第103話 何このエロゲ(3回目)

 その日の夜はヴァレリーヌ以外全員が同じものを食べた。肉と野菜の入った麦粥である。

 角切りにした塩漬けのオーク肉と蕪やニンジンを入れて、もち麦を大量に煮たものだ。仙川が獣人に食べて問題ないか確認して材料と調味料を選んでいた。

 竈が使えるかの実験であったが、一つの家以外では煮炊きができるようだとわかる。また100人以上の食事を安定的に供給するには鍋があと2つと、大量の薪を用意しなくてはいけないことが判明する。

 九十九と仙川にとっては素朴な料理であったが、獣人とゴロツキ達は歓喜しガツガツと食べた。聞くとオーク肉はそれなりのごちそうだという。

 そして九十九の知らぬうちに買って置いたワインも振舞われており、特にゴロツキ共はガブガブと飲んでいた。


 こいつら犯罪者に酒を飲ませるのはほどほどにせんといけないだろう。でもまあ今日ぐらいは良いか……。


 イシュラ帝国民で〈紅の暴勇〉の御者ミンリダには蒸留酒を渡した。

 九十九は蒸留酒なるものがどういうものかわかっていなかったが〈輝きの狼〉のクロカッドに相談すると用意してくれた。蒸留酒が普通の酒を沸騰させ、蒸気にして冷やしてアルコール度を高めたモノと知ると仰天した。酒飲みとはアホなことを考えるものだと思う。

 ミンリダは蒸留酒を手にすると震えるようにして喜んだ。


「ほほう~。こいつは効きそうですな。今日は見張りもいらねえっていうなら仲間と楽しませてもらいますぜ!」


 ミンリダの言う仲間とは、同じく〈紅の暴勇〉に強引に組み込まれた馬車の御者達であった。

 九十九は時機を見てミンリダ達をイシュラ帝国に返す約束をしている。帰国に協力する代わりに、イシュラ帝国の情報をもらえる算段もつけていたのである。


 九十九が仙川とアンライトに挟まれ、まったり麦粥を食べていた。

 あくまで穏やかに映るよう装ったが内心では大変焦っていた。仙川とアンライトが折に触れて、九十九の腕にバストを押し付けてきたからだ。

 仙川とアンライトの見えない対立はまだ継続していた。

 両者から太ももなども軽くタッチされ、興奮が高まるばかりだった。

 何このエロゲ(3回目)――と鼻の下を伸ばしていると今度は背中からおっぱいを押し付けられる。突然ギュッと抱きしめられたのだ。


「良い人! 会いたかったよ!」


 そういってしがみ付いてきたのは体の7割が灰色の毛でおおわれている少女であった。


「あっ、おまえはにゃんぴち!」


「にゃ~違うよ! あたいはボルティガだよ!」


 ボルティガは頬を膨らませて不快感を示したが、その仕草も九十九に飼っていた猫を思い出させた。

 ボルティガを撫でたいという衝動に駆られていると、仙川が飛び出すように動く。


「綾小路ちゃん!!」


 そういって仙川はボルティガにしがみつくと全力で撫でまわし始めた。


「あやにゃこうじじゃにゃいぞ! あたいのにゃまえはボルティガだ!!」


 そういってボルティガはシャーっと威嚇した。だがすぐに絶え間ない仙川の撫でこすりにうっとりとし始めて、喉をゴロゴロと鳴らし出す。

 九十九が仙川の飼っていた猫の名前が綾小路なのだろうと思っていると、背後にレべリアの気配を感じた。

 いつでも凛々しいハンサム美女のレべリアであったがボルティガにくぎ付けになっていた。


「あ、あれはツクモの所有物なのか?」


「いいや、違うぞ。知り合いの獣人の女性だ」


「そのあの真剣な質問なのだが……少し撫でても構わないだろうか?」


「本人の了承を得れば問題ないだろう」


「そうか……やってみる!」


 するとレべリアはボルティガに丁寧に懇願し、撫でることを許された。

 ボルティガが愛撫にうっとりしていると他の獣人も近寄ってきた。仙川とレべリアも両手を使って複数の獣人を撫で、満足そうな顔をする。

 九十九は魔獣狼のサーベルウルフを撫でまわしていた目黒らのことを思い出し、猫馬鹿も大概だなと感じた。

 ボルティガもボルティガで九十九の側を離れず、しきりと匂いを嗅いできた。特に髪の毛にご執心で時々ハムハムと噛んできた。

 行動がよくわからないところも九十九に愛猫だったにゃんぴちを思い出させる。

 そうしているとサーベルウルフも姿を見せる。


「あれれ、このまえのにんげんはいないんだね。ちょっとざんねん」


「ああ、目黒達のことか。確かに今日はいないな」


 サーベルウルフの顔がしゅんとしているようだと九十九は感じた。また案外人間好きなのだとも思う。

 体長が5メートルを超え、顎に長い牙を生やしたサーベルウルフの登場にギョッとする者も多かった。ゲオゾルドらも見るなり立ち上がって身構えた。


「今日からこの周辺を見回ってくれる……え~とロボだ。みんなをゴブリンやオークから守ってくれるから仲良くしてくれ!」


 九十九はそう宣言しながらサーベルウルフの名前がなし崩し的に「ロボ」になりそうだと戦慄する。

 すると仙川とアンライト、そしてリエエミカが顔を上気させて駆け寄ってきた。


「三田くん、あれが話に出たサーベルウルフなのかしら? 触ってもいいかしら?」


「わたくしめも触ってみたいのですわ。あの狼さんに許可をいただけたら嬉しいですわ!」


「実はわらわも犬を飼っておったのである! ついででいいのでわらわも触ってみたいのである!」


 九十九は仙川にだけ一言あった。


「仙川さんは猫派ではないの?」


「犬も猫も馬も亀もインコも飼っていたので大好きなの! こんな大きなワンワンは是が非でも撫でてみたいかしら!」


「おおぉ……了解しました」


 九十九は念のために〈清浄ピュアリティ〉でサーベルウルフを綺麗にしてからみんなが撫でたいという意向を伝え、了承させた。

 意外にも〈紅の暴勇〉のスプライスもサーベルウルフに熱視線を送っていたのである。

 サーベルウルフも仙川たちの抱擁・撫でまわしにうっとりとなる。ただ参加してきたボルティガの雑な撫で方には不快な顔をして見せた。


 ふと横を見るとヴァレリーヌがはちきれんばかりに腹を膨らませて、倒れているのが目に入った。

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