第106話 アウクシリア一日目・午前

 翌日から九十九は〈葡萄の木亭〉の部屋で仙川と相談する時間が増えた。

 仙川と今後のことで打合せすることが山ほどあったからだ。ドローンから入り込む情報のチェックも仙川が受け持つことになり、情報の更新とすり合わせに時間が費やされたのだ。

 仙川は予想通りアウクシリア制度の検定をクリアし、無事に〈アウクシリア〉になっていたので安心してすべてを委ねられる。ちなみにアンライトはまだ検定を受ける自信がないということで自主的に勉強を重ねている最中だった。

 〈アウクシリア〉となった今はMIAと言葉を使わずともアクセスできるので仙川はバリバリと情報を処理していく。仙川は衛星情報をよく見ており、MIAに細かい確認を取る。

 恐れ知らずの仙川であるが、ナノメタル細胞を移植する時は違った。

 ナノメタル細胞を脳内に入れれば端末なしにMIAやドローンにアクセスできるようになると聞いても、それには抵抗を示した。


「超テクノロジーだっていうのはわかっているのよ……。でもやっぱり脳に異物が入ってくるというのは恐ろしいかしら」


 この世界に来てからずっと〈機械化人間ハードワイヤード〉であった九十九には何てことはなかったが、考えてみれば脳に機械を侵入させることが気持ち悪いというのは理解できる。

 それでも仙川はさすがに肝が据わっており、2時間ためらった後にナノメタル細胞の受け入れを決断した。九十九の体内にあったナノメタル細胞の6分の1を移す形で行われる。

 ひも状になってナノメタル細胞は仙川の二の腕からスルスルと侵入した。入って17分で脳内神経とリンクすると仙川の意識の中にインターフェース画面を映すに至る。

 もう意識するだけでMIAとの接続が自在になると仙川は大いにはしゃいだ。


「うふふ、これは便利なの! パソコンのセッティング、モデム設定、ネットアクセスよりずっと簡単じゃないかしら!」


 またナノメタル細胞による補強で情報処理・思考速度が上昇する点も仙川は大変喜んだ。仙川に入り込んだナノメタル細胞の量では集中した際に時間が2倍に感じられる程度だったが、それでも歓喜し、感激した。

 仙川がMIAに確かめたかったことの一つに、カルデェン粒子を生産する見通しについてがあった。それによって今後の活動範囲の幅が変わるからである。

 MIAによると地下拠点の建設を止めてカルデェン粒子生産に注力しても、あと5日はかかるということであった。魔石から魔力を抽出し、カルデェン粒子にするのも8日は掛かるという試算が出た。

 MIAは補足説明する。


「魔力といっても凡そ178つの波動パターンを持っており、そのうち8つはこの星でしか検出されたことがないものです。また魔力の中に5つの未特定粒子も見つかっています。解析・研究結果によってはカルデェン粒子を超えるエネルギーが取り出させる可能性があります」


 仙川もさすがに門外漢だったらしく、魔石からの抽出を待つことにした。もちろん九十九にも異論はない。

 仙川が次に取り掛かったのは現在ドローンが張り付いている人物を把握することと、ドローンの特性を生かした街での情報収集に注力する。


「アメリカ国防総省の情報機関である国家安全保障局はネットのあらゆるデータを集めていると公言しているの。しかもそれはプライベートな情報を含む非コンテンツ情報、通称メタデータも含めてね。もちろん国民の了承を得てない超法規的な諜報活動よ。これはひどく横暴な行為だけど、これでトラブルを回避できるのならばいたしかたないと言えるのではないかしら?」


「え~と……うん。俺は難しいことは考えなかったけど、確かに『いたしかたない』と思ってみんなに張り付いたドローン情報を見ていたね。それで他の人のプライバシーをちょいちょい侵害しちゃったのは事実だよ」


「三田くんは結果正しかったね。出なかったら恐らく3人くらいは助けることができずに死んでいたでしょう。だから情報を採取する場所もより多くの人が集う場所に置くべきだと思うかしら」


「それが酒場や馬車の待合所、交通量の多い処なんだね?」


「ええ。情報を集め、不審な会話や犯罪行為がないかを精査するの。どうかしら?」


「うん、賛成するよ。俺はワード検索ぐらいしか使ってこなかったから、人がたくさん行きかう場所にドローンを配置するのはいいと思う。ドローンはびっくりするほど小さい音も広範囲で拾うから有効だと思う」


 といった感じで仙川は次々とアイデアを出して、九十九にできるだけ理解させてから改善に動いていた。

 その一つに「殺す」「犯す」「奪う」などの物騒なワードを町中から拾い、言った人物をドローンが追跡・集中的に張り込むといったものである。

 更に「悪魔」「ジェスガイン」「異世界転移」「ライト&ライオット」などのワードにも反応するようにした。

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