第69話 明かされた陰謀

 王宮の執務室に現れたドゼルは犯罪者にも関わらず態度が堂々としていた。

 九十九は暗殺者ギルドボスのドゼルが非常に優秀な人物であると思っている。終始警戒を怠らず、重要なことは口にせず、部下にはすべて暗号や符丁で命令・伝達を行うことを徹底している。

 おまけにドゼルは勤勉で、今回のエバグル王国・ブロズローン城に侵入する前に、オシロス老人に指示を受けて、盗賊ギルド〈夜の鉤〉と会談していた。

 そんなドゼルも常に蟻型ドローン・ミュルミドンと蠅型ドローン・ベルゼブブ(ショウジョウバエサイズ)に監視され続けていたが――。


 ドゼルは深いため息をついてからソクソーンと交渉する。


「あんたが不信がるのはわかる。だけどちいと俺の話を聞け。実はこの国・エバグルに侵攻を予定している国があり、俺は身の保証の代わりにその手助けをしている。侵攻してくるのはイシュラも連動するが別の国だ」


「な、なんだと!? ……そんなことがありうるのか? そんな情報は一切入って来ていない。馬鹿も休み休み言え」


「へへへっ、それはあんたがこの国で有能な奴を左遷させまくったことも関係しているんじゃないか?」


「馬鹿な……そこもつかんでいるのか」


「信じられんだろうが、ちいとばかり大局を見た方がいいぜ? ちなみに俺をこき使っている奴はエバグル王国の次はイシュラ帝国を滅ぼすつもりだ」


 ドゼルの言葉にソクソーンは顔面を蒼白にさせる。


「馬鹿話と一蹴すべきであるが……わたしにはわかる。おまえが真実を言っているのを……」


 ソクソーンの反応を見てドゼルは深く頷く。


「あんたも滅ぼされる側に回りたいなら俺はちっとも止めねえよ。だけど女衒のまねごとをして宮廷魔術師になり、ガキの王女を嘘で追い出して、エセ為政者になって満足なのかい? あんたに濡れ衣を着せた帝国に復讐するためにやっているんだろうが、そんな事態じゃねえぜ?」


「そこまでわかっているのか。……おまえも、おまえの背後にいる奴も馬鹿げた情報網を持っているようだな……」


 ソクソーンは歪んだ、卑屈な笑みを浮かべてそう言った。その表情は今までのどこか覇気のない印象を抱かせてきたソクソーンと乖離したモノに映る。

 九十九はソクソーンは普段は目立たないように振舞っているが、激情とただならない過去を抱えているのだろうと察した。

 ドゼルは鷹揚に頷くと、後ろに一歩下がる。


「俺達はこのブロズローンに大量の怪物を誘導し、街道を大盗賊団で寸断する予定だ。あんたが考える時間もちっとは必要だろうから、色々調べて動くんだな。それじゃあな!」


「『おまえらの味方になる』と即答する必要もないのか……。これは私が馬鹿にされているのか?」


「おまえがこっちに連絡を取りたいときは、第二騎士団・副団長のトリセンにいえ。俺もトリセンとは面識はないがどうも俺の背後と繋がりがあるらしい」


「トリセン……そうか、わかった」


 頷きを返したドゼルはカーテンの陰に隠れるように移動すると、そのまま立ち去った。ドゼルは外に出るなり素早くカラスに変身すると、東の空に舞う。

 ソクソーンはただただその場で立ち尽くしていた。

 やり取りを聞いた九十九はため息まじりに宿の一室で口を開く。


「一応、〈超大当たりジャックポット〉かな? ドゼルらが何をしようとしているのもわかったし、ソクソーンの正体もわかった。値千金の情報だし――さて、これからどうすっかな。そろそろドゼルを捕まえて、色々聞きだしたいけど背後関係がまだまだわからