第12話 優越

俺がカッコよく勝ったことにより、ララシャ様は見事なドヤ顔を晒していらっしゃった。


んんん、お可愛いですよララシャ様!さて、スクショスクショ……。


ララシャ様が、俺がオレツエーして悦に浸っているのがわかる。


ララシャ様もムーザランの女であるからして、人格の方はアレだ。


だが、苛烈なエゴイズムと傲慢さ、それらと慈悲深き良心とが両立されているところがかわいいのだ。


欠点の全くない存在というのは、それそのものが欠点となるからな。


永遠とか完全とか絶対とか、そういう強い言葉には往々にしてしっぺ返ししたがるのが人間のサガだしな。いや、世の中は……、世界の摂理はそう定めているのかもしれない。


ムーザランにも絶対の存在やら完全なる神やら色々いたが、全部気持ち悪い化け物に成り下がっていたあたり、真の意味で無欠たるものなど存在し得ないことがよくわかる。……制作会社の方針なのかもしれないが。物語のテーマがどうとか、そう言う感じの。


まあ、なんだ。つまり、ララシャ様の内包する不完全性もまた、彼女の美しさなのだ。


大体にしてかわいいもんじゃん?


ムーザランには、負けた腹いせに国一つ燃やしたクソメンヘラ女とか、命乞いした後に騙し討ちしてくるクソボケとか、旧世紀のロボットアニメみたいな電波女とか、クソ女しかいないし……。


それと比べりゃ天使よ、天使。


俺は、へし折れた木剣をその辺に投げ捨て、勝手に設置した音溜まりの前に腰掛ける。


『聾の者』たる俺は、本質的には生きているようで死んでいるからな。


食事も睡眠も不要だ。


いや、可能ではあるし、それで快楽を感じることもあるのだが。


ついでに言えば性行為も可能だが、孕ませた女から何が生まれてくるかは謎だ。


ワンチャン、孕ませた相手の股ぐらから化け物が這い出てくる可能性も微粒子レベルとは言わずに存在しているからなあ。




「ぐ、ぐぅ……、にしても、まだ痛いな……」


ダメージを受けてしゃがみ込んでいる領主ソライルを放置しながら、俺はぼーっとする。


ぼーっとすることにかけては天才的だぞ俺は。


全世界ぼーっとする選手権があればぶっちぎりで優勝できる自信がある。


「お見事でした!まさか、お父様に勝つだなんて!」


あー……。


サニーだったか。


相手するのが面倒だな。


「そうですね」


適当に流しておこう。


「お父様は、若い頃は王都の騎士団で活躍していたとても強い騎士でしたのに!しかも、あの剣聖様の弟子でもありますわ!」


知らない単語を出すな。剣聖様って何だよ。いや、興味はないが。


ってか、伯爵なのに騎士団に入ってるの、マジで意味不明だな。


騎士爵からの陞爵ってことか?


そもそも騎士団という呼び名ではなく、それなら軍隊で良くないか?


で、剣聖様とやらのポジションは何なの?具体的に何がどう凄くて偉いの?貴族であることよりもネームバリューがあるのか?


意味が分からんな……。


「身内の自慢のようで少し恥ずかしいのですが……、お父様は、最前線のアジンバリーで十年間も戦い続け、五人の敵将を討ち取った豪傑なのですよ」


自慢してるじゃねーか。


いや、ってか待てよ?


戦争してるのかこの国?


俺としてはホーンが拾えるので願ったり叶ったりだが……、十年も戦争が続いている辺り、この国の上層部は外交できないカスだな。


まあでも、興味は今のところない。


とりあえずは、推薦状と身分証明書とやらを受け取り、冒険者ギルドなる胡乱極まりない組織に所属して、公的なマーダーライセンスを得ることが今のタスクだ。


NPCのイベントはどうでもいいです、疲れるので。


ムーザランでファンタジーの風情とかは充分堪能したから。もう結構ですから。


「将軍を五人討ち取った功績により、伯爵に陞爵され、今はこの辺境開拓の任についており……、それで、確かに腕は鈍っているのかもしれませんが、それでも、並の剣士に敵う相手ではないのですよ?」


前線の英雄から辺境開拓地行きって、普通左遷って言わない????


まあ良いや。


「そうですね」


どうでもいい。


「やはり、エドワード様もそうお思いですか?お父様は強かったでしょう?」


「そうですね」


「まあ!素敵ですわ!達人同士で分かり合うところがあるのですね!まるで、都会で流行っている冒険小説のようですわね!」


「そうですね」


興味ねえよ、消えてくれ。


「おいっ!貴様!お嬢様に対して何だその態度は!」


うわ、ウザいのが増えた。


確かに顔はいいのだろうが、俺はムーザランで顔だけはいい奴らを何人も見てきたから、今更、単なる美人に心動かされたりはしないのだ。


そして、権力にも興味はない。


だから相手が美しい御令嬢であっても、俺の気は引けないのだ。


さて、何だったか?


そう、セレスティーナだったな。


女騎士だ。


「私は認めないからな!お前のような奴!」


知らねーよ。


「そうですね」


「それしか言えんのか貴様は!」


「そうですね」


「こ、このーっ!」


「そうですね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る