第76話 なんか緊張してきた
やがて第一騎士団が出発の手はずを整え終わる。
騎士団の騎兵・一般歩兵・一般弓兵・魔導士・傭兵と別れて整列した。
皆の前に馬に乗った険しい顔をした初老男性の団長が立つ。
第一騎士団・団長ブルトゥルが討伐参加者に宣誓を行う。
「わたしが今回の全体の指揮を執るブルトゥルだ。街道に突如現れた盗賊団の討伐によくぞ参加してくれた。情報を精査した処、ただのゴロツキではないようだ。我ら騎士団だけで討伐する予定ではあるが、現実は甘くない。よって官民区別なく協力して盗賊を撃破しようではないか!」
「オ~ッ!!」という鬨の声が上がると、まずは馬に乗らない者たちから出発となった。
行く先はブロズローンの北に位置する〈碧の森〉。〈碧の森〉に盗賊達が潜伏していると第一騎士団は語る。
歩兵に続き、傭兵と異世界転移者の2年A組が集まって移動することとなる。
「みんなも初陣になるだろうから2年A組の我らは連携を密にし行動しよう! しかるに誰一人死ぬことなく責務を果たそうではないか!」
雲雀丘が先頭に立ちながら、15名に向かってそういった。
赤羽も〈
「まあそんなに緊張せずともよろしいですわ。わたくし達はすでにモンスターとの実戦を経験していますので、盗賊程度では後れを取ることはありませんでございます」
「そ、そうですか~。それは頼もしいです~」
そう目黒が小さい声で返す。
先ほどまで怒っていた目黒であったがまたも愛想笑いを浮かべていた。学年を代表する雲雀丘たちに媚びる習性が未だ抜けきらないのだ。怒りが持続しない目黒を新代田らがじろりと睨む。
黒い甲冑に黒い剣を帯びた緑髪の少年・神保町が微笑みながら、兵舎組に振り替える。
「セオリー通りウォリアージョブが前面に立つから、スペルキャスターは後衛でサポートとかよろしくね!」
神保町の相変わらず、横文字チャンポンの言葉にみんなが反応できずにいると、今度は黒い巫女装束の小杉菜奈緒が振り返る。
「ちょっと神保町くんを補足すっと、具体的に前衛が雲雀丘・藤沢・神保町・関内・新代田・北六条・若松、その後ろの中衛に万代・三田・川崎ね。で、後衛に赤羽・あ~し・吉祥寺・町田・目黒・日立中になる感じね」
万代が恐る恐るといったか感じで日立中たちに振り返りいう。
「あの……要するにこれって従った方がいいですかね? まあ問題があるとも言えないんですけど」
これに北六条らは浅く同意するに留まった。
九十九は頭の中で配置を確認する。要は前衛が〈聖騎士〉〈魔剣士〉〈暗黒騎士〉〈盾騎士〉〈戦士〉〈剣士〉〈槍騎兵〉、中衛が自分〈忍者〉〈拳僧〉、後衛が〈付与魔術師〉〈陰陽師〉〈呪術師〉〈僧侶〉〈魔法使い〉〈精霊術士〉になるのだと――。
雲雀丘達は古代ローマレギオンの密集陣形やスペインコロネリアの方陣テルシオを参考にするなどと言っていたが、実際は非常にオーソドックスな提案をしていた。
雲雀丘が足を止めて、いう。
「一応しっかり言葉にしておくと、回復職は〈僧侶〉の町田さん、〈精霊術士〉の日立中さんしかいない。しかるにこの2人は絶対に守らないとマズいと進言するよ?」
したり顔で雲雀丘はそういったが、ほとんどの者が「当たり前だろう」といった顔をした。
九十九はいざとなればフギンとして介入する気でいる。
というのも今回下手をすると大勢の盗賊と2年A組が戦う可能性が高いと判断したからだ。
盗賊70名ほどが一か所に動かずにいたので、第一騎士団と激突した後にどう転ぶかわからない。
運が悪ければ2年A組は逃走を開始した盗賊団の本隊と戦う事態になるのだ。
〈夜の鉤〉の盗賊たちはすでに非常に高い警戒態勢にいる。
原因は九十九にある。村を襲った14名を捕縛したことで最高潮に警戒し緊張していたのだ。
それは九十九が放った89機のドローンからも確認できた。
現在〈夜の鉤〉は謎の襲撃に備え、助っ人の到着を待っていたのだ。同盟関係にあるドゼルら暗殺者ギルドにも協力を求め、隣町のクルガナンにまで伝令を放ち、人員を貸してもらえるように交渉している。
第一騎士団の襲来はまだ気づいていない様子だ。
新代田が隣を歩く九十九に声をかける。
「えっと九十九くんはいつものように自由に動いて、石を投げた方がいいと思うよ? 持ち味の機動性を活かした方がいいし」
「取り合えず雲雀丘くんのお手並み拝見ってところでいいんじゃないか? とにかく前衛が機能しないと一発で滅茶苦茶になるから、新代田、若松、北六条は頑張ってくれよ?」
九十九の言葉に前衛の新代田、若松、北六条の顔に強い緊張感が満ちる。
人間同士の命のやり取りをする時間が近いことを兵舎組は誰もが感じ取っていたのだ。
九十九も緊張していた。この盗賊討伐のイベントが悪魔ジェスガインが手配したモノであった場合、サプライズ的な惨劇が起こることが考えられたからだ。
黒いドラゴンレベルのイレギュラーが乱入してくる覚悟を持った。
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