第92話 ゴミカスの涙なんかなんの価値もないね!

  ダメージから回復できない獅子乙女に銃口が向けられる。

 

「よし、最後にこれに耐えて見せろ!」


「ひぇっ? ま、待て――」


 九十九は背を向けて逃げ出すゲオゾルドの背中に、腰だめ射撃ヒップファイアのスタイルで〈凍結フリージング〉レベル1を〈三点撃ちラピッドファイア〉する。


 はひゅっ~~~!!!


 背中一面が氷に覆われたゲオゾルドが、肺の息を残らず吐き出しながら前のめりに倒れる。

 ゲオゾルドを見下ろし、九十九は言う。


「スピードスター気取っているけど、俺の本気に比べれば、おまえは全然速くないんだよ。おまけに俺にはまだまだ早く動ける余裕もある!」


 まったく状況が飲み込めず、唖然となるゲオゾルドに青衣の男・ヘオリオスが声をかける。


「こ・こ・これは不味いでしょう!! 転移石を使って、帰還するのが良いでしょう!!」


 そういったヘオリオスの顔が瞬間、更に青くなる。

 徐々に震え始めたヘオリオスに九十九は答えを出す。


「転移石が何かは知らんけど、俺の周辺50メートルの空間転移はもう禁止したから逃げられないぞ? 空間の歪みを調整するのはこっちにとっては朝めし前さ」


 SF系FPSゲーム〈テラープラネット〉で空間転移を防止するのはごく当たり前の技術である。

 〈空間安定機スペイシャル・フィクセーター〉は〈テラープラネット〉内において兵士の標準装備で、〈ジョウント〉による奇襲を予防することを可能にしていた。〈空間安定機スペイシャル・フィクセーター〉は九十九の背中にも常備されている。

 銀河連合に敵対するカボネイ星人の勢力は〈ジョウント〉を使いまくってくるので〈空間安定機スペイシャル・フィクセーター〉は必須装備なのだ。


 すると唖然としていたヘオリオスが突如憤怒の相を浮かべる。


「よもや下賤の民に金獅子族の姫を奪われるわけにはいかぬでしょう。ならばわたしも本気を見せるしかないでしょう!!」


 そういうとヘオリオスは懐から取り出したモノを地面に撒いた。

 途端にそれは地に食い込んで物凄い勢いで膨張していく。


「はあ? あれは何だ?」


「植物のようです。ヘオリオスと周囲の魔力を吸収して急成長しています」


 それはわずか8秒で10メートルにまで成長する。巨木のような大きさのそれには禍々しい二枚貝のような葉がいくつも生えていた。葉柄が棘のように伸びており、ハエトリソウに酷似している。

 また血管のような筋が走った漏斗型の袋が3つ見え、こちらはウツボカズラを彷彿とさせた。

 


「これって――食虫植物か?」


 九十九が巨大植物を見上げていると、痙攣していたゲオゾルドが一気に動く。複数の蔦がゲオゾルドに巻き付き、ヘオリオスの方向に引っ張っていったのだ。

 間もなく巨大植物が動き出す。根を地面から引き抜くと、束ねて足のようにして歩行していく。


 ゾゴゴゴォォーー!!


 漏斗型の袋から奇怪な音を発して、巨大食虫植物が九十九に向かい動き出す。

 巨大食虫植物は数十本の蔦も備えており、それを九十九に向けて一斉に伸ばしていく。

 その間にヘオリオスがゲオゾルドを肩に担ぎ上げていた。

 九十九は自身の頭を覆うヘルメットに手を当てて巨大植物を見上げる。


「動く食虫植物――さしずめカーニヴォラス・プランツ・ゴーレムって感じで切り札っぽいんだけど……まったく脅威になってないんだよね」


 いうが早く速攻射撃インスティンクトのスタイルで〈衝撃波ショックウェーブ〉をレベル2で巨大食虫植物に放つ。

 途端に巨大食虫植物の中心部に2メートルの穴が開き、射線上にいたヘオリオスとゲオゾルドも吹き飛ばす。


「ギギャッ!!」


 2人は6メートルも宙を舞い、激しく草原でバウンドする。巨大食虫植物は破損部から割けていき、自重に耐えられずに横倒しになる。


「MIA、この植物、焼いた方がいい?」


「急速に魔力が抜け出し、活動を縮小していっているので放置していても問題ないかと――。また〈焼燬インセンディアリ〉を使った場合、14%の確率で火事に発展します」


「おっと、相談してよかった~」


 九十九は銃口を下げて〈隷属の首輪〉を取り出し、立ち上がれない2人に近づく。


「はいはい、大人しく従ってね~?」


 それにゲオゾルドは、霜のついた獅子顔に驚愕と恐怖を浮かべると、全力で逃走に入る。


「じょ、冗談じゃねえ~!! 俺が捕虜になるなんてありえないんだよ~!!」


 駆け出すと同時に九十九は〈基本射撃オフハンド〉のスタイルで、〈追尾撃ちトラッキング〉をしていた。


「猫姉さん、もう動けるとかめっちゃタフだな。でも大人しくしてね?」


 〈麻痺パラライズ〉のレベル1が命中するが、ゲオゾルドは躓いた後に四つ足になってまだ駆ける。が、もう一発〈麻痺パラライズ〉を撃たれると、ついに動かなくなる。

 ヘオリオスの方は無抵抗だった。ダメージも顕著な上に自失呆然といった貌となっていた。何もできないと悟ったショックで表情筋が死んだような顔をしている。


「よし! これで太い情報源が手に入った。まあボチボチ話していってもらうか!」


 ゲオゾルドは涙をぼろぼろと流す。


「な、なあ見逃してくれよ。こんなところで奴隷にされたら親父に八つ裂きにされちまう。ご、後生だからさぁ……」


「はん! 子供を殺して回るとか言っていたゴミカスの涙なんかなんの価値もないね! これから死ぬまでずっと後悔して生きてくださいよ」


 九十九が明るく言うとゲオゾルドとヘオリオスは観念した様子を見せる。

 カチリッ――小気味よい金属音が響くと二人の首で〈隷属の首輪〉が輝いた。リエエミカ達についていたダンビス商会の特別製の首輪である。

 ここに来て九十九はまたも生活環境を自分が整えなくてはならない者が増えたことに気づく。


「全員で100名近く――いやマジでどうするよ、これ。2日の食費で金貨一枚は飛ぶだろう!?」


 九十九はこの時に有名な金融会社のキャッチコピー、「ご利用は計画的に」という言葉を思い出す。〈隷属の首輪〉を使いまくった弊害が今重くのしかかってきていた。

 だが、ふとゲオゾルドとヘオリオスを元王女のアールセリアの護衛にすることを思いつくと楽しくなっていく。


「くくくっ、ちんちくりんの小っちゃいアホの子に2人が振り回される図は悪くないだろう。いや、むしろ良い!」


 九十九は良いオモチャが手に入ったと考えて、戦いを締めくくった。






―――――――――――――――――――――――――――


ここで小説のストックが尽きました。お読みいただいている方に感謝申し上げます。特におすすめレビューで★を押してくれた方に厚く御礼申し上げます。

しばらく書き溜めた後に週2ぐらいのペースで掲載を続けていけたらと思います。

今作は未定なところもありますので「もっとアクション増やして!」「お色気シーンがあっても良いのよ?」などのリクエストがあれば一言いただけると助かります。

とにかくこんな変な小説を読んでいただき本当にありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。

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