第4話 イベント・スタート

ララシャ様とイチャイチャしながら、強大なエネミーを探す。


とは言え、闇雲に探してもそうそう出てくるものではない。


いかにこのゲーム……、『レジェンズアニマ』が鬼畜難易度ゲームだとしても、意味のない理不尽はないからな。


鬼畜難易度ゲームとはいえ、クリアはできるように作られているのだ。


例えば、どんな攻撃も効かない無敵のエネミー!とか、そういうのは出てこない。それに近いのはいるが。


手応えを感じる難易度と、物理的にクリア不能にすることは全く違うのだ。その辺の匙加減が高難度ゲームの真髄ってことだろう。


まあつまり、いきなり、スタート地点に明らかに勝てないクラスの強ボスが出たりはしないということだな。


……いや確かに、かなり強いエネミーがその辺の初期の方のマップに出ることも確かなんだが、所謂ボスは、戦う前に条件を満たす必要がある場合が殆ど。


鍵を探して扉を開くとか、レバーを下げて門を開くとかな。


そういう訳で、明らかに強ボスがいないこの長閑な森には居られない。


……いや、待てよ?


そもそも、レジェンズアニマの世界ではない、のかもしれん。


ララシャ様はリンクが切れたとは仰られていたが……。


まあいい。


どの道、ここにいても何も起きないんだから、早く移動しよう。


「ララシャ様、どちらに行きましょうか?」


「お前が決めろ。私は、それについてゆくだけだ」


「しかし……」


「力のない今の私には何もできんのだ。ゆくべき道も分からぬよ」


「ララシャ様……」


「だが、私はお前のことを信じている。お前と共に生き、それで死ぬのならば本望だよ」


はーーー。


やっば。


最高でしょもう……。


「ララシャ様は俺が命に代えましてもお護りします!」


「よいよい、私のことは追々でな。まずは、お前のことだ。見よ、この森を」


ん?


森?


「ムーザランの地のそれとは異なり、清浄で美しいだろう?休暇だと思って、しばらく肩の力を抜くがよいぞ」


あーーー。


ララシャ様ほんとララシャ様。


思いやりヤベェわこれ。


愛されてるわー。




ララシャ様の愛を感じながら、俺は森を歩く。


ララシャ様の温もりだけが、俺を人間に繋ぎ止める楔なのだ。


ああ、ララシャ様、愛しています、ララシャ様……。


「全く……。私ではなく、森の景色でも見たらどうだ?」


ララシャ様をガン見していたところ、怒られてしまった。


「いえ、森などよりも美しいララシャ様の方が……」


「私は、お前と同じものを見たい。お前と同じ時を過ごしたい。分かるな?」


「はい」


そう言われちゃ仕方ねえ。


森、ねえ。


まあ、クッソキモい汚物みたいな汚物(敵)も出ないし、まともに綺麗な森なんて、初めて見るが……。


地球も、微かに残った記憶だと、こんなに綺麗ではなかったと思う。


2200年代の地球は、環境汚染が酷かったからな。


もしかしたら、こんなに綺麗な森をリアルで見るのは生まれて初めてかもしれん……。


そう思うと、悪くない体験をしているのかもしれないな。


いや、ララシャ様が隣にいらっしゃるだけで超プレミアムなゴールドエクスペリエンスなんだが。


「っと、おお?」


何だこれは。


道だ……。


人工的な道がある。


「良かったではないか、我が剣よ。少なくとも、知恵の働く生き物がおるらしいぞ」


「ええ、確かに」


つまり、道を整備する知恵がある生き物が、この世界にはいる訳だ。


恐らくは人間だろう。そうでなくとも、道を整備する必要と知能を兼ね備えるとなれば、人間に近い生き物がいるはずだ。


最悪、人間のいない原始の世界である可能性もあったからな。


そんな中でこれは、幸先がいい。


幸先が良かったことなんて一度もないから、テンション上がっちゃうね。




森を抜けて、道を歩き……、草原に辿り着く。


広々とした草原には、たまに野生動物がいて、空には鳥が飛ぶ。


長閑だな……。


「うむ……、良い景色ではないか」


「ええ、そうですね」


うむ……。


ムーザランは、どこもかしこもクソ敵モブばかりで気の休まる暇がないからな。


後半なんて暗黒の太陽がギンギン光ってて目にも心にも優しくなかった。


こんな長閑な風景で散歩するのは……、良いな。


特に、ララシャ様がお喜びなのが嬉しい。


「ああ、そうだ。神馬は喚べるか?」


あ、確かにそうだな。


レジェンズアニマは一応、分類的にはオープンワールドゲーム。


故に、広大なマップを移動する為の馬がある。


色々な種類があるが、俺は最大強化された神馬を持っているぞ。


どんな感じか?


うーん……、記憶が薄れているから何とも言えないんだけど、はるか昔昭和の頃の劇画風コミックに出てくるような、象のようにデカい馬だな。


芦毛の身体に黄金の鬣、金細工の豪奢な馬鎧を身に纏う、大層立派な巨馬だ。


名前は……。


「来い、『オルガン』……!」


『ヒヒーン!』


そう、オルガンだ。


こいつも、俺を支えてくれる数少ない友好的存在なので、とても可愛がっている。


「よしよし、よく分からんこの世界にまでついてきてくれたのか?ありがとうな。用がある時にはまた呼ぶよ」


『ブルル……』


助かる……。


移動がダルいオープンワールドゲームは犯罪だからな。万死に値する。


「ついでに、懐も確認しておけ。何か、無くなっているものなどはないか?」


インベントリか。


えー……、と?


「あー……、ちょっと分かりませんね。もう長らく整理していないので……。でも、愛用品は全て手元にありますよ」


「ならよい」


とにかく、正にDLCって訳だ。


新しいマップで新しい冒険、ってか。


ララシャ様が居てくださるんなら、何でも良いや。


そう思って、しばらく森の近くの岩に座って休憩していると……。


「げへへ……!貴族だぜ!」


「捕まえろ!」


「身代金でたんまり稼げるなあ!ひゃはははは!!!」


なんか……、なんか起きた。

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