第95話 洗いざらいぶちまけよう!
8分後、九十九は〈
間近で見る仙川は相変わらず一切の破綻のない美貌をしていた。長い黒髪が美しく、女優のように容姿端麗な上に、名家の出であると一目でわかる気品をまとっている。
対面すると特別な存在だと強く実感した。
「仙川さん――」
「三田くん……なのかしら?」
仙川は九十九のSFチックな装いに戸惑ったが、それが九十九であるとすぐに認識した。
着陸した九十九は頭部外甲を取り外して姿を見せる。
「呼んでいたよね? えっと、とにかく来るのが遅れてごめんなさい」
九十九は素直に謝罪する。
すると仙川はその端正な顔をムスッと膨らませると不満げに言う。
「その言い方だと、わたしの愚痴を聞ける手段をもっていたってことかしら? 魔法か何かでストーキングしていたの?」
「全クラスメイトにドローンを張り付けていたんだよ。仙川さんには万が一が起きないように3機取りつかせていたんだ」
「まあ……何ということかしら。それは率直に言ってどういう意味があったのかしら?」
「それは何かあれば真っ先に飛んで来ようと思っていたからだよ」
それは本当の事であった。蟻型ドローン・ミュルミドンの他に、広域の調査ができる蝶型ドローン・エーディン、攻撃もできる甲虫型ドローン・スカラベ。これらを仙川の周囲に配置したのは安全性を高めるためだった。
仙川は目を丸くして九十九をじっと見る。
30秒そうした後に頷く。
「まあ――信じます。率直にいって嘘を言ってないのはわかるから」
九十九がほっとしていると追撃をしてくる。
「それはそうと、三田くんのその格好、どう考えても他の人と違い過ぎますよね? どういうことかしら?」
「それは……」
九十九は考える。どこまで言っていいのかわからなかったからだ。
同時に仙川を目の前にすると嘘を言いたくないとも思う。また嘘は通用しないとも考える。
しばし逡巡すると、九十九は何から何まで今まで起きたことを語ることにした。もちろん「テラープラネット」のことも教える気だ。
がここで一旦思いとどまる。ここから先はMIAに聞かせるのは良くないと思えた。MIAは悪魔ジェスガインが何であるのか決して理解できないので、無駄に混乱させたくなかったのだ。
「MIA、多分20分くらいだけどこれからの仙川さんとの会話を聞かないでくれるかな?」
「構いませんが、わたしは絶対にマスターの情報を他に漏らさないことは約束できます。高度な守秘義務を負っていることをご理解ください」
「うん……信頼しているけど、聞かないで欲しいんだ。頼むよ」
「了解しました。ですが警備は引き続き継続します――」
MIAに確認を取ると九十九は仙川に、この「ライト&ライオット」に来て起きたことを語り出す。
〈テラープラネット〉――〈銀河第三連合〉の存在――〈カルマバランス〉のシステム――〈
説明はずいぶんかいつまんで行ったが41分も掛かってしまう。
話を聞いているときの仙川はまさに百面相だった。
怪訝・困惑・感心・驚嘆――またリエエミカ達が話に出てくると終始不機嫌であった。また赤坂達に魔術師オービエンツを使って何かしようと考えていると話した際も微妙な表情をしていた。
聴き終えた仙川は大きくため息をつく。
「これだけのことがまさか一週間で起きたなんて、率直にいって呆れるしかないかしら」
「うん……確かに自分ながら呆れるしかないよ」
「それに星間移動がワープ航法でできるって、とんでもないことじゃないかしら。だって現実には人類は火星にさえ行っていないのだから――」
「確かにそう言われるとトンデモないね。リアルだと宇宙に行けるって超エリートと超金持ちだけだったんだから」
「それとシステムにそって行動しなくてはならないっていう制限には戸惑うかしら」
「〈カルマバランス〉のことだね。確かに違和感があるけど悪いことをしなければ問題にならないんじゃないかな?」
「普通ならばね。でも率直に言って三田くんの立場ならば〈カルマバランス〉は厄介なものになるんじゃないかしら。悪人と善人なんてすぐにはわからないから。でも〈カルマバランス〉に支配されないアウトローや海賊のクラスはリスクが高いでしょうね」
「そうだね。一応ストレンジャーって無法者クラスでやったことがあるんだけど、自費で〈
「そうだとすると三田くんが連合所属の戦士というのはいいチョイスだったんじゃないかしら。それだけの装備でこの世界に来れたんだから」
「まあね……。でもドローンの使い方を誤ったよ。あまりに多く配備したから完全に扱いきれていないもん。何も気になった全員につけるなんてするべきじゃなかった」
九十九が顔に後悔を浮かべると仙川は長い髪を揺らして顔を横に振る。
「大変な使い方になったけど、フル稼働させたのは良い判断だったといえるかしら。だって、それで何人もの命を救えたんですから――」
その仙川の言葉を聞くと、九十九の頬にスッと涙が流れた。
毎日毎日、人の命の重さに向き合うことで生まれた心労が癒され、報われたような気持ちになったからだ。
仙川は九十九を肯定するように柔和にほほ笑む。
それが九十九には聖母・菩薩のように映った。
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