エピソード7「悪党がいっぱい」

第70話 貧民街での遊猟・前半

 〈葡萄の木亭〉のベッドの上で九十九が考え込んでいると、第三騎士団が冒険者ギルドに所属する冒険者2人を捕獲した。この2人は〈無敗の三日月〉と同様に、〈隷属の首輪〉をつけた冒険者を監禁・世話をしていた者たちだった。

 九十九がマースクに居場所を教えたのだ。ドローンが空中を投影した地図に潜伏している場所を示し、それをマースクが書き留めて確保にいたったのだ。

 冒険者ギルドへの内偵も開始しており、マースクとその部下は迅速に動いていた。

 九十九が救い出した23人の冒険者も半数が意識をはっきりと覚醒させ、第三騎士団の事情聴取に応じている。

 マースクは近日中に冒険者ギルドの人間を一斉拘束する算段に着手していた。

 〈無敗の三日月〉の居場所はわかっているが、現在は人里離れた処で野営をしている。監禁施設から〈隷属の首輪〉をかけた冒険者がいなくなり、あわててブロズローン近郊から離れ、盗賊ギルド〈夜の鉤〉と接触を図ろうとしているのだ。

 ただ〈夜の鉤〉と合流しようとしているのは戦士のレオドだけのようだった。他の三人の女性は盗賊ギルドのメンバーになるのに反対のようだ――知らんけど。

 〈無敗の三日月〉の連中もきっちりぶん殴る予定だが、権利は監禁されていた冒険者たちにある気がしており、何とか引き渡して私刑・血祭りにしてもらいたかった。


 ブロズローンに渦巻く陰謀も気になるが、九十九には銀河第三連合と何とかコンタクトが取れないものか考えていた。

 まだ自分が乗っていたとされる輸送艦〈アルバトロス〉からの連絡はない。


「ねえMIA、銀河第三連合から返信はいつ頃来るかねえ?」


「未定です。近いエリア――1パーセクの距離に〈アルバトロス〉はいない模様です。引き続き、衛星から救助信号を発信していますが」


「1パーセクってどのくらいの距離だっけ?」


「30兆8600億キロメートルとなります。光年で換算すると3.26になります」


「お、おう……とんでもねえな」


 銀河第三連合に接触できなかったらそれなりの痛手だろうが、九十九としてレベルアップする可能性を考えると絶望する要素はない。今は〈テラープラネット〉のテクノロジーが活用できなければ〈ライト&ライオット〉の魔法を活用すればいいと思えてきている。

 装備が正常に機能するうちに、魔法をもっと修得し安全な行動圏内を拡大する――そんなことを考えながら九十九はいったん眠りに落ちた。


 4時間後――夜23時半にMIAが九十九を起こす。


「あれ? 結構寝ちゃったな。……何か起きた?」


「はい。貧民街のならず者が集結し、行動を開始するようです」


「行動って、貧民街の子供たちを回収する気ということか? ぶっちゃけ誘拐か」


「そのようです。子供たちを捕獲して監禁する打ち合わせをしている者が複数います。聞きますか?」


「いいや、いい。MIAがドローンで集めた情報を集積してくれ。何時に、どこを襲うとか」


「それならば貧民街のならず者が1時間後に集結し、〈輝きの狼〉の拠点を襲うようです。子供たちを奪取したら〈夜の鉤〉に献上すると話している者も複数おります」


「まったく、ろくでもない事ばっかり考えて動いてやがるな。よし、まずはクロカッド達を叩き起こすか」


 といったところで、九十九は考えを改める。

 クロカッドら〈輝きの狼〉連中も目黒達とさほど歳は変わらないのだ。目黒達よりもずっとタフだろうとは思うが、どこで心が折れるかなどわかったものではない。

 レベリングで疲弊しきっていることも十分に考えられる。

 今日は〈輝きの狼〉と貧民街の子供たちはちょっとしたパーティを開いていた。大量のオーク肉で串焼きとスープを作り、一日中食べまくっていたのだ。42人は1日でオーク1頭半分食べつくしていた。

 楽しい一日を台無しにすることはないか――身を起こした九十九はため息をつく。


「やれやれ、結局俺が一番貧乏くじを引くのか……」


 〈機械化人間ハードワイヤード〉なので疲労が軽減されるが、忙しさは心を摩耗させると九十九は感じた。頭を振ると、深く考えずに貧民街のクズをとっととぶん殴ろうと決めた。



 貧民街の中心にある広場に、40人を超える者が集まっていた。

 いずれもひねた目をした者たちで皆、手には得物が握られている。

 四本のたいまつが深夜の集会を照らす中、遅れて4人の男たちが現れると皆一斉に黙る。

 加わった4人の中で一際体の大きな者・目がつぶらで鼻が大きく、牛の顔に似た男が太く大きな声を出す。


「伝達が届いていると思うが、今夜、今から収穫を行う。ガキどもの住処を襲って全員ふんづかまえろ! 容赦はいらねえ。抵抗する奴は何度でもぶん殴れ。一割くらい死んでも構わねえ」


 その言葉が伝わると下卑た笑いが集団の中でゆっくりと広がる。

 アイパッチの男が牛に似た男にガラガラ声で話しかける。


「おい、ゲッソ。ガキを全部〈夜の鉤〉にあげちまうっていう話は本当か? だったら俺たちの取り分はどうなる?」


 ゲッソと呼ばれた牛顔の男はニヤリと笑う。


「全部じゃねえ、せいぜい3割程度だ。あとは〈悦び屋〉に売る算段だ」


「〈悦び屋〉か。裏の奴隷商相手じゃ買いたたかれそうだが、しかたねえな」


 アイパッチの男の見解はこのゴロツキ達の関心と共感を満たしたようで、納得したような雰囲気が漂う。

 ゲッソも鷹揚に頷くと腕を振る。


「それじゃあ、行こうぜ! さっさと終えて夜明け前にはひと眠りしたいからな!」


 ゲッソの先導で皆が北西の方角へ歩き出す。目を欲望でギラギラ輝かせながら悪党たちが行進を開始した。

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