第29話 狂いし月光
「見ろよ……、『満月の狂人』だ……」
「あいつ、また高ランクモンスターを狩ってきたのか……」
「何でも今回は、Bランクパーティの『勇壮なるアギト』から獲物を横取りしたって言うぜ」
「『勇壮なるアギト』は抗議したけど、パーティメンバーの半分を一撃で殺されたってよ……」
「クソ、あいつらが来てから、ギルドは変になっちまったぜ」
俺は、「暖かな声援」を受けながら、ギルドに報告をする。
「Aランクモンスター『アースドラゴン』を討伐した。途中で絡んできた冒険者パーティも殺害した」
いやあ、いきなり襲いかかってくるんだもんな。
で、軽く撫でてやったら死んじゃうんだもん、困るわ。
「もう……、もういい加減にしてくださいッ!!!!」
お?
受付嬢がいきなりキレたぞ。
何これ?
ランダムイベント?
「どうして……、どうしてこんなことをするんですかッ?!!!そんな力があるのに、どうしてッ……!!!」
「……?」
よく分からん、要領を得ない。
シリーズ恒例の抽象的会話だろうか?
プレイヤーに考察してもらうみたいな体で散々に吟遊する、いつものアレか。
それはそれで面白いのだが、リアルでそれをされるとクソイラつくんでやめて欲しい。
まあ、かと言って、往年のロボットアニメのようなレスバを挑まれても困るから、これくらいが丁度いいのかもしれないな。
「それだけの力!何故正しいことに使わないのですか?!!」
知らん知らん、レスバはしないと言っているだろうが。
そもそも意味が分からんのだが?
規則は破ってないぞ俺は。
最初にギルドと周辺の建物を破壊したことは確かに違反だったが、それももう借金を返済してチャラになったんだろう?
俺からすれば、人を殺して、テロをしても罰金で許されてしまう辺り、倫理観がちょっとアレだとは思うが。
でも、それがこの世界のルールなんだろう?
冒険者同士の私闘は自己責任。
ギルドに損害を与えれば罰金。
これがギルドのルール。
そして、街のルール、法律である、『人や物に損害を出せば、それを治すのに必要な金を二倍払う』というものも遵守して、罰金を支払った。
つまり俺は、怒られる謂れがないのだ。
だから。
「正しいとは?」
正しいことって何だよ?と言う話になる。
そりゃあ、道徳観?とかそう言うのの話をされりゃアウトなのかもしれんが、俺はもうそんなものはムーザランで擦り切れてなくなっちゃったしなあ……。
レジェンズアニマは、ムーザランは、先日まで共に笑い合った仲間や、恋をした女と殺し合わせるような倫理観ブッ壊れゲームだぞ?
俺も何度、この手で友の骸を抱いたことやら……。
回数を重ね過ぎて、もう俺がブッ壊れちゃってるんだよね。
今ももう、新たな友ができても、そいつを無表情で斬り殺せると思うよ。
もうなんかこう……、感じる心が壊れちゃっててさ。
ララシャ様が居てくださるから、まだ人間の体裁を取っていられるけど、ララシャ様と敵対すればマジで世界滅ぼすんじゃない?
