第111話 大公領の特級冒険者
大公領の南西端に位置する雷の荒野――そこで跋扈する大量のモンスター討伐のために、編成された65名の大公領の冒険者が8つの馬車で移動していた。
南西端にある村から出発し3時間半経過した処で、全員に伝令が走る。
「止まれ! 止ま~れ! 全体止ま~れ!!」
伝令役が走ると馬車は全て止まった。
討伐の指揮を執る全身甲冑の青年が先頭の馬車を降りて、三番目の馬車に近寄る。
「カトレナーサ様が止まって欲しいということだったが違いありませんか?」
「はい、その通りです。申し訳ないのですがここから別行動をさせていただきたいのです、サハヴァン殿」
カトレナーサは馬車から降りながら、全身甲冑のサハヴァンにそういった。サハヴァンは金髪で整った顔としっかりとした体躯をした若い青年だ。
これにはサハヴァンが慌てる。
「それはつまりモンスター討伐に参加していただけないということですか?」
「いいえ。知り合いから連絡を受けて、知り合いと共に雷の荒野のモンスター討伐を行うことにしたのです。どうか了承して欲しいのです」
「はあ? カトレナーサ様が知り合いと合流するということですが、どこで合流するのです? 雷の荒野であるならば今は立ち止まらずに進むべきではないでしょうか?」
というサハヴァンの背後に〈
仙川は上げた左手を大きく右に下げながら頭も下げる。
「初めまして、大公領の特級冒険者の〈当千のサハヴァン〉様。わたくしは仙川と申す水の神ヴィタイアムの僧侶であり、冒険者でございます。以後よろしくお願いいたします。サハヴァン様が帝国魔法学校を首席で卒業された時から尊敬いたしております」
突然の登場に面食らっていたサハヴァンであったが、仙川のよどみのない慇懃な態度に冷静になる。
仙川は頭には桃形兜、手には手甲・籠手・大袖、胸には胴板、足には脛当の防具を纏っていた。防具は全て蒼だが、腰に帯びた 1メートルの〈
サハヴァンは仙川を認めたといった顔をして言う。
「初めまして――と、つまりあなた方がカトレナーサ様のご友人ですか?」
「友人ではありませんが、共にモンスターと戦う仲ではあります。というわけでカトレナーサ様と合流してよろしいでしょうか?」
「えーと、我々と連携を取って行動は取らないということになりますか?」
こうしているとサハヴァンの後ろに2人の者が近づく。
九十九はその2人を見てギョッとする。
一人は2メートル半の巨躯であり、全身が隆起した筋肉で覆われていた男性だった。
今一人は全身紫で魔法使いらしい帽子とワンピースを身に着けている女性である。女性が特徴的だったのがその大きな胸と美貌だった。美しい眼鼻口が恐ろしいバランスで配置されているように映る。ハイエルフのリエエミカに匹敵する可憐さを持っていた。
「んだ? こいつらは? もしや東方八聖という連中か?」
「こんなところでグズグズしていては到着する前に日が暮れてしまいまする」
という2人に仙川がまたも会釈をして口を開く。
「これはこれは、特級冒険者の〈胸牆のグッガイ〉様と〈瑰麗のヒカリナ〉様、お会いできて光栄です。これから我々は空を飛べる特性を生かして、カトレナーサ様とモンスターの偵察を先行して行いたいと思います」
九十九は仙川が話の方向性を少し変えたのに気づいた。ここでの時間消費を避けるために耳あたりの良い言葉に切り替えたのではないかと思う。
偵察と聞いて顔を曇らせていたサハヴァンも納得した表情を取る。
「空からの偵察はありがたい。うちは1人しか空を飛べる魔法使いがおらず、おまけに今回は同行していないので難儀していました。是非ともモンスター共の配置や種類などを教えてください!」
「はい。わかりました」
巨躯のグッガイが一台の馬車を指さしていう。
「偵察とは助かるな。だが、モンスター共は任せてくれよ。俺らは東方八聖を凌ぐ実力があることを自負しているからな! グワハハッ!」
すると横にいるヒカリナも鷹揚に頷く。
仙川は再び頭を下げる。
「それは頼もしいです。討伐は是非ともお任せいたします」
仙川の言葉にグッガイはいかつい顔でほほ笑む。
「おう、任された。では何か必要ならあの馬車のモノを使ってくれ。何でも持って行ってくれて構わん!」
九十九はグッガイの申し出を仙川はスルーするだろうと思ったが違った。
「ありがたい申し出感謝します。でしたら麻実油があったらいただけますでしょうか?」
麻実油は万が一に討伐が夜になった時に、かがり火にするために用意したものだという。
交渉は成立し、仙川は木樽3つ分の麻実油を手に入れた。麻実油はカトレナーサのマジックバッグに収まる。
偵察の報告の打ち合わせを終えると、九十九ら3人は空に舞い上がった
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