第74話 雲雀丘達の未来絵図

 人間相手の実戦にしり込みするクラスメイトに九十九は雑に檄を飛ばす。


「俺達は飽くまで助っ人だから、全員殺傷力のない棍棒やタイマツで盗賊たちをぶん殴れば上等じゃない? 俺も投石でバックアップするから気負わずやりなよ」


 というと7人の顔がパッと明るくなった。そして7人が7人、「唯一覚醒していないが九十九をあてにしよう」「覚醒できてないけど九十九の判断は間違いない」と言い出し、一気に依存しはじめる。九十九は先のレベリングでもバグで覚醒していないということにしていた。


「おいおい7人なんか一度に面倒見切れないぞ? いざとなったら俺に責任を押し付けたら承知しないからな」


 と九十九は言ったが、誰もが頼りにする態度を隠さない。「普通の高校生ならばこんなもの」といえばそれまでだが、今の現状からすると良くない傾向だと思う。

 

 これは俺の甘さが招いたことだな。反省と修正が必要だ。


 九十九に化けた〈予備肉体スペアボディ〉の制御はMIAに一任していたが、「危機に陥る寸前に投石で援護」と命じていた。実際MIAはモンスターに攻撃を受ける手前で石を命中させている。

 目黒達は的確に守られていることを肌で感じ取って、九十九によって安全が担保されていると自然に思うようになったのだろう。


「ちっ! これからは一撃喰らった後に助けるようにするぞ」


 九十九が一人でつぶやいていると7人は盗賊狩りへの戦意を無軌道に高め始める。


「あのフギンさんに鍛えられたんだぜ? てか絶対に生き残ってフギンさんに恩返ししようぜ! 胸を張れる成果を出そう」


「これぐらいの試練はあたし達には何てことないよ~。元の世界に戻った時の土産話が一つ増えるぐらいのことだよ~!」


「俺は父さんに後で自慢するし! 〈生涯の親友BFF〉と盗賊達を蹴散らしたって!」


 おいおい止めろ、いくつ死亡フラグを立てるんだよ!


