第109話 スタンピードの予感
強いモンスターが大勢集結した様は正に悪夢の光景だった。
九十九は思わず生唾を飲み込む。
「ざっと大小入れると300匹くらいいそうだね。こんなのが町に侵入したら、すぐに崩壊してしまうだろう……」
「この荒野に一番近い村でも32キロ、ブロズローンには69キロもあるから少しの猶予はあるんじゃないかしら?」
「そうだね……。しかし何というか、なんか生態系おかしくない? 棲んでいる処がなんかバラバラっぽい気がする。森や高地、水辺に棲んでいいそうな奴が一堂に集まっているみたいな」
「三田くんもそう思ったのね。でも何となく見当がつくかしら。ねえ、ロボくんが三田くんに言ったことを覚えてないかしら?」
ロボとは九十九が〈
「ロボ? え~と、そういえばなんか言っていたような」
「MIA、三田くんとロボくんが会った時にどこから来たのか言及した処があったよね? そこを再生してくれないかしら?」
「承知しました」
言うが早く、MIAがロボと初めて会った記録を流す。
「おれはすこしまえにそとにでたばっか。くらくふかいところにいたけど、えらいやつが『そとであばれてこい』っていったからそうしたんだ!」
「そうだね、確かにそういっていた」
「『くらくふかいところ』ってダンジョンじゃないかしら? この近くにダンジョンがあって、そこから出てきたとしたらこのモンスターの出鱈目な構成の理由の一つにならないかしら?」
「なるほど――ゲーム的なダンジョンって生態系滅茶苦茶だもんね。ってこれっていわゆる、〈スタンピード〉が起きているってことにならない?」
スタンピードとは動物の集団が恐慌状態となって同じ方向へ移動し始める現象を指す。そして主にゲーム内ではダンジョンで大量発生したモンスターが地上にあふれ出る時にその名称が用いられている。
「スタンピードもそうだけど『えらいやつがそとであばれてこいっていったからそうしたんだ!』って言葉も気にならないかしら? 何者かがエバグル王国を崩壊させるためにスタンピードを起こしたとか」
「これも悪魔ジェスガインの仕業か!?」
九十九はここでようやく仙川が言いたいことを理解した。モンスター大量発生がジェスガインの仕組んだ攻撃の可能性が高いということを――。
と、ここで先ほど仙川が「カトレナーサさんが死んでも特に問題はないか」と言ってきたことが気にかかった。
「ジェスガインの悪だくみはわかったけど、これとカトレナーサとどう関係するの? あれ、関係していないってこと?」
すると仙川からすっと感情が消えていくのが見て取れた。非情な顔つきとなったのだ。
「三田くん――カトレナーサさんがゲオゾルドとヘオリオスと親交があることはわかっているかしら?」
「うん、確か〈東方八聖〉というグループに一緒に所属しているんだよね」
「ええ。そしてカトレナーサさんはエバグル王国に仇をなすイシュラ帝国の公爵の娘だということもわかっているかしら。彼女はことごとく2年A組の生存圏を脅かす側の存在なの。だから友好な関係を築く必要がないと考えられないかしら」
「そ、それは――まあ……」
九十九もカトレナーサとは相容れない処が多いとわかっているし、もう関係を持たないとも一度決めている。ブロズローンの人を殺して回るといったゲオゾルドを擁護するような姿勢にブチ切れている。
だからといって彼女が不誠実な人間だとは思えない。同時に仙川が敵対する可能性が高いという見解も否定できない。
九十九は〈
「三田くん?」
「仙川さん、一度カトレナーサと腹を割って話してくれないか? 彼女が重要人物でこっちには都合の悪い存在なのはわかるけど一度仙川さんと話してほしいんだ。その結果を俺も素直に受け止めるよ」
「ああ――そう、わかったの。確かに彼女の意志を確かめてからでも遅くはないかしら。ただわたしがカトレナーサさんを切り捨てるかどうか考えたのは、大公領で消費されるコストも考えたということも覚えておいて欲しいの。これはタイパが悪いということではなくエネルギー節約をしなくてはならない現状を考えていっているの」
「うっ――確かに。下手するとモンスターを討伐するだけでカルデェン粒子をそこそこ使いそうだね……」
「でもカトレナーサさんと話し合うのは無駄ではないとは正直思うかしら」
仙川の返答に九十九はホッとする。北六条達と一緒に行った〈レベリング〉で見たカトレナーサは友人になれそうな予感があったので、いきなり見捨てるというのは忍びない。
自分が甘いことは重々わかってはいるが、戦場で対面した時にいきなりカトレナーサを狙撃して殺すような事態になるのは回避したかった。
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