第18話 小さな魔法使い

『ギエエエェ!!!!』


「ザッコ……、何やこいつ……?」


ちょっとお試しで軽く流す程度に相手したのだが、三撃目で死んじゃった。


弱くないかこれ……?


あ、いやでも、ホーンは5000入ってきたぞ。


となるとこれは、一週目世界のストーリー中盤のちょっと厄介な雑魚敵くらいの格はある訳か……。


いや、ねぇだろ。


初撃で尻尾攻撃してきたから、霞の踏み込みで背後に回り尻尾を斬り落とす。


そして、振り向き様に放たれた猫パンチを掻い潜って喉元に突き。


するともう死に体になっていたので、首を切り落として介錯。


それで終わりだ。


ざ、雑魚過ぎる……。


むしろ、二日間歩って5000ホーンという徒労感がなあ……。


しかも、念のために『音溜まり』での休憩を繰り返してみたが、この世界はどうやらエネミーが復活しないっぽいし……。


世界の全てを滅ぼすのが先か、ララシャ様が御満足なさるのが先か……。


一応、道中の別の雑魚敵で2000ホーンは稼げているとは言え、効率は悪いな。


手に入れたホーンは即座にララシャ様に貢いで吸ってもらう。


まだこんな程度じゃ何も変わらないが、ララシャ様が喜んでるのでオールオッケェイ。




そんな徒労の帰り道……。


「ファイアアロー!えい!ファイアアロー!」


なんか、火の矢をぴょいぴょい飛ばしているクソデカ帽子女が、デカいカエルに追い詰められていた。


「うぎゃー!近寄るなー!ファイアアロー!ファイアアロー!」


何だあいつ……。


まあいいや、アホくさいから放置放置。


「ちょっ!そこの人!助けてくれてもいいじゃないですか?!」


「いや、だるい」


「いやいやいやいや!ちょっと!マジで!ほら美少女ですよ?!魔女っ子美少女ですよ?!!ほらほら、助けたいでしょ?!!!」


なーんだこいつ?


NPCイベントか?


だっるいなあ……。


ああ、でも、なんだか見たことない歌唱術?っぽいのを使ってるし、ひょっとしたら術を教えてくれる系のNPCなのかもしれん。


教本を渡せば術を授けてくれるNPCと言えば、基本的に変態かカスなので、こいつもその口だろう。


……いや、申し訳ない。


訂正させてくれ。


ムーザランは基本的に変態かカスしかいない。


で、この世界の術を教えてもらえるとなると……、少し興味はあるな。


それなら一応、助けてみるか。


そんな手間でもないしな。


抜刀……、はい終わり。


霞の踏み込みからの首斬りで余裕でした。


「は?つっよ……、なにこの人怖……」


「助けてやったのになんだその態度は」


「アッハイ、ごめんなさい!ありがとうございましたー!」


大袈裟に頭を下げる女。


うーん、この視点からだと、帽子がデカ過ぎるのと、俺の背が高いのとで、頭しか見えないな。


俺は、頭の悪いクソデカ帽子を剥ぎ取る。


《シーリスのボロ帽子》

《「魔法使いシーリス」が、幼少の折に「賢者アンセル」に憧れて自作したボロ帽子。

これは、貧しい家に生まれたシーリスの、小さな夢の欠片だった。》


「あーっ!取っちゃダメですって!返してください!かーえーしーてー!」


ふむ……。


ブラウンの髪色、ショートカット。クセのないストレートな髪質で、若さ故の潤いがある。


鳶色の瞳をしたガキは、少し不満そうな顔をしているが、これはそういう顔つきなのだろう。


美人ではあるが、可愛くない女と言うやつだ。


たまにいるんだよな、生まれつき不機嫌そうに見える顔つきで、それで損をする奴。


しかし、雰囲気は柴犬のようで、やかましい感じがする。


で、身体の方は泣きたくなるほどに貧相でチビ。


声音で女だとは分かるが、酷く発育が悪い。


おまけに、服装は黒い魔法使いのでかい帽子に、黒いダボダボのマント。


完全に不審者だ。


でもそれを言えば、ムーザランで術を教えてくれるNPCは常に鉄仮面を付けている変態とか、全裸に向日葵を模した仮面のみを付けたマジキチとか、そもそも人じゃなくて霊猫とかだからなあ……。


それらと比べれば、まだマシという感覚はある。


よく見れば、魔女帽子もマントもところどころがほつれて破けており、非常にその……、貧乏くさい。


流石に、公衆衛生が無駄にしっかりしているこの国の住民であるからして、体臭が臭ってくるほどではないのだが、服はボロいし肌も薄汚れている。


「うへぇ、やばい人だったか……。声かけたの失敗だったかなって……、うわっ!すんごいイケメン!」


で、この女は、俺の顔を見た瞬間、頬を染めて目を輝かせる。


イケメン……?


俺の顔は良いのか?


ムーザランでは容姿がよくても何もないしな……。


顔のデータは、自分の顔そのもので編集とかはしていない。


混血が進んだ地球人は、人種による違いなんて大してないしな。


強いて言えば中東系の顔付きらしいと、健康診断データで見た記憶がうっすらとある。


まあいいや、帽子を返却する。


「イケメン剣士さん!貴方、冒険者ですか?!」


んん……、まあそうだな。


「ああ」


「もしかして、ソロだったり?」


ソロ……?


ああ、一人か?ってことか。


「一人だ」


「彼女とかいますか?!」


彼女……?


「ララシャ様がいらっしゃるが?」


「えっと、そちらの妖精さんみたいな?妖精さんと付き合ってるんですか……?」


お?


文句あるのか?


斬る?斬っちゃう?


「それって……、すっごく素敵ですね!」


参ったな……、また、話が分かる奴が来ちゃったぞ。

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