第77話 なんだか勝手に崩壊しそうな盗賊ギルド

 「あと目的地まで一時間半!」――盗賊討伐に出発して30分経過した処で、第一騎士団から2年A組の面々に時間の進行を教える伝令が届いた。

 すると間もなく九十九が手で股間を抑えながら進む獣道から離脱する。


「ご、ごめん、ちょっと生理現象! すぐ戻るから!」


「しょうがないな。早くしなよ?」


 九十九は盗賊討伐のための列から外れ、森の中を疾駆する。

 そしてほどなく、MIAが制御する〈予備肉体スペアボディ〉と合流し、入れ変わると〈移動板ボード〉に飛び乗る。

 いま、盗賊ギルド〈夜の鉤〉が野営する場所で騒動が起き、その対処のために九十九は急行することにしたのだ。

 〈紅の暴勇〉なる一行が〈夜の鉤〉に接触したのだが、いきなり波乱の展開になっていた。〈紅の暴勇〉は10名からなる者で構成されており、同じ服装をしている。日本人ならば学生服を連想するデザインの軍服を着ていた。軍服の色は鮮やかな真紅だ。

 4台の馬車を引きつれた〈紅の暴勇〉は到着するなり、早速〈夜の鉤〉のボスとの面会を催促した。


「緊急に伝達を要求――〈紅の暴勇〉のスプライスが〈夜の鉤〉のギルド長への面会希望を申請」


 〈紅の暴勇〉のリーダーらしき、亜麻色の長髪の青年スプライスが抑揚のない声でそう言った。


 「ボスは今は忙しいので時間が欲しい」と盗賊の一人が返答すると、その者の左腕がいきなり断ち切られた。

 〈紅の暴勇〉の頭髪も眉もない男が〈金属刀剣ファルクス〉で切断したのだ。


「てめー、なにをしやがる!!」


 これに集まってきた15名の盗賊が反応し、すぐに剣を抜く。

 が、〈紅の暴勇〉の黄土色の髪の女性が腕を振るうと激しい突風が盗賊達を襲い、動きを止める。


「くっそう、立っていられねえ~!?」


 猛烈な風に大の大人たちがよろめいていると、腕を斬られた盗賊が素っ頓狂な声を出す。


「ひえっ! 腕がくっついた?」


 風が吹き荒れる中で丸坊主の男が両手を使い、切断された腕をくっつけていたのだ。

 盗賊達が呆気にとられる中、スプライスが大きく通る声を出す。


「驚かせてしまって誠に失礼。だがこちらも急いでいるので可及的速やかに会談することを重ねて希望!」


 盗賊達が唖然とする中、悲鳴が上がる。見ると盗賊の女性の一人が〈紅の暴勇〉の中で一番の巨漢に抱きしめられていた。

 一分刈りの巨漢は血走った眼をしている。


「自分はもう三日も女を抱いてないでありまっすっ! 是非とも相手をして欲しいでありまっすっ!」


「ふざけんな! わたしは売女じゃないんだよ!」


 女盗賊は必死に抵抗するが巨漢の男は抱きかかえたまま、いきなり5メートルジャンプすると、森の中に消えてしまう。

 これには〈紅の暴勇〉の他のメンバーも呆れた顔をする。


「重ね重ね失礼。あの者ジョージアンはああなると上官のわたしでも制御は不可能――」


 リーダーのスプライスが謝罪した。

 盗賊達は驚きながらもある程度状況になれていく。武闘集団〈紅の暴勇〉はとんでもなく型破りな存在であると事前にわかっていたのだ。

 それは〈夜の鉤〉のボスも同じで、先ほどから〈紅の暴勇〉から逃げるように馬車を移動させ悪態をついていた。


「ちきしょう! こんな大事な時にあんなイカレた連中に滅茶苦茶にされてたまるか!」


「頭、あいつらわざわざ何故こんなところまでやってきたんですかね?」


 側近の言葉にボスは苦い顔をする。


「先触れの話だと、捕らえた獣人を買い取って欲しいということだ。連中相当に金に困っているようだ。そんなことより連中がこのブロズローン攻略を知り『参加させろ』と言いだしたら非常に厄介なことになる!」


「腕が立つなら〈紅の暴勇〉を利用すれば良いのでは?」


「いいや、連中は獣人狩りをし過ぎて帝国を追放になっている。だからブロズローン攻略に加えれば帝国を引き込むように動くかもしれない。連中が手柄を挙げて帝国に戻りたがっているのは間違いないだろう。そうなったら俺が貴族になる計画はパーだ」


「な、なるほど――となると金を払って追い返すしかありませんね」


「いいや、数日ここに留まられたらこっちの企みはバレるだろう。というかもう嗅ぎ付けてやってきている可能性すらある。背に腹は代えられないので連中を一掃する。もう手は打っているんだよ」


 そういってボスは一枚の古びた羊皮紙を取り出し、ニタリと笑う。


「これは〈魔の契約書〉だ。とんでもないヤツに半日だけ命令できるといういわくつきの代物だ。売れば金貨200枚はくだらねえが、使うのを躊躇する余裕はねえ! 使ってからそろそろ1時間――ヤツは契約を果たすために間もなくここに来る!」


 ボスの狂気に満ちた目に手練れの側近も青ざめる。


 九十九は背中がゾクゾクとさせていた。

 悪党どもがぶつかって勝手に自滅しそうな展開に悪い顔をして笑う。


「そうだよな! 悪党たちが一枚岩なんてこともないよな。いいぞいいぞ、〈紅の暴勇〉と〈夜の鉤〉、悪人同士で仲良く潰し合ってくれたまえ!」


 九十九が〈移動板ボード〉の上で身悶える。

 懸念がないわけではない。ボスが使ったという〈魔の契約書〉のことだ。これがもしも悪魔を呼び出すようなことがあれば事態は深刻になる。

 悪魔ジェスガインの手の者が現れれば2年A組の運命は悪い方向に傾くに違いないからだ。

 九十九が考え込んでいるとMIAが警告を発する。


「シールド展開――エネルギー弾が直撃します」


 直後、九十九の視界が真っ白く染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る