がいれば自動的に吸収されるので、極論を言えばここで突っ立っているだけでも良いぞ。


じゃあ、しばらく、愛しのララシャ様とおしゃべりして待とうかな……。




一晩が過ぎた。


一晩だけで、この街、『ルーカスター』はボロボロになっていた。


そこら中に死体や怪我人が転がり、街の外郭部にモンスターが入り込み、街を荒らされ、城壁も半壊し、士気も崩壊しつつある。


「いやあああっ!!!!お父様ぁっ!!!!」


ああ、何だったか……?


そう、貴族令嬢のサニー。


そして、あそこで倒れている男は、領主のソライルだったな。


どうやら、ソライルは右腕が切断されたらしい。


巨人(トロルではなかったらしい)は残忍な存在で、人のことを食うから、それにやられたと聞こえてきた。


腕を食いちぎられたってことだろう。


「もう終わりだ……!」


「もう朝だ、巨人共が眠りから覚める!そうすれば……!」


「次の攻勢にはもう、耐えられないぞ?!どうするんだ!!!」


うーん、この絶望感!


ムーザランで毎日見てたので、いつものことだなとスルー。


と、そこに、ズタボロの囮三体がやって来た。


「何やってたんですか……?」


ヤバい目をしたシーリス。


ヤバい目とは言うが、ムーザランは皆こんなもんだったのでこちらもスルー。


さて、何をやっていたか?


「ララシャ様とデートだ」


「貴方が前線に出れば犠牲はもっと減らせたんですよ?!」


「知らんが。そもそも、Fランクは雑用だろう?」


「何で普段はそう言うの気にしない癖にこう言う時だけ!……Fランクも戦線が後退したから、戦わされていますよ!!!」


ああ、なるほど。


避難の手伝いをしていたんじゃなくて、戦っていたんだな。


普段からボロボロの格好をしているのに、戦うと更にボロボロになって、芸術的と言えるレベルまで無様になってるな。少し笑えるかもしれない。


それはいいとして、俺にも言い分はある。


「いや、俺はいつも、規則は守っているぞ?守りたくない規則があるなら、そもそも権利も放棄する」


俺は、冒険者という身分と、モンスターや魔族を殺して良いというマーダーライセンスの為に、冒険者ギルドの規則は守っている。


また、街でも、街で生活する利益の代わりに、法律を守り、受けたサービスに応じる金銭を支払っている。


ルールは守る、それが基本だ。


気に食わないルールは守らないことで、ルールの加護もまた拒否する。


ルールを守ってプレイヤーになったからには、ルールの範囲内で戦う。グリッチは使うがな。


そして、ルールが気に食わないなら、その遊びには参加しない。


何かおかしいだろうか?


ゲームと同じだ、フラグ管理は得意だぞ俺は。


「ああっ!エドワード様!」


おお、サニーが来た。


「お願いします!街を、皆を助けてくださいませ!わたくしにできることなら、どんなことでもいたしますわ!だから……、だからっ!助けてください!エドワード様ぁっ!」


うーむ、そう言われてもなあ。


正味な話、人類側が死んでもホーンは入ってくるから、死ぬまで戦って欲しいのだが……。


「失礼します。エドワードさん、こちらを」


おや?


クララか。


何かを……、金色の紋章を掲げた?


金色の盾をドラゴンが両脇から支え、三本の交差する剣が刻まれた紋章……。


あれは何だ?


「ク、クララ?!それって、まさか!!!」


アニスが叫ぶ。


「これは、サーライア王家の紋章が刻まれた、『特別執行員印章』です」


ふむ。


「それは何を意味する?」


「私が、王家から選定された特別執行員……、つまるところの『勇者パーティ』の内定者であることを示すものです」


勇者パーティ?


「分からないでしょうか?まあ、つまりは、王から選ばれた人間だと思ってくだされば結構です」


「選ばれたから、どうなんだ?」


「『勇者パーティ』は、人間の国内において、『あらゆる法に囚われない』ことと、限定的ながらも『あらゆる人類種への命令権』を持つと、国際法で決まっています」


……なるほどな。


「もう、お分かりですね?法を守ると言うのなら……、この街を救いなさい!異邦人『エドワード・ムーンエッジ』!!!」

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