第13話 天上の美声
早朝。
結局、音溜まりの前でぼーっとしていたら、屋敷の客間で寝させられた。
好きでぼーっとしているのに、何故文句を言われねばならないのだろうか?意味が分からんな。
で、客間のベッドに転がっていたが、睡眠はもう飽きているので早々に起きた。
寝るのって一昔前にハマっていたけど、もう飽きちゃったんだよね。しばらく寝なくて良いわ。
そんな訳で朝から軽く剣を振り、魔法と祈祷の練習をする。
ムーザランにおける魔法とは即ち『文字』であり。
祈祷とは即ち『歌唱』であった。
文字とは、ムーザランの根源たる福音、それを「力ある図形」にて表すもの。
古来、文字とは魔の業の入り口なのである。
精神力を対価に、この世の理(ことわり)を捻じ曲げるそれを、ムーザランでは『ルーン術』と呼んだ。
また、歌唱。
歌唱とは、ムーザランの根源たる福音、それを遍く伝える為の技法、つまりは「歌」だ。
古来、祈りとは歌なのである。
精神力を対価に、神話を再現するそれを、ムーザランでは『歌唱術』と呼んだ。
まあつまり、ゲーム的には、文字を中空に書くモーションで魔法が使えて、歌を歌うと祈祷が使えるという訳だ。
だから俺は、それらの感覚を忘れないように、両手の指で中空に文字を書き、歌を歌うのだ。
もうマジで、年がら年中歌ってるんで、色々とプロ級だった。
「Aー、RAー、LALALAーIーEー」
完全に歌だが、これは実は、ムーザランの聖典の一つを朗読している。
訳すれば、「大いなる雷神ライエよ、畏み申す」だろうか。
ムーザラン古代語も暗記してるからなあ……。
因みにこの歌は、精神力を込めて歌うと、周囲の地面が抉れるほどの雷が降ってくるので注意が必要だ。
やることもないし、しばらく歌ってるか……。
「「「「わああああっ!!!!」」」」
え、何これ。
「とても、とても素晴らしい歌声でしたわ!」
なんか知らんけど、人がたくさん集まっていた。
ララシャ様しか見てなかったから意識の外だったんだが、ゾロゾロとたくさんいる。
「わたくし、もう、感動してしまって……!」
興奮しているサニーが、俺の手を握りながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
「なんの話だ?」
「ですから、歌ですわ!」
ああ、はい。
別にこれくらい歌える奴はその辺にいたからなあ。
「で、推薦状とやらは?」
「あ、はい!お昼にはできますわ!」
なるほどね。
じゃあ俺はその辺でララシャ様を観察してるから、あとよろしく。
「全く、やっとかよ」
「まあそう言うな、ムーザランで過ごした時間と比べれば、一昼夜待つ程度、瞬きする間に等しいではないか」
「ええもちろんですララシャ様!」
さて……、冒険者ギルドだったか。
胡散臭いな!
えーと、確かここだったな……。
《冒険者ギルド》
デン!
「……ふざけてんのか?」
冒険者ギルドと書かれた看板がデカデカと掲示され、街の大通りのど真ん中に、西部劇の酒場のような建物が鎮座している。
眩暈がしそうだ、なんだこの雑さは。
中世ヨーロッパ風の世界観で、なぜいきなり西部劇風の酒場が出てくるんだ?
意味が分からん。
まあ、いい。
飲み込もう。
実害はないので放置しよう。
さて、バカみたいなスイングドアを開いて中に入ると……。
うん、酒場だ。
恐らくはその、冒険者?とかいう奴らが、昼間から飲んだくれている。
大丈夫なのかこれ?
戦士が昼間から飲んだくれているとか、倫理的にも論理的にもヤバ過ぎるだろ。こんなんで緊急出動というか、急に戦いになった時にどうするんだよ?
まあいいや、とっとと登録しよう。
窓口に、なぜかやたらと美人な受付がいる。
金髪で、白いシャツの上にブラウンのベストを着ているような、事務員風の女だな。
その窓口に、領主から受け取った書類を押し付ける。
「登録だ」
「はい、こちらは……!しょ、少々お待ちください!」
そして五分後。
「よう!お前が、ソライルを打ち負かした達人か?」
と、オールバックの黒髪をした大男が現れる。
白シャツの胸元を開いて、そこから盛り上がった大胸筋と胸毛が覗く、筋肉バカって感じの中年だ。
だがしかし、周りの人間の態度などを見ると、粗野なだけのおっさんではないようだと感じられる。というか、尊敬されているのだ。
恐らくは、このギルドとやらで立場が高い奴なんだろう。
「登録は終わったのか?」
「いや、その前に話を聞きたいんだがな」
はあー?
「話ならソライルにしてやっただろうが。これ以上待たされるのはごめんだ」
と、俺がそう言うと……。
「あ、貴方!ギルド長の言うことを聞けないの?!」
と、受付の女が口出ししてきた。
一方で、ギルド長と呼ばれたオールバックの大男は……。
「……なるほど、なら、手続きを始めるぜ。だがその間、話を聞かせてくれよ」
「手続きはいつ終わる?」
「ほんの五分程度だ」
ふーん。
「じゃあ、待っているから早くしてくれ」
「待て、聞かせろ。お前は何者だ?」
はー?
「推薦状?とやらに書いてあるだろう?」
「転移者だと?それは流石に信じられん。あの純真なソライルなら騙せるかもしれんが、俺は騙されんぞ」
はーーー?
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