第10話 この世界とムーザランの差異

「……冒険者、とは何だ?」


俺は、領主ソライルにそう訊ねる。


「冒険者とは、主にモンスター退治を中心に何でもやる、何でも屋みたいなものだ」


では、それは何でも屋と呼称すべきでは……?


「因みに、冒険者という制度は、建国王ヨシュア様がお創りになられた」


またテメェかヨシュア!!!


「冒険者にはE〜Sのランクがあり、強い冒険者ほど上のランクになる。上のランクになれば各方面での優遇はもちろんのこと、更に難易度が高いが身入りも大きい依頼を回される」


なんだそりゃ……。


そもそも、サラッと話しているがこの世界で人々が話している言葉が日本語なのに、アルファベットはどこから来たんだ?


……いや、待て待て。そういやこれ日本語じゃねえか。どう言うことだよ、どう言う世界なんだよ?!


あ、因みに、ムーザランの公用語は英語だ。ララシャ様とは英語で話しているぞ。


ま、まあ良い。ランクの話だったな。


「誰がその強さを評価しているんだ?」


「『鑑定』の水晶があるからな、それを基準に、実績などを見つつ……、と言った感じか」


「かんていのすいしょう」


な、なんだそりゃ……!


意味分からん!


鑑定って何だよ、見ただけで他人のステータスが分かるってことか?


そんなことして何の意味があるんだよ?


ステータスはあくまでも数値、重視すべきはプレイヤースキルだろうに。


「因みに、『ジョブ』は剣士かな?」


また分からん単語が出てきたぞ……。


「ジョブとは?」


「職業のことだ。剣士か、魔法使いか……などだな」


なんだそりゃ!だからなんなんだよそりゃ!


戦士が、「自分はこういうことができますよ!」と喧伝して歩くってことか?!


そんなことしたら速攻でメタ張られて終わりじゃねーか!


馬鹿らしい……。


まあ、剣士と答えておくか。ちょうど剣も持っていることだしな。


「じゃあ、剣士だ」


「そうだったな!なんでも、達人なんだとか?」


「俺の世界にはあのくらいできる奴は腐るほどいた」


実際に身体が腐っている奴もいた。


「そうか、それは凄いな!では、冒険者ギルドへの推薦状には、剣の達人と書いておくぞ!」


ギルドってなんだよ……。


何でも屋のギルドってなんなんだよ……。


いや、口入屋のようなものか?


口入屋的なものならムーザランにもあったしな。


もちろん、同僚も先輩後輩もそれどころか上司も、最後には全員死ぬが。俺が殺す羽目になったが。ムーザランではよくあることである。


「とりあえず、ギルドとやらに向かわせてもらう。場所はどこだ?」


「ギルドの場所は大通りの中央、この館の近くだが……、推薦状を用意するから、今日のところは待機してくれ。館の中で好きに過ごしてくれて構わんよ」


「分かった」




許可を取って、中庭に『音溜まり』を設置させてもらう。


聾の者は、自分の設置した音溜まりにファストトラベルできるので、置けば置くほど得だ。


因みに、チュートリアルにはない非公開情報なのだが、音溜まりを設置すればするほどエネミーが増えるし敵の侵入も増えるのだが、それすらもホーンを求める俺には得。


やったね。


《MELODY FIXED》


さて、そうして俺が音溜まりの前で座っていると……。


「どうだね、一本?」


と、木の棒を渡された。


渡してきた相手は領主のソライルだ。


「何だこれは?」


「ん?どう見ても木剣だろう?」


木剣……?


ああ!木剣か。


ムーザランにそんな平和なアイテムはなかったからな。模擬戦でも「死なないから」って本物の剣で斬り合う世界だったので……。


えーと、これは何だ?


訓練のお誘いとかか?


「断る」


まあ、断るのだが。


「そう言わずに、剣の腕前を見せてくれ!」


何なんだこいつは。


「何故、そうも俺に絡む?何の意味がある?」


「あー……、そのだな。セレスティーナからの報告が、あまりにも疑わしくてだな……」


セレスティーナ……、あの女騎士だったな。


サニーの護衛の奴だ。


何がおかしいのだろうか?


「流石に、剣の一振りで人体の半分が弾け飛んだなど、信じられん」


んんー?


この世界ではあり得ないのか?


いや、確かに、俺のステータスを考えればかなりの膂力だろうが……。


それでも、龍種や一部の大ボスには、カンストしたステータスの腕力でも力負けするんだがなあ。


裏ボスには、カンストしていようが何しようが紙切れのように蹂躙されるぞ。


まあ、俺はもう剣一本で殺せるが。


「少しだけで良いんだ。私にも、多少は剣の心得がある」


うーん……。


「よいではないか、相手をしてやれ」


おっと、ララシャ様。


「ララシャ様、失礼ながら、この男が何を話しているのかお分かりになるのですか?」


「この世界の言葉は、しばらく話を聞いているうちに覚えた」


おお、流石はララシャ様。


天才的な頭脳をお持ちだ。


あ、俺が日本語を喋れる理由は、ララシャ様はご存じだぞ。


あらかじめ話してある。


「見たところ、大した戦士でもないだろう?少し付き合ってやれ」


「はい」


ララシャ様が言うなら仕方ない。


「お前の強さが侮られるのは癪だからな。見せつけてやるが良い。我が剣の強さを」

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