第17話 人面獅子
冒険者ギルドは、三日程で最低限は補修されていた。
ブルーシート的なもので穴を申し訳程度に塞がれたギルドに俺が入ると……。
「お、おい見ろよ!」
「あいつだ!」
「気狂いの剣士……」
と、大歓迎されていた。
もちろん皮肉だ。
ただ、俺が言いたいのは、この程度のアウェー感でパフォーマンスに差し障りが出るなら、戦士には向いてないと言うことだな。
ムーザランは戦闘の難易度をただ上げるだけではなく、クソみたいな誰も救われない鬱ストーリーをプレイヤーに叩きつけることにより、メンタルを削って盤外でダメージを与えてくるぞ!
俺?
俺はもう何も感じなくなってるからなあ。
よく、格闘漫画とかで「殺気で肌が粟立つ!」みたいな描写があるだろ?
アレももう感じない。昔はあったんだけどね。
危機感は感じられるが、危機を危機として認識できないというか……。
もう、死に過ぎて、恐怖心とか痛覚とかぶっ飛んでるのか、それとも、強くなり過ぎて恐さを感じなくなってるか……。
どちらかは分からんが、目の前に咆哮するドラゴンがいても何も感じない領域にまで来ている。
いよいよもって生命として終わってる感があるが、もう全部諦めてるぞ。
さて、依頼だったか?
えーと、赤狐商会の方から来ている依頼書を見て、その兼ね合いを考えると……。
うん、これが良いな。
×××××××××××××××
Bランククエスト
マンティコアの討伐
場所:チェリーの森北部
期間:十日
依頼人:領主ソライル
条件:確実な討伐を希望、その為に討伐の証に頭を持ってくること
×××××××××××××××
赤狐商会からは、マンティコアの尻尾が求められてたんだよな。
頭はギルドに提出して、尻尾とかは商会にくれてやろう。
俺は、この依頼書を掲示板から剥ぎ取り、受付に出す。
なんかそういうシステムらしい。
もう、めんどくさいのでツッコミは入れないこととする。
すると、受付嬢は……。
「何を……!貴方は、降格してFランクなんですよ?!自分の立場が分かってるんですか?!!」
と言われた。
全く、全てが意味不明だな。
「よく分からんので説明をしてくれ」
「貴方は……っ!良いですか?!冒険者同士の私闘とはいえいきなりの殺人行為!放逐されなかっただけでもありがたく思うべきなんです!普通なら反省して、まずはFランク依頼の奉仕依頼を受けて、返せなくてもコツコツと借金を返すのが人として正しい生き方で……!」
あっそう。
「分かった、もう結構だ。で、依頼は受けられるのか?」
「受けられませんっ!Fランク冒険者は見習いとして奉仕依頼を認められるまでこなさない限りは上のランクに上がれない仕組みですっ!そして、自分のランクより2ランク以上のクエストは受理できない規則なんですっ!」
ふーん、そういう感じか。
ううむ、そうだな……。
ああ、これならどうだろうか?
例え話をしよう。
パチンコ、というものが昔はあった。
これは、簡単に言えば、有料のゲームで勝つと店舗から「お土産」がもらえて、何故かその店舗の隣に質屋があり、「お土産」を高額で買い取ってもらえる……、という。
ギャンブルで勝てば金がもらえるって話なんだが、日本は当時賭博を禁止していた。
つまり、ルールの抜け目を突いたってことだな。
そう、だから……。
「では、俺がたまたま、チェリーの森北部に散歩に行き、たまたま遭遇したマンティコアとやらを倒した場合、どういう扱いになる?」
「な、なんてことを……?!!!」
「どうなるんだ?」
「……その場合は、罪には問われませんが、依頼を受けた訳ではないので報酬はもらえません」
ふむ、違法だ何だと騒がれないならそれでいい。
冒険者の身分も、単なるマーダーライセンスが欲しかっただけだからな。
冒険者ならば、モンスターを狩っても罪には問われないので、ライセンスを得ただけなのだ。
そう、実は、モンスター討伐関連は冒険者ギルドの管理下にあり、手を出してはいけないモンスターや、禁猟期などが決められているそうなのだ。
なんでも、モンスターの中には、倒すと貴重な素材を得られるものなどがいくつかいるらしく、それを狩るために一般人が森に入り、行方不明者が続出した……なんて過去に事件があったらしい。
故に、基本的に狩りが目的で森に入れるのは冒険者のみとして、冒険者にも様々な制約が課されているそうだ。
その制限や規則も、多くは建国王ヨシュアが決めたそうだな。
しかし今回のようなはぐれ個体の討伐は、冒険者なら禁止されてはいないのだ。出会ったモンスターが禁猟モンスターだったので殺せずにこちらが殺されました、はダメなんで、抵抗して良い、と。そういうことなんだとか。
なら全てが問題ないな。
俺は、マンティコアの依頼書を受付に置いて、外へ向かった……。
その辺の人に訊ねて、チェリーの森へ。
ショートソードで襲いかかってくるモンスターを膾にしながら北へ北へと進んで二日。
『タスケテー』
森から声が聞こえてきた。
ふむ。
大体予想はできているが、声がする方に向かうと……。
『タスケテー、タスケテー……、グオオオオッ!!!!』
「やはりか」
人の声を真似して、人を誘き寄せていた訳だな。
醜い老人の顔をした、大型の獅子。
尻尾は巨大な蠍の尻尾となっており、針の先端からは赤黒い毒らしきものが滴っている。
さて、Bランク相当のモンスターとのことだが……。
「どれくらいのもんかねえ?」
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