第91話 ワープ航法でもジョウントでもない!
空間転移を繰り返しては高速で疾駆する獅子乙女の動きは、人間にはなしえない領域に達していた。
またゲオゾルドとヘオリオスからは揺るぎない絶対的な自信を感じ取れる。
必殺必勝の高度なスキルのかけ合わせはいつでも最高の結果を出してきたのであろう。
「瞬間移動を大連発か。おまけに余計にちょこまかと駆けて……。まあ一生懸命編み出したんだろうけど、こういう攻撃パターンはサムッソの猟犬で御馴染みだな……」
九十九にとって瞬間移動しながら奇襲を行ってくる敵はイレギュラーではない。正直十分に対応できる相手に分類できる。サムッソの猟犬とは射手座星雲にいる犬型ベムの総称である。
九十九は冷静だったが、MIAは違った。まるで興奮したかのような言葉を伝えてきた。
「驚きです。ゲオゾルドとヘオリオスが行っている空間移動ですが、ここまで出会ってきた技術と類似点が少ないです。いわば未知の空間移動を行っていると云えます。解析するのにしばしの時間をいただくことになりますが――」
「ええっ? なんだって!?」
これに九十九も仰天する。
一応、〈テラープラネット〉内での瞬間移動についての大まかな理論は知っている。
一つは超長距離移動に使われる〈ワープ航法〉で、もう一つが〈ジョウント〉である。
〈ワープ航法〉はエキゾチック物質に船体を変換することで、4次元以上の高次元に一旦渡ってから3次元に戻ることで距離を縮めるものである。
〈ジョウント〉は宇宙に張り巡らされている天然のダークマターのチューブに侵入することで、チューブ中を移動するものだ。ダークマターチューブ内の時間経過は1億分の1ほどの遅さになるので、瞬間移動したかのような結果になるのだ。
MIAの報告を聞いた九十九はゲオゾルドと距離を取ることを選択する。
こいつもスプライスの〈時間停止〉のようなことができるのか!? だったら早めに殺しておくか?
九十九は改めてMIAに尋ねる。
「……えっと、つまり今はゲオゾルドの転移攻撃に対応できないってこと? もう〈
「いいえ。基本〈ジョウント〉と同じで、転移先出口で同じ空間の揺らぎが発生しているので転移阻止は可能です」
「〈
「勿論です。ですから分析・検証のために〈
「ああ、そういうことか。危険がないから観察したいってことね。それじゃあ取り合えず、2人とも確保しよう! それなら謎技術の解析を後からでもできるだろう? でも〈
「了解しました。協力感謝します」
九十九はMIAがまたも興奮していることに戸惑ったが、現状窮地に陥っているわけではないと認識できた。
直後、ゲオゾルドが2メートル左後ろに出現する。
「死ねっ!!」
ゲオゾルドは長い脚を開いて足裏を叩きつけるように突き出す。空手の横蹴り、キックボクシングでいうサイドキックを鋭利に放つ。
九十九はそれを半身をよじってかわして、〈
ゲオゾルドは延ばした足をたたむ間もなく空間転移で消える。
刹那、九十九の背後に現れ、爪撃を振り下ろす。
九十九は身を丸めるように縮め、爪撃を回避した後にカエルのように跳び上がりながら、肘撃ちを見舞う。
肘撃ちが浅く当たる寸前にゲオゾルドはまたも空間転移をし、一拍あけて地面からはい出るように出現する。
足首に手を伸ばしてくるが九十九は後方に飛びのいてかわす。
四つん這いのゲオゾルドが犬歯をむき出しにして微笑む。
「ケケケッ、まあ悔しいがスゲー楽しいぞ? おまえがどれだけ生き延びられるのか想像すると胸の高鳴りが止まらねえ?」
興奮して立ち上がるゲオゾルドを見て九十九は逆に冷める。
「はあ? おまえ一方的に自分が押していると思っているの? アホくさ。もういいわ。MIA、〈
「了解です」
九十九が全速力でゲオゾルドに接近すると左ストレートパンチを繰り出す。
ゲオゾルドは舌を出しながら微笑み――そのままパンチを顔面に受ける。
「うぎっ!? な、なんで?」
ゲオゾルドの驚きが解消される前に九十九は至近距離から〈
弾丸はゲオゾルドの左肩を貫通する。
「ひゃぎゃっ!? ヘオリオス?」
ゲオゾルドは激痛にのけぞりながら相棒の方を見る。
九十九は見なくてもヘオリオスがどんな表情をしているのかわかる。空間転移が突然使えなくなってびっくりしているのに違いなかった。
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