第30話 魔王軍の襲撃
「そ、それは……、そう、ですね」
アニスの説得を受けたシーリスが小さく頷く。
「そうだよ。エドって偉いじゃん?あんなに罵られても皆殺しとかしないんだよ?魔族とかならやってるよあれ」
「う、うーん、そうなのかも……?」
「それにさ、なんだかんだ言ってお金もちゃんとくれるじゃん。私達、囮役とか言われてるけど、囮役すらまともにこなせてないの分かってる?」
「う、そ、それは」
「囮役なんて大嘘で何だかんだで守られてるじゃん。精々、エドの身の回りの世話とか、お金の管理とか、そんな程度のことをやってるだけじゃん。それなのに、たくさんお金がもらえるんだよ?」
「はい……」
親に叱られた悪ガキのように小さくなるシーリス。
だがアニスの言葉は止まらない。
「孤児院の子達だって、エドが赤狐商会に言ってくれたから、赤狐商会が面倒を見てくれることになってさ。シーリスだって、最近は新しい魔導書も買ってもらって、実家への仕送りの額も増やせたんでしょ?」
「はい……、その通りです……」
アニスはそうやってしばらく、シーリスにこんこんと説教をしていた。
どうやら俺は、アニスに相当感謝されていたようだ。
「まあまあ、その辺りで……」
「クララもだよ。碌に働きもせずに寄生させてもらって、経験値を分けてもらってるじゃん。感謝しなきゃダメだよ」
「あらあら……、それはもちろんですね、申し訳ありませんでした」
クララにも飛び火。
しかしクララは正直に謝ったので許された。
対して、若干不服そうなシーリスは、じっくりと叱られる……。
そんな時のことだ。
「ま、魔王軍が攻めてきたぞーっ!!!」
からん、からん、からん。
街の警鐘が鳴り響く。
どうやら、魔王軍とやらが攻めてきたそうだ。
魔王軍とは確か、人類と敵対している魔族の連合軍だったな。
「こういうことは良くあるのか?」
隣のアニスに訊ねる。
「あんまりないけど、あると言えばあるって感じかな。前線に近いとか、鉱山街とかの重要な拠点は定期的に魔王軍が攻めてくるんだけど……」
「開拓地であるこの街を攻めても旨味はない、と?」
「そうなんだよねえ……。でも、魔王軍が何考えてるかなんて分かんないし……。いや、強いて言えば……、開拓される前に潰して人類の支配領域が広がることを防ごうとしている、とは言えるかも?」
「人類の支配領域が増えると、魔王は困るのか?」
「そりゃそうでしょ?魔王って言うのは、モンスターと共に生きる魔族の王だよ?」
ふむ……。
つまり、モンスターを戦力として使っているから、モンスターの生存域を減らされると困る、ということか。
「それに、魔族は色々な種類がいるけど、基本的に人類種が過ごしにくい土地を好むんだよね。毒沼とか、マグマとか」
なるほど。
どんな土地も平地に開拓してしまう人類は邪魔、か。
精神性も習性も見た目も全てが違う魔族……。
地球でいう人種などという生易しい「違い」ではないだろうな。
言ってしまえば、主食が人間の化物と一緒に生活できるか?と言う話になる。
多様性などと言うお為ごかしではだまくらかせない、絶対的な違い……。
それはまあ、敵対もやむなしか。
だが俺には関係が……、いや。
「ホーンが集められそうだな」
ホーンは集まるはずだ。
魔王軍と言うのだから、数も質も良いはず。
狩り甲斐があるな……。
「冒険者は集合してください!強制依頼です!!!」
お、早速だ。
俺達は、冒険者ギルドに再び足を踏み入れた……。
冒険者ギルドと言えば、昼間から飲んだくれている冒険者がいるという意味不明な場所だ。
まあ確かに、冒険者は毎日戦闘をする訳ではないので、依頼達成報告から即座に打ち上げをするみたいな感じとは聞いたが……。
それでも、このような有事の際に「こうなる」のは目に見えていたので、やめておくべきだろうな。
「おげえええ……!!!」
「さ、酒を抜かねえと!水をたらふく飲んで……、うっぷ、ぉえぇ……」
「な、なにぃ?!魔王軍らとぉ?!どうすんら、俺、べろんべろんらろ〜?!!うっ?!おええええ!!!」
まあ、アホ共はどうでもいいか。
そもそも、前後不覚になるほど飲酒をしないのは人として当然だとか、そう言うツッコミは無意味。
そんなことを言われて聞いているなら、そもそもここで慌てふためいてはいないだろうからな。
だが、戦士が、油断して酔ってたから死にました……、などとは恥だろうなとは思う。
墓標にも、「こいつアホなんで酔ってて死にました」と書かれるんだ、惨めだろう。
「ギルド長のビッグマンだ!」
お、オールバックの大男……。
冒険者ギルドのギルド長だったな。
「魔王軍の数は、辺境の街を攻めるにしてはかなり多い!お前らには、死を覚悟してもらう必要がある!!!」
へえ、そこまで言うか。
そして、そこまでの危機なのか。
「今更逃げる事はもうできんぞ!生き残るには、一人一人が全力で働く事だ!」
なるほど、逃げ道を塞ぐ、か。
もう逃げられないと言うのが事実かどうかは知らんが、少なくとも、逃げようとする奴は邪魔だからな。
「では、今から指示をする!一度しか言わんからよく聞けよ!!!」
そして、がなり立てるような大声で、ギルド長は指示を飛ばす。
「Bランクはパーティ単位で前線だ!お前らが主力だぞ、気張れよ!」
「「「「応ッ!!!」」」」
「Cランクも、パーティ単位で雑魚潰しだ!高ランクモンスターは無理せずにBランクパーティに任せろ!」
「「「「おう!!!」」」」
「DランクはCランクのサポートに入れ!パーティ単位ではなく、ジョブ単位で分かれて活動だ!前衛は戦闘の支援、後衛は城壁から射撃!回復役は野戦病院で街の神官と共に医療活動をしろ!」
「「「「はい!!!」」」」
「EランクとFランクは雑用だ!」
「「「「は、はいっ!!」」」」
……あれ?
「これは、俺も雑用しなきゃならないのか?」
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