第20話 新たな依頼

話を聞いた。


どうやら、この世界での戦士……、「冒険者」と言うものは、「パーティ」と呼ばれる分隊を組み、分隊単位での戦闘行動を行うものらしい。


そして、冒険者という存在にはそれぞれ役割がある。


大きく大別して、「前衛」と「後衛」があり……。


前衛は、エネミーに近接攻撃をしたり引き付けたりする役割を。


後衛は、エネミーに遠隔攻撃や味方に援護をする役割をそれぞれ持つそうだ。


うん……、うん。


油断をしている訳じゃないんだが……。


この世界の人間、弱過ぎないか?


弱過ぎるから、それぞれが一つのことしかできない。だから群れる訳だ。


ムーザランの戦士ならば、術師でも接近戦は可能だし、剣士でも弓やボウガンで遠距離攻撃できる。回復アイテムもそれぞれが持つし……、そして、罠を張り、エネミーを使い、偽装して、待ち伏せし、奇襲する。その逆も然りで、察知して殺し返す。


この世界の人間には、それが一人ではできないから、剣だけしか使えない剣士と、術だけしか使えない術師とが組み、集団行動をするという訳だ。


正直に言って馬鹿らしいが、それでもまあ、タゲが他所に移るだけでも充分にアドってことなのかね……?


エネミーがこちらの用意した囮に気を取られている時に後ろに回り、バックスタブで仕留めるのは、ムーザランでは定石も定石。


当たり前のことだな。


まあこの、シーリスがやりたがっている後衛?とやらであろうとも、少しでもタゲを取ってくれるならいないよりはマシってことで……。




早速、パーティとやらを結成した。


パーティ名を求められたので、俺の最も誇れる立場である『月華の剣』としておく。


月華の剣は、ララシャ様の従士にして伴侶であることを表す称号のことだ。


俺が何者かを表すのに、これ以上相応しい言葉はない。


さて、次の獲物を選ぼうか。


赤狐商会から渡された希少素材リストに、現在出ている依頼を加味すれば……。


うむ、この辺りがいいだろう。


×××××××××××××××


Bランククエスト


サイクロプスの討伐


場所:チェリーの森南部

期間:十日

依頼人:領主ソライル

条件:確実な討伐を希望、その為に討伐の証に頭を持ってくること


×××××××××××××××


×××××××××××××××


Bランククエスト


サンダーバードの討伐


場所:チェリーの森横ミコリ川

期間:十日

依頼人:領主ソライル

条件:確実な討伐を希望、その為に討伐の証に頭を持ってくること


×××××××××××××××


×××××××××××××××


Bランククエスト


ワイバーンの討伐


場所:ミコリ川西部

期間:十日

依頼人:領主ソライル

条件:確実な討伐を希望、その為に討伐の証に頭を持ってくること


×××××××××××××××


三枚の依頼書を引き剥がす。


そしてそれらを受付に提出し、こう言った。


「この依頼は取り下げた方がいいぞ。今週中には解決するからな」


「ま、またですか?!」


文句を言う受付嬢を無視して、俺は外に出た。




「クエストですね!頑張りましょう!」


シーリスが握り拳を作ってそう言う。


「ああ、行くぞ」


「い、いや、今日は準備しなきゃですよ?」


準備?


そんなもの必要だろうか?


ああ、いや、そうか。


俺には不要だが、こいつは食事とか睡眠とかするんだな。


不便だなあ人間は。


しかし、そんな金はあるのだろうか?


聞けば、その日泊まる宿にも困っているくらいの極貧生活だったらしいが……。


いや待て、そういえば……。


「ヤコから恵んでもらったんだろ?」


「ちょいちょい!恵んでもらった訳じゃないです!これはそう、融資!融資を受けたのです!」


へえ、融資。


これもまた、久しぶりに聞いた単語だな。


ムーザランでは貸したものはパクられるか呪いを付与されて返却されるかの二択なので、融資とか言う生優しい単語を聞くのは本当に久しぶりだ。


だが、融資とは、借金とは、いずれ返さなきゃならないはずだ。


「じゃあいつ返すんだ?」


「……しゅ、出世払いで」


カスだなこいつ……。


返す見込みがないのに金を借りたのかよ。


人として終わってるなあ、おい。


俺がゴミを見る目で見つめていると……。


「と、とにかく!準備しますよ、準備!」


そう言って誤魔化して、俺の服の裾を引っ張ってくるシーリス。


まあ、こいつが借金まみれになろうとも別に俺にデメリットはないしなあ。


見た目はそこそこ良いんだし、裏路地で金だけは持っているようなおっさんに尻でも振れば、それこそいくらでも『融資』を受けられるだろうよ。


そこはこいつ個人の問題なので知らん。


さて……、準備とのことだったが。


「何が必要なのかは知らんが、とっととしろ」


俺はもう既に、と言うか常に準備できてるから問題ないんだよな。


そもそも、レジェンズアニマのプレイヤーは最初から、飲食睡眠不要の人種(?)という設定だから、サバイバルのやり方とかは俺も分からんぞ。


「えーっと……、多分、食糧と水と、替えの服とかでしょうかね?」


「何で俺に聞くんだよ……」


だから、分からんと言っているだろうが……。


「いやだって、私、街から出て野営したことなんてないですもん」


はぁ?


「じゃあ、今までどうやって……、そうか、日帰りか」


「はい」


嘘だろこいつ……、マジで囮以外には何にもできねぇのかよ。


介護プレイがイベントってことか?


だっる……。

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