第19話 この世界は役割を演じる遊戯である

「妖精を愛するキケンな雰囲気のイケメン剣士!こんなのもう都会で流行りの冒険小説ですよぉー!」


目を輝かせる馬鹿女。


付き合ってられん。


「わーわー!待ってください!私も仲間に入れてくださいよー!」


「はぁ……?」


「これアレですよね?!これから英雄譚とかになるやつですよね!英雄の門出みたいなやつですよね〜っ?!私も貴方の仲間になって、英雄になりたいんです!」


こいつなんなんだマジで。


頭おかしいんじゃないか?


えっ、てかそもそも、仲間とかそういうシステムがあるのか。


ああ、いや、確かに冒険者ギルドにも、四人組くらいのグループが幾つもあったからな。


俺に絡んできたゴミクズ共も三人組だった。


なんかそういうもんなんだろう。


共闘NPCはいるだけで得だからな。使えない雑魚でも、敵のタゲが分散されるから、戦いが楽になる。要するに囮だ。


だからまあ、仲間?とやらがいても問題はないだろう。


ララシャ様は最近放任主義に目覚められたので、俺が答える。


「良いぞ、仲間にしてやる」


と。




「では、改めまして!私はシーリス!シーリス・ハイブリッジ!大魔導師を目指しています!」


魔法の杖ですらない木の棒を掲げて大言壮語を吐く馬鹿女。


キラキラ光る目は、今後の人生に栄光があると信じて疑わないアホの目だ。


まあ、囮くらいにはなるだろ。


幽体召喚よりはマシだ。


幽体召喚と違って、呼び出すのにも運用するのにもコストはかからないからな。アレは燃費がね……。


仲間になるにあたって、分け前として生活できるだけの金は欲しいとは言っていたが、俺は金が要らんのでこいつにやればwin-winじゃないかね。


さて、ギルドに帰ってきた訳だが、結局依頼達成にはならないそうだな。


だが一応、後で文句を言われたくないので報告はする。


受付にこう言った。


「仕留めた。依頼は取り下げた方がいいんじゃないか?」


「ほ、本当に倒したのですか……?!Bランクのマンティコアを……!」


「そうだ。死骸はギルド外部の店に売る。用は終わりだ」


証拠として頭を提出するか?と訊ねたが、ギルドでは買い取れないと突っぱねられる。


その足でそのまま、俺は赤狐商会へ。シーリスもついて来た。


「あらあらあらあら!早速ですか!何か仕留めて来たのですね?何でしょうか、オーク辺りですか?」


俺を出迎える狐女……、確かヤコとかいうのが揉み手で近付いてきたので、目の前にマンティコアの死骸を出す。


「………………はぇ?」


「これで良いか?」


「な、ななななな……?!」


「ん、ああ、そうか。借金だったか?そう言うのがあるのは分かっているが、この女に金を渡したい。いくらか包んで……」


「「何ですかこれはーっ!!!」」


ヤコと、ついでにシーリスが、二人で叫んだ。


何なんだこいつら……。


急に叫ぶとか、頭おかしいんじゃないか?


「こ、これっ!マ、マンティコア?!」


シーリスが言った。


「そうですね」


知らんが。


依頼書の通りの特徴のエネミーを殺しただけだ。


「尻尾の根元と首しか斬ってないなんて……!普通、マンティコアの素材なんて、激しい戦闘でズタボロなのに……!これは大金になりますよ!!!」


ヤコが言った。


「そうですね」


だから知らんが。


ちょっと剣で撫でただけで死んだんだもんよ。


秒殺したから強いかどうかなんて分からんわ。


「これほど状態がいいとなると、100000Gで買い取らせていただきます!」


「何でもいい。それより、この女に金をくれてやれ」


「はい?……この、見窄らしい子にですか?」


まあ、見窄らしいのは同意だが。


「み、見窄らしい?!!そんなことないでしょ?!私はほら……、その、清貧なだけです!!!」


「そ、そうですか。ええと、恵んであげれば良いと?」


ヤコは完全に貧乏人を見る目だ。


まあ、見れば分かるが、ヤコの赤狐商会の事務所は、絢爛ではないが気品がある調度品が並ぶ高級店。


嫌味さがない生来の金持ちのそれ。


成金は稼いだ金を誇り豪奢に飾りつけるが、生まれ持って富を持つ者はむしろ、気品を第一に考えるものだ。


「ああ、適当な鎧でも着せてやれ」


「鎧ですか?」


「そうだ、一撃で死なないようにな」


「はあ、この子のサイズだと在庫はあるかどうか……」


「いや、ないならこちらで用意しても良いんだが……」


そうやってヤコと話していると……。


「ちょっ、ちょっと待ってください、何で私が鎧を着るみたいな話になっているんですか?」


と、シーリスが割り込む……。


いや、そりゃなあ?


「囮なんだし、長持ちする方が助かるだろう?」


「お、囮ィー?!!!」


何を驚くことがあるのだろうか?


「わ、私、魔法使いなんですけど?!!」


ん?そうなのか?


火を使っていたよな……。


浄化を司る炎と、それと相対する腐敗や汚濁、毒と呪い、そして神聖と雷は歌唱術の領域の筈だが……。


そして魔法、つまりはルーン術は、理力と力場、精神と凍結、暗黒と混沌を支配する。


ああ、いや、この世界ではそうなのか。


いかんな、いい加減適応せねば。


だがしかし……。


「魔法使いだから何だ?戦士なら、自分の身くらい自分で守れよ」


と言う話だ。


「は、はぁ?普通、魔法使いは前衛のタンクに守ってもらうのが定石ですよ?」


????


「すまん……、ちょっと……、分からない……」

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