第112話 こじらせ聖剣聖

 空を飛ぶブーツではあまりに遅いのでカトレナーサには〈移動板ボード〉を掴んでもらい、時速74キロで移動を開始する。

 大公領の冒険者から100メートルも離れる前に、カトレナーサが懺悔を始める。


「フギン殿、先日からずっと謝る機会を待っていたのです! わたくしが全面的に間違っていました。どうかわたくしを断罪して欲しいのです!」


 九十九はカトレナーサのテンションの高さに面食らいながら返答する。


「先日のことは自分も反省している。興奮してカトレナーサを責めるようなことを言って悪かった。どうか許してほしい」


「いいえ。ゲオゾルドを擁護しようとしたわたくしは非難されて当然なのです。わたくしは帝国や教会に囚われずに弱き者の味方をするために東方八聖となったのに! どうか愚かなわたくしに罰を与えて欲しいのです!」


 九十九は仙川の先ほどのアテレコが現在のカトレナーサの心情とずれていないことに驚く。仙川はおどけている様に振舞ったがカトレナーサをきちんと理解していたのだ。

 自責で潰れそうな今のカトレナーサを糾弾する気持ちにはなれない。


「え~と、カトレナーサ。ゲオゾルドを説得しようとしたことも間違いではないと思うよ。もしかしたら説得で来た道もあったかもしれない。悪いのは飽くまでゲオゾルド達なんだから安易に自分を罰しろと言うのは何か違うんじゃないかな? あっとちなみに、ゲオゾルド達は自分が捕まえて今は反省させている」


 といった後に九十九は仙川を見た。及第点といった顔をしているのを見てほっとする。

 カトレナーサも九十九の言葉で落ち着きを見せる。


「た、確かにゲオゾルド達と自分を同列に語るのは不自然ですね。また……罰を受けることで楽になりたいという気持ちになっているだけかもしれないですね……」


「反省するなら、より弱き者を助けるために動けばいいじゃないか。例えば、人を襲うモンスターをより多く退治するとかさ」


「そうですね。ほかならぬフギン殿がそういうのならば、そういう風に考えてみるようにしますのです……」


「怪我で苦しんでいる貧民街の人を無償で魔法で治すとか……あ、それは今もやっているんだっけ?」


「教会に来た方を中心に――でも貧民街に出向くことはしていないのでフギンさんのおっしゃる通りにやってみます」


「う、うん……」


 ここで九十九は自分の限界を感じ、ナノメタル細胞を通じて仙川に声を出さずに助けを求める。真っすぐ過ぎる思春期の乙女を過度に刺激せずに話すことは難しすぎた。


「もうこれ以上、カトレナーサを落ち着かせる手段が思いつかない。仙川さん、あとは頼むよ」


「わかったの。予想通りにこじらせているけど協力関係になれるようにやってみるかしら」


 仙川は30分前から仮眠から目覚めたカトレナーサとドローンを通じて話し合っていた。


「カトレナーサさん、挨拶が遅れて申し訳ないです。わたしがフギン、いいえ九十九のパートナーの仙川です。どうぞ改めてよろしく」


「ああ、そうですか。フギン殿の本名はツクモなのですね。とにかくこちらこそよろしくお願いいたしますのです。センカワ殿は広い見識をお持ちなのですね。サハヴァン殿たちを知っているとは!」


 サハヴァン達の情報はカトレナーサについたドローンから知ったのだが、今はそれを仙川は伏せる。


「それよりもカトレナーサさん、国や同盟、宗教を離れてわたし達としばらく行動してみないかしら? わたし達も多くの善良な者を助け、できるだけ争いの種を無くしていこうと考えているの。そんなわたし達の側にいれば何か掴めるものがあるかもしれないかしら」


「フギン、いやツクモ殿とセンカワ殿はそんな革新的なことを追及しているのですか!? いやはや驚きです。その――センカワ殿申し出、ありがたく思います」


「特別なことをなそうというのではないの。酷いことが起きそうなことを未然に防いだり、誤解して敵対関係になりそうな組織同士の間を仲介出来たらいいなと考えているかしら」


「そんなことをしようとしている人に会ったのは初めてなのです。わたくしもお役に立てれば嬉しいと思うのです。迷惑でなければわたくしも同行をさせていただきたい!」


 カトレナーサの言葉に九十九はホッとする。もっと自責を複雑化させて、面倒なことになると思ったが自分たちに付き従うというならば良好な関係になる可能性が高まるだろう。

 仙川もカトレナーサに好意的な声をかける。


「はい、よろしくお願いいたします。早速ですが今から雷の荒野のモンスター討伐を行うのですが付き合ってもらっていいかしら?」


「心得たのです。ですが、この3人でどうにかなるのですか? 魔法通信で先ほどセンカワ殿に教えられた通りなら相当な数いると聞いたのですが――」


「絶対に大丈夫とは言いませんが策はあるかしら。まずは見守って欲しいですの」


 仙川の言葉に頷くカトレナーサの顔には先ほどまで浮かんでいた憂いのようなものが消えていた。

 取り合えずカトレナーサとより親密になれれば、イシュラ帝国の情報やエバグル王国に敵対する存在を教えてもらえるかもしれないと思えた。

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