 落ち込んだと思ったら今度は好戦的なモードに早変わり――これは色んな意味で危険な兆候といえる。

 これは案外、死亡フラグどころか全滅フラグが立ったのではないかと九十九は思った。

 高揚した7人はこのまま対盗賊用のフォーメーションを決めようとキャッキャッと話し出す。

 やれやれと思っていると、森で野営している盗賊ギルド〈夜の鉤〉に張り付いているドローンから興味がもてる報告が入る。

 どうも一行に〈紅の暴勇〉という連中が合流してくるという情報が入ると浮足立つ者が複数現れた。


「冗談じゃねえ、あいつらお構いなしに魔法や能力をぶっ放すから一緒に行動するなんか俺は御免だ!」


「あんなイカレ連中をボスでも飼いならせないだろう。ってか何しに来るんだよ」


 盗賊たちの間で〈紅の暴勇〉という存在はすこぶる評判が悪かった。とんでもなく厄介であるが強者でもあるように伺える。

 盗賊討伐はどうあっても荒れそうだと九十九は気持ちを引き締めた。




 間もなくして王宮でも2年A組の者が会議を始めていた。

 盗賊退治に参加を要請された雲雀丘龍児・藤沢虎光・神保町玄一・関内鳳羽が意見を交換しようと集まったのだ。


「さて我ら〈二十八宿〉が公式に国に依頼されて戦いに挑むことになるのだが、参加するで異論はないよね?」


 雲雀丘の言葉に他の3人も頷く。雲雀丘らはすでに自分たちのパーティに名前を付けていた。〈二十八宿〉とは古代中国の28個の星座群のことである。

 藤沢は大振りで太い眉の端を吊り上げ、自信ありげにほほ笑む。


「やろうじゃないか。王国にしっかりと実力示して100点満点の評価をいただこうじゃないか」


「ザッツクールだよ。訓練ばっかりでゴブリンの相手は飽きたからここらで高評価を得られるアクティビティーをしめそうよ!」


 緑の髪を揺らして神保町はニコニコと微笑んでそういった。

 そして――黒縁メガネで髪を七三分けにした少年が挙手する。


「はい、関内くん」


「本当に我々だけで会議をしていいのでありますかね? ここは連携を取るために巣文字くんや赤羽さん達、12名で慎重に話した方が有意義でありますよね?」


 その真面目でゆるぎない態度に藤沢が太い眉を顰める。


「それは先ほども話したじゃないか。巣文字達は烏天狗に襲われた後遺症でまだコンディションは30点代ほどでとても討伐に参加できる状態にないと――」


 神保町は同意し頷く。


「クワイト! 赤羽さん達はこういうのにアンインタレスティング、興味ないって。雲雀丘くんに全面お任せだってさ。今はまたあの魔術師のオービエンツさんと勉強だってさ。最近いつも3人はオービエンツさんといるよね?」


「いや、しかしやはり合同で意志の疎通を――」


「関内くん、時間も限られているから我々だけでまずは進めようじゃないか」


 雲雀丘は顔に苦笑を浮かべてそういった。

 傍聴する九十九は関内が相変わらずだと思う。関内は地元警察の署長を父に持つためか、とにかく糞真面目であった。融通が利かず人と衝突することが少なくない。

 関内は〈盾騎士〉という職業であるために、攻撃一辺倒の雲雀丘達とのバランスを取るためにパーティに参加していた。

 藤沢が話を軌道に戻す。


「それで当方たちは兵士を何人指揮することになるんだ?」


「いいや。今回はわたし達だけで盗賊討伐に当たる。できるとすれば2年A組で参加する人が集まって、役割分担することになるだろうね」


 神保町が大げさに肩をすくめてみせる。


「僕らは毎日モンスター相手に訓練しているけど、兵舎にいる人たちはノープロブレムかね? 盗賊の前でしり込みしそうだけど――」


「しかるにわたし達でしっかり指揮しようじゃないか。こういう時こそリーダーになる教育を受けたわたし達の出番だよ」


「そうだな――当方が40点の連中を指導で70点まで引き上げるべきだよ。それはそうと、まだ銃の試作には入っていないか? 銃があれば戦況は楽になるのに」


 藤沢の言葉に関内がギョッとする。


「ほ、本当に銃の設計図を渡したんでありますか?」


 雲雀丘達は銃の設計図を描き、ティガン将軍に渡していた。いきなり使えるレベルの設計図ではないが3人で相談して仕上げた代物である。当然黒色火薬の作り方も一緒に伝えた。

 雲雀丘は真剣な顔で3人に語り掛ける。


「この世界は銃が登場する手前の西暦11世紀ほどの文明でしかない。しかるに早く皆を導き、近代的な軍隊・兵器を構築していかなければならないんだ! だから常にわたし達が有能であることを示し続けていかないといけない」


 微笑む藤沢が同意するように指をパチンと鳴らす。


「10年以内にはこの国の軍隊をグランダルメに押し上げたいな!」


「グランダルメ――ああ、ナポレオンの時代ってことは一気に11センチュリーから19センチュリーにするの? 話がマグニフィセントになってきたね!」


 神保町が手を叩いて喜ぶ。

 それから4人は2年A組だけでできる戦術・陣形を語り合った。古代ギリシャのホプリテス、モンゴルの弓騎兵、コンキスタドール、独立戦争のミニットマン等を引用し具体的にしていく。

 じっと聞いていた九十九は面白いとは思った。

 絶対に手を貸さないが雲雀丘達が何ができるのか自由にさせるつもりだ。

 九十九はもちろん雲雀丘・藤沢・神保町達への遺恨・宿怨を募らせていたがタイミングを計っていた。暴力に誇りを持っていた巣文字達を暴力で制裁したが雲雀丘達には別の復讐をしようと考えている。

 自信とプライドが同時に破滅できるアイデアをじっと静かに練り上げている最中であった。

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