そんな訳だから、フワッとした善意とか正道とか道徳とか、そういう要領を得ない尺度を押し付けられても、こちらとしては困惑するしかない。
「貴方は狂っています……!」
そんなこと言われても……。
「具体的に俺が何をした?何の罪がある?あったとして、贖罪の為に今度はいくら払えばいい?」
俺はヤコから渡された財布を開く。
……ああ、社会人として財布の一つでも持っておいた方がいいですよと言われてな。100%正論なので、最近はいくらかの小銭を入れた財布を持ち歩いている。
「お金の問題じゃないでしょう?!!罪のない人を何人も殺しておいて!!」
「だが、あちらから先に攻撃してきたんだ。エネミーを殺して何が悪い?」
「それは貴方が獲物の横取りをしたからでしょう?!!」
「そんなことを言われても、俺は依頼を受けられないのだから、たまたま獲物が被ることはあるだろう?」
「だったら!規則を守って奉仕依頼を受けて!」
「それは強制なのか?奉仕依頼を受けなければ、冒険者身分の抹消や権利の消失などが起きるのか?」
「それはっ……、ありません、けど!」
「じゃあ良いだろ」
「ーーーッ!!!貴方のような人が街の英雄だなんて、私は絶対に認めません!街の人達がなんて言おうとも、私は、私はッ……!!!」
あ、そういやそうだったな。
街の人からは、赤狐商会の情報操作(頼んでいない)もあり、「無給で危険なモンスターを始末する英雄」みたいに思われているらしい。
「そう言われても、英雄になどなったつもりはないが?」
「……もう、どこかへ行ってください。貴方の顔を見たくありません」
「そうか。では、今回はこちらの三つを始末する。今後は、馬鹿な冒険者に突っかかってこないようにしっかりと言い聞かせておいてくれるか?」
「ッ!!!もう、消えて!!!」
「だから、そう言われても困るんだが。また十日後辺りに報告に来るつもりだからな。俺の顔を見たくないのであれば退職するなりなんなりすれば良いんじゃないか?」
「ーーーッ!!!!」
さて、仕事をするか。
ララシャ様も、拾ったホーンで10センチほど大きくなられたからな。
500mlペットボトルほどの大きさから、2Lペットボトルほどの大きさになっている辺り、着々と力を取り戻していらっしゃるようだ。
大変結構なことである。
「エド……、なんで受付のお姉さんをいじめるんですか?」
おや、シーリス。
「別に虐めた覚えはないが」
「でも、あんな言い方……」
ふむ。
「気に食わないなら、パーティとやらを解散しても良いのだが」
「そんな……!私達、他に行くところなんて……」
いやそんなこと俺に言われても……。
自分の面倒は自分で見てくれんかね?
「シーリスさんのような、『ファイアアロー』しか使えない魔法使いや、アニスのようなスリ兼業の斥候、私のような新入りのよそ者……。私達には他に居場所がないんです」
と、クララが言った。
「知らんが」
「そう言わず、もう少しだけ私達のことも考えて下さいませんか?あと少し、言い回しを変えたり、態度を直したりすれば、敵はもっと減るのですよ?」
「充分に気を遣っているつもりなんだが……」
だって俺、会話してるんだよ?
会話ができるとか高等生物じゃん。
ムーザランでは皆、問答無用で斬りかかってくるからなあいつら。
若しくは、喋れはするが話が通じないイカれ野郎であることも多いが。
説得して剣を納める俺とか、ムーザランだと聖人君子だぞ。
斬りかかる前に会話するんだよ?偉くない?
俺はそう説明した。
「確かに偉いな」
ほら、ララシャ様もこう仰っている。
「でも……」
シーリスが尚も食い下がろうとするが……。
そこに。
「あたしはエドは優しいと思うけどね」
と、アニスが言ってきた。
「アニス?!どうしてですか?!」
「いや、シーリスこそさ、分かってる?」
「え?何がです?」
「今回、エドが仕留めたの。アースドラゴンだよ?」
「はあ、そうですね……?」
「……分かってないじゃん。良い?アースドラゴンだよ?Aランクモンスターの中でも上位、防御力だけならSランク下位にも届く」
「そ、そうなんですか?」
「そもそも、モンスターランクについてもよく分かってないでしょ?モンスターランクっていうのはね、『同ランクの冒険者パーティと同じくらいの強さ』って意味なんだよ?」
「つまり、アースドラゴンは……」
「そう。冒険者のプロ中のプロ、Aランク冒険者の四人以上のパーティで、初めて『対等に戦える』くらいのモンスターってこと」
「そんな……、だってエドは!」
「うん、そうだね。一撃だったね。要塞の城壁を一撃で吹き飛ばす尻尾攻撃を受け流して、攻城用の大砲を弾き返す鱗を斬り裂いて。一撃で殺したね」
「……もしかしなくても、エドって、バケモノ?」
「失礼だけど、そう言うしかないよね。多分、伝説のSランク冒険者でも、一撃で属性竜を殺すことなんてできないんじゃないかな?とにかく、エドはそれくらい強いんだよ。つまり……」
一度言葉を切って、アニスはこう言った。
「つまり、エドからすれば、私達も他の冒険者も皆、虫ケラみたいなものなんだよ。その虫ケラ相手に、警告をしたり説得をしたりしてくれているんだから、エドって充分に優しい人だよね」
と……。
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