第28話 医療神官
盗賊の女、アニスが付いてくることになった。
「パーティならもう一人、回復役が欲しいよね?実は一人、当てがあるんだけど……」
アニスは、俺の方をちらりと見る。
「好きにしろ」
「えっ?!良いの?!いやー、助かるなあ!イケメンなだけじゃなくって太っ腹で強いだなんてサイコーだね!」
全員囮だしな。
何役が増えても別になんでも良いよ。
そして、ギルド内の酒場で顔合わせをすることに。
出てきたのは、銀髪に真っ白な肌をした女だ。
髪はストレートでロング、優しげな微笑みを浮かべた温厚そうな美女。
大きな胸が、神官の白いローブを押し上げている。
「貴方が、エドワード・ムーンエッジさんですか?」
「そうだ」
「私は、クララ・レインシュラインです。Cランクの神官をしております」
「そうか」
「クララはね、凄いんだよ!若いのに従軍経験もある神官で、孤児院にもたくさん寄付してくれるんだ!」
と、隣に座るアニスが口を挟んでくる。
従軍経験?
対人戦をやったと言うことか。
訓練ももちろん大切なのだが、実戦経験がある奴は大変に貴重だ。
しかも衛生兵で実戦経験ありというのはかなり貴重な人材なんじゃないのか?
緊急医療の経験があると言うことだろう?
それが何故、辺境の街にいるのか?ってことを考えると、恐らく何か訳ありなのだろうと予想できてしまうが……。
「あらかじめ言っておきますが、私がこの辺境の街にいることは、特にやましいことがあるからではありませんよ?」
そんな俺の胡乱な視線を見てなのか、クララは微笑みを浮かべつつ否定してきた。
ふむ?
「では何故だ?」
一応聞いておくか。
「修行です」
はあ。
「修行?」
「はい。私は、レベルを上げて強くなり、いずれ『聖人』になりたいと思っています。その為に、戦いの多い辺境へ来ました」
聖人って何だよ。
そもそも、役職なのか?
為人を表す言葉ではなく?
職業聖人ってことか?
意味不明だな……。
まあその辺はどうでもいいか。
レベルなら、俺についてくれば上がるからな。
だが、それを言うなら、何故、現在最も激戦区だと言われている魔族との戦争の最前線に行かないのやら……。
ほら、アレだ。ここの領主がかつて行っていたという、最前線の街……確かアジンバリーとか言ったか?レベルを上げるために戦うのなら、そこへ行けば良いものだが。
謎が多い女だな。
表情も笑顔で固定だし。笑ってる奴はヤバい、ムーザランではそうだった。
いや嘘ごめん、ムーザランにはヤバくないやつがいないです。
……まあ別に、裏切られたら殺せばいいし、適当でいいか。
そうして、三体の囮が加わった『月華の剣』パーティは、快進撃を始める。
高ランク依頼を総ナメにし、恐ろしい速度でモンスターを抹殺していった……。
当然、冒険者ギルドは面白くない。
周りの他の冒険者達も、俺のことは疫病神扱いだ。
だが、重ねて言うが、俺は一つも違法はしていない。
ルールは破っていないのだ。
俺はたまたま高ランクモンスターがいる場所に散歩へ行き、たまたま遭遇した高ランクモンスターと、身を守る為にやむを得ず交戦して殺してしまった、と。そういう不幸の積み重なりによる望まない結果な訳だからな。
だから周りも、何も言うことはできない。
それはそうなんだよな。
俺を止める為に、「高ランクモンスターとは戦ってはならない」みたいなルールを作ったとすれば、冒険者はモンスター駆除業者であるのに、身を守る為に戦うことを許されないということになる。
これは、冒険者ギルドの理念的にも、追加できないルールだ。
因みにその理念とやらは、建国王ヨシュアの「無辜の人々を守る勇敢な志願兵達!」という言葉らしい。
まあ、そうでなくとも、初日で絡んできたチンピラ冒険者を文字通り消し飛ばした俺に、直接何か意見できるような奴はいない。
また、この辺境の街には最高でBランク冒険者しかおらず、そのBランク冒険者が手こずるような強力なモンスターをタダで始末してくれているというのは、領主だけでなく市民も助かっているので、強く文句を言えないということもある。
ギルドは未だに俺のことを見習いのFランクに留め置いているが、逆説的に言えばこれ以外に俺に罰を与えられないということだ。
それも、罰というより、ギルドの規則上当然の仕打ち。
見習い相当のFランクは基本的に奉仕依頼というものしか受けられないこと。
降格を受けた冒険者は十回の奉仕依頼の達成をしない限り元のランクには戻れないこと。
俺は規則を作った経験などないので、この制度が妥当なのかどうかは知らんのだが、俺がやったこと(殺人とテロ)に対して罰が軽過ぎるように感じて怖くなるな。
実質お咎めなしとかヤバいでしょこれ。
世界観が本当によく分からん。
中世ヨーロッパ風ファンタジーと見せかけておきながら、実質近世だし、一部は近代。
中世なのに中央集権の絶対王政であり、その癖に、血統の尊さよりも強さが重んじられる。
貴族は中世ファンタジーの癖にやたらと経済に明るいし、そもそも貨幣の信用が高過ぎる。
例えば、戦国時代の日本では、貨幣よりも米の方が信用されており、国力を表す数値が「石高」という米の生産量で表されるくらいだった。
この世界でも、金は食べれないし、金は着れない。なのに、金の信頼が高過ぎるのだ。
おかしなことばかりだな。
まあ、あれだ。
そもそも、俺に罰則を加えようと加害してくるなら、武力で対抗できるから……。
結局、最後にものを言うのが「力」というその辺は中世ヨーロッパなのかもしれない。
いや、全ての生き物がそうか。
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