第97話 結婚してくれるだけでいいから
〈テラープラネット〉プレイヤーの自分よりも深い領域に入ろうとしている仙川に感心していいのか、呆れていいのか?
考え込む九十九に気づいた仙川が説明する。
「三田くん、わたしも〈銀河第三連合〉に仮所属できるようだよ? 現地採用枠というのがあるみたい。〈アウクシリア〉って制度で、わたしはそれに志願することにしたから!」
「ああ、そういうことか。現地採用があるなんかまるで知らなかったよ。いや考えたことさえなかった」
事態を飲み込めた九十九だったが、改めて仙川の決断に驚く。
「ええっ!? 仙川さん、そんな即決でいいの? 俺も良くは知らないけど〈銀河第三連合〉のことをもっと聞いて、考えてからでよくない?」
九十九が狼狽してそういったが仙川は落ち着き払っていた。
「問題ないよ、三田くん。〈銀河第三連合〉に所属することにデメリットは存在しないと予想できるもの。とにかく一刻も早く、わたしが三田くんをサポートする必要があるから。三田くんが〈
仙川の言い分は理解できても九十九は納得できない。
「気持ちは嬉しいけど――仙川さんにメリットは少ないよ。俺だってこの先、どうなるのかわからないし」
「いいよ。だって三田くんにはそれ相応のことをしてもらうから」
「『それ相応』? 仙川さんに何かできるなら喜んでするけど、今の俺にできる事なんかあんまりないと思うよ?」
「あるよ? 結婚してくれるだけでいいから」
「結婚?」
この時、九十九は激しい衝撃に襲われた。想像さえもしたことがない予想外過ぎる言葉に脳が麻痺していくのを覚えた。
今までの人生で結婚など考えたこともない。
ましてや仙川ほど美しい人を妻にできるなど空想したことさえなかったのだ。
仙川との結婚を考えようとすると脳がフリーズするような感覚に襲われる。
「あっ! 今の『なし』にしてくれるかしら?」
という仙川の言葉に九十九は安堵する。何かの言い間違いなのだろうと思い、遠ざかっていた意識が回復する。
仙川は恥ずかしそうに頬を赤らめながら云う。
「『結婚して欲しい』って言葉は三田くんから言って欲しいかしら。やっぱりそういうのは男性からして欲しいって思うから!」
その言葉に九十九はまたも意識が飛びかける。
どこをどうしたらその結婚が出てくるのかやはり理解できない。
だが自分に起きていることを改めて整理するとどんでもない事態になっていることにも気づく。
悪魔に出会い異世界に飛ばされ、デスゲームに参加させられ、凶悪なモンスターが跋扈する環境に置かれて、名家の令嬢に『結婚』を提案される。どう考えてもまともではない。
結婚をこの歳で考えるのは仙川の特別すぎる環境がそうさせているのは何となくわかる。
スーハ―ッ……スーハ―
九十九は深呼吸し冷静になろうと努める。仙川に自分の困惑を直接ぶつけるべきではないとも思う。感情的にならずに、できるだけ落ち着いて話をしようと務めた。
「せ、仙川さん、まずは落ち着いて。僕らは高校生ですよ? しかも付き合いも短いなのにあまりにも唐突です」
「唐突なのはわかっています。ですが今は率直に言って極限の状況下です。ですから魂のよりどころ、確かに信頼できる存在が三田くんもわたしも必要なのです!」
「気持ちを落ち着かせるために結婚ですか?」
「ええ――でも三田くんが思っているような刹那的な発想ではないですよ? わたしなりに長い未来を考えて三田くんが良きパートナーになれると考えたからなんです!」
「お、俺が『良きパートナー』ですか? 仙川さんほどの女性と特にとりえのない俺が――」
「三田くんが自己評価が低いことはわかっています。ですが率直に言って今、三田くんはこんな状況の中でクラスメイトを助け、この世界の弱き者をたくさん救ったこと、そしてベストな働きをできていないと悩んでいる姿はわたしにとって十分価値があり、男性として強い魅力を感じるのです!」
仙川が熱っぽく語ると九十九はまたも思考が歪み始める。明らかに褒められすぎだと思う。
「そ、そんな俺なんて……」
「三田くんはわたしが嫌いですか?」
「いいえ、そんな……恐れ多いとは思いますけど、結構好きです。いいえ、今はだいぶ好きなような気がしてきています」
「ふふふっ、率直な感想ですね。でもわかりました。三田くんがここまで狼狽しているのを見ると少し時間が必要なのはわかりました」
「すみません。仙川さんがからかっているわけじゃないのはわかるんですけど――け、結婚なんか一度も考えたことさえないんで」
「そうですよね。わたしは4歳ぐらいから結婚に関する教育を受けて来たけど、ふつうはそうではないですもんね」
「は、はい――」
やはり住む世界が違うのだと九十九は思う。この世界には王女や聖女なんていう特別な存在がいるが、仙川のような財閥の令嬢というのも十分にスーパーレアな存在であると痛感する。
「でも三田くん、恋人くらいには思っても構わないかしら?」
「あ・あっ、はい。それくらいの距離感なら何とか処理できそうです」
「ふふっ、よかった!」
そういって微笑むと仙川は九十九の手を両手でぎゅっと握ってきた。
その感触は九十九の予想を越え、安心できるものだった。
人のぬくもりっていうのは替えがきかない魅力がある――そう素直に思えた。
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