第9話 ホーンとは?

食事が出てきた。


不思議なのは、キッシュやコンソメスープ、プディング、ステーキ、ポテトフライにエビフライにチャーハンなどと、国際色豊かというか、完全に何も考えていないメニューが出てきたことだ。


気候や温度から、この辺では米など育てにくいはずでは?


内陸部なのにどこから海老が?


ジャガイモが何故ある?


コンソメなどと言う手のかかるものを何故即座に出せる?


だ、駄目だ、頭がおかしくなりそうだ……。


「こちらの料理のいくつかは、建国王ヨシュア様がもたらしたものなのですよ」


テメェかヨシュア!!!


メチャクチャじゃねーか!意味わかんねーぞ?!!!


あ、美味い。


味は良い、最高だ。


遥か遠く、地球で食べた合成食品よりも感じられる雑味が、オーガニックさを表している。


美味い。


ってかそんなことより、ララシャ様はどうだ?


「ほう、中々に美味ではないか」


んんんんんー!!!!


小さいララシャ様が!


お食事なさってるぅぅぅ!!!!


かわいいーーーーー!!!!!


スクショアイテムの《姿写しの小筒》でララシャ様のスクショを撮る。


ふう……、俺のララシャ様スクショは既に十万枚を超えている……。


その中で飲食をしているララシャ様はSRララシャ様だ……。末法滅びかけ世界のムーザランでは、まともな食料は少ないからな……。


またプレミアムなスクショが増えてしまった……。


「ははは、可愛らしいお連れさんだな!」


笑いながらそう言った領主、ソライル。


「ああ、お前はよく分かっているな。ララシャ様は宇宙で一番美しい女神様なんだ」


「お、おう……。ところで、君はどこから来たのだ?転移者と聞いたが……」


ふむ。


「地球の日本ではない。日本にいたことは遠い昔にはあったが……」


「ほう!そうなのか!日本とはどのような国だ?」


ん?探っているのか。


「俺がいた日本は、恐らく、建国王とやらがいた時代から二百年は先だ。何もかもが違うだろうな」


「む、そうか……」


「それに、日本にいたのは精々二、三十年でな。それからはムーザランという地にずっといた」


「む……?若く見えるが?」


ハ、そうかよ。


「若く見えるか?」


俺はソライルと目を合わせ、瞳を見せる。


「いや、その瞳……。何千年もの絶望を煮詰めたかのような、昏い色の瞳だ。その目をした男が若造な訳はない」


ふん、分かるか。


闇色の瞳だけはどうにも偽れない。


見る人が見れば分かってしまうのが悩みといえば悩みなんだよな。


「込み入ったところまでは聞かん。だが、これだけは聞かせてくれ。君は何がしたい?」


な、にが、したい、か?


そんなもの……、そんな、ものは。


「もう、何もしたくない……」


なにも、したくないに、決まっているだろう……?


もう、俺は終わっているんだ。


俺には何もない……。


だが。


「ただ一つ……、ララシャ様のやりたいことが、俺のやりたいことだ。俺自身には、もう何もない。何もな……」


「そう、か……」


まあ、そんなことはいい。


「結局、俺は何を求められているんだ?」


「できれば、我が娘の護衛にでもなってくれればと思ったが……、その様子だと無理だろう。君はそんなことをする人間とは思えないしな」


「そうだな」


「であれば……、君の今後についてだ。転移者であることも本当だろう、それは分かった。だが、そうなると、身元の証明がされていない異邦人ということになる」


「そうなるな」


「しかしそれでは、まともに仕事もできんだろう?だから、我が家が身元引き受け人となろうと思う」


ふむ。


「何故だ?」


「言っただろう、娘を救ってくれた礼だ」


「そこまで価値があるのか?」


「君も子供がいれば分かるようになる。我が子はどんな宝よりも大切だとな!」


ふーんそうなんだ。


因みに、ムーザランが滅んだ原因は、神族のご家庭の内ゲバで兄弟同士の盛大な殺し合いをやった余波だな。


うん……、家族の絆なんて嘘っぱちだ。


まあほら、信じたい人は信じたいものを信じれば良いよ。


俺がララシャ様を信じるように、好きにすりゃあいい。


だがな。


「言っておくが俺は、あんたが俺の身元の保証人になったところで、何も返せるものはないし返そうとも思わない」


「順序が逆だ、私が受けた恩を君に返す。それだけだ」


はあ、そうですか。


「まあ、好きにすりゃあいい」


「っと……、その前に、少しで良い。君のことを教えてくれるか?」


「何故だ?」


「君の身元引き受け人となるとは言ったが、もし君にできることがあれば、然るべきところに推薦状を書こうではないか」


ふむ……。


「俺はホーンが欲しい」


「……すまない。ホーンとは、何かね?」


ホーンが認知されていない?


分かっていたつもりだったが、この世界……、本格的にムーザランではないな……。


「ホーンとは律の力。魂とも言って良い」


「魂かね?それをどうする?」


顔を顰めるソライル。


魂を集めるなんて罰当たりだー、とでも言いたいのだろうか?


「知れたこと。我が姫、ララシャ様に捧げるのよ」


「むう……、生贄ということか?」


「いや、弱き者を贄にしても無意味だ。より強い存在……、人魔問わず強い者こそ、多くのホーンを持つ」


「んん……?それはつまり、『経験値』では?」


は?


け、経験値?


「知らんのかね?ああ、別の世界から来たのだったな。この世界では、敵対者を殺すと『経験値』というものが得られる。経験値が高まると、『レベルアップ』し、強くなれるのだ」


んんんんんー?


なんか……、そう……、なんですねぇ?


ホーン=経験値ってこと、なのか?


まあ良いや……。


「そんなところだ」


「なるほど、よく分かった。つまり、『冒険者』になりたいという訳だな!」


……冒険者?

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