第5話 狂える者

へえ、いきなりNPCイベントかよ?


それに、言葉もナチュラルに通じてるな?まあ通じる分には都合がいいんで文句は言わんが。


とにかく、まずは会話から入ろうか。


……誰に話しかければ良いんだ?


まず、目の前を見てみよう。


目の前には、何かこう……、貴族風の豪奢な馬車が擱座している。


黄金細工が各所に取り付けられた、黒塗りの馬車だ。


そこの中には恐らく、女が一人。声が聞こえるからな。


馬車を牽いていた栗毛の馬は殺されてしまっている。


御者の老人は頭を矢で射抜かれているようだな。ムーザランでは頭に矢が刺さって死ぬ奴は少ないが、どうやらあの老人は死んでいるらしい。


その周りを取り囲むように、十人ほどの薄汚い男達が武器を持ってニヤついているのが見える。これはエネミーかな?


そして、馬車の中から飛び出した、金髪をポニーテールにした女剣士?女騎士?が、ロングソードを片手に構えて、馬車を守っている。


うーん……?


まあ、パッと見では、悪者に捕まりそうな貴族という構図だが……。


でも、イベントはマジでよく分かんないからなあ。


助けずにあえて見捨てた方が後々でアドになるイベントとかザラだし。


これもさあ、本来ならここで貴族女が捕まるのが正規ルートなんじゃないのか?みたいなことを思ってしまうな。


あ、女剣士?女騎士?まあ、よく分からんけど金髪ポニテがこちらを見てきた。


「おいっ!貴様!手を貸せ!」


「は?」


何やこいつ態度悪ぅ。


絶対手伝わんわ。


大体にして何その鎧?


ミニスカの服に適当に鉄板括り付けてさ。


ムーザランでは女騎士もゴリゴリのフルプレートフルフェイスのアーマーを着ていたぞ。


やる気ねぇだろそれ、どこを守ってるんだ。


はぁ、やめだやめ。


イベントなんざやらんでも、ボスは探せばその辺にいるだろ。


「あぁ?何だお前は!」


あ、今度は、武器を持った男達に見つかった。


あの女騎士モドキが声を出すからだ……。


クソだなあいつ。


にしても……、いきなり斬りかかってこないとは、紳士的だな。


ムーザラン恒例の「騙して悪いが」かもしれんが。


無駄な労力は減らすに限る。


だがもしかしたら、交渉ができるかもしれない。


「待ってくれ、俺は何も見てない」


「……ほう?」


武器を持った男達の中でも、一際に上背の大きい、髭ダルマが片眉を上げた。


「確かに俺は一人だが、殺されるくらいなら全力で抵抗するぞ。そうなれば、そちら側も死人が出るかもな」


いや、こんな程度の奴らなら皆殺しにできるが……。


だが、説得して終わるなら、その方が面倒がなくて良い。


「ふむ……、確かにな。だが、俺達を見たとあっちゃ、こちらも見逃せねぇ」


はあ?


「何を言っているんだ?その女共を襲ったら、お前らはすぐに移動するだろうに」


「なんでぇ、綺麗な身なりしてるが、同業かよ」


いや違うが。


……いやごめん、大体合ってる。


俺も通り魔的にその辺の奴ら襲ってホーン奪ってるもん。


ぶっちゃけ盗賊と同じだよ。


「そういう訳だ、見逃してもらおう」


「けっ、とっとと行きな」


よし、上手く説得できたな。


ホーンにならなそうなクソイベからはとっとと離れてしまおう。




「だが、タダで通すのはなあ?よし、その肩の人形を寄越せ!」




………………あ"?


「ォお前、何と言ったぁ?何と言ったあああ?!!!!!」


「なっ、何を」


「俺から!ォ俺から、ララシャ様を奪うとォ……、ゥ奪うと言ったかぁあア?!!!!!」


「な、何だこいつ!急に何を……!」


「死ね」


抜刀。


武技発動、『雄牛の構え』……。


切っ先を相手に、手を上に構える武技。


そしてそこから、『雄牛の構え』派生、『雄牛の突撃』……!


強烈な突進を伴う、突きを放つ!


「お、ごあ」


カンストしたステータス、カンストした強化段階の武器。


そして、俺の無駄に積み上げてきた武から繰り出された一撃は、髭ダルマの上半身を粉砕した。


あまりにも突きと突進の勢いが強過ぎて、カノン砲が直撃したかのように弾け飛んだのだ。


血肉のシャワーを浴びながら、俺は更に踏み込んだ。


「へらぁ!」


「ちにゃ?!」


「あばっ!!」


一呼吸のうちに三度、銀閃を煌めかせ、武器を持った男達……、そう、盗賊共の首を刎ねる。


あまりの斬れ味に、切断した首は、切断した箇所に乗ったまま動かない。


側から見れば、俺の手元がブレた瞬間、男達の首からいきなり血が湧き出したように見えるだろう。


はあぁ……、そんなことは良い。


許せんのは、俺からララシャ様を取り上げようとしたことだ。


ララシャ様は俺の全てだ。


それを、取り上げる?


到底許せることではない。


「てっ、てめえ!」


盗賊共の頭数が半分を切ったところで、やっと我に返った奴が剣を抜こうとするが……。


「遅い」


遅過ぎる。


もう全員、斬っている。


「あ、手が、俺の手ェ!!!」


剣を抜こうと腰に手を当てた盗賊の腕が、ゴトリと落ちる。


その数秒後、コロリと頭も落ちて。


「俺の身体ぁ!え?から、だ……?俺、どうな、て?」


首が落ちて、崩れ落ちる自分の肉体を見て、死んだことに気がついて、それから死ぬ。


皆殺しだ。

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