第96話 仙川、銀河第三連合の所属になるってよ
慈悲深い仙川の優しさに九十九は胸打たれた。
が、仙川の表情はくるりと変わり、考え込むようなものになった。
「えっ? 仙川さん……」
眉を歪め、顎に手を当てながらウロウロと周囲を回る様に歩き出す。そんな態度を3分続ける。
泣いていた九十九だが次第に戦々恐々となっていく。
あ、これ、俺が怒られる流れじゃね? しかも正論をガツンと逃げ場なく叩きつけられる感じの。ロジハラで泣かされるのか!?
考えていた仙川は足を止めると、九十九に云う。
「先程の話だけど、オシロス老人とゲオゾルドは互いのことを知らなくても、背後にいる者は同じとみていいと思うの!」
仙川の突然の見解に九十九は固まる。が、それは非常に興味のある意見だった。第三者の目から見て九十九に起こったことに発見があるというのは是非とも聴きたいことだった。
しかも仙川の言葉は核心に迫っている気がする。
「えっ? でもオシロス老とゲオゾルドは全然繋がりがないみたいだけど――住んでいる場所も違うし、互いの存在も知らないみたいだし」
「知らなくてもやろうとしていることで、関係ははっきりしているんじゃないかしら?」
「えっと……ごめん。俺にはよくわからないかな?」
「説明するとゲオゾルドというか黒いドラゴン襲来は、明らかに〈夜の鉤〉と冒険者ギルドと連動しているの。黒いドラゴンがここブロズローンに大きな打撃を与えることに成功すると、人々は逃げ出し、恐らくはここは無政府状態になるんじゃないかしら?」
「あっ……ああっ!? そうか!!」
九十九の中で全てが結びつく。黒竜ヴィンチルブスが大暴れした町から逃げ出す市民は、大量発生したモンスターに襲われることになる。更に治安が悪化した町に〈夜の鉤〉が入り込めば、簡単に実権を握ることが可能になる。
3つの出来事が連動して起きていれば、ブロズローンが世紀末状態になることは充分にありえたのだ。当然、転移していたばかりの2年A組はその災厄に翻弄されるであろう。
仙川は美しい双眸を細めて予想を口にする。
「率直に言って九十九くんが黒いドラゴンを撃退していなければ、その騒動で王宮にいた雲雀丘くん達12人は全員死亡。ブロズローンから逃げた者の半分は、モンスターに食べられていたんじゃないかしら? この恐ろしいシナリオ、悪魔ジェスガインが用意していたものだと考えるのが自然じゃないかしら」
九十九は血の気が引いて体を震わせた。
軽いノリでヴィンチルブスを撃ったが、絶対に撃退しておかなければいけない罠だったと知り、怖気を覚える。
「ジェスガイン――俺達をのっけから滅茶苦茶にする気満々だったってことだよね……」
「そうなるかしら。しかもこれは第一弾の仕掛けで、三田くんの話からするとイシュラ帝国がこれから何か仕掛けてくるんじゃないかしら」
「ううっ――そ、そうなるかねえ……」
「ええ。率直に言って黒いドラゴン・ゲオゾルドサイドの動きもあるでしょう! 増強された戦力が投下されるんじゃないかしら」
それを聞いて九十九は眩暈を覚える。
今までの面倒事はただの入り口に過ぎず、これからも災難が続けてやってくると思うと絶望感に襲われた。
すでに限界ギリギリなので、これ以上の陰謀をしのぎ切れる自信がない。
愕然とする九十九に仙川は語り掛ける。
「三田くん、そのMIAっていうシステムと話をさせてもらえるかしら?」
「えっ!? ああ、うん……問題ないよ。それじゃあ――MIA、仙川さんと話して」
すると蝙蝠型ドローンのカマソッソが飛来し、仙川の前でホバリングし声を出す。
「初めまして仙川さん。わたしは銀河連合に所属する支援型AIのMIAです。よろしくお願いいたします」
「初めまして、わたしは仙川玲菜と申します。今、三田くんからMIAの存在を聞きました。あっ、敬称は省略させてもらおうかしら?」
「構いません」
「それで率直に聞かせてもらうけど、〈銀河第三連合〉というのにわたしも所属することはできるのかしら?」
九十九が仰天している間にMIAが返答する。
「答えから先に云うとできません。〈銀河第三連合〉に所属できる最低条件はおおいぬ座星系で生まれていることになります」
それを受けて仙川は感心したように頷く。
「ああっ、そういうのがあるのね。それならば兵補のような制度はあるかしら?」
「ございます。〈アウクシリア〉という名称の制度を活用すれば〈銀河第三連合〉に所属することが可能となります。連合に属する一般階級の者に推薦を受ければ〈銀河第三連合〉のシステムにアクセス、機器を操作できるようになります」
「〈アウクシリア〉――確か古代ローマ軍の翼軍だったかしら? ではわたしは〈アウクシリア〉に立候補します!」
「わかりました。採用には107個の規約を理解してもらった上で、設問に一定数正解してもらう必要があります。試験に合格し審査をした後、〈アウクシリア〉として登録いたします」
「お願いね」
「………………」
九十九はただ仙川とMIAの会話を呆然として聞いているだけだった。自分の頭の上を飛び越えて意思の疎通が行われていることに棒立ちとなった。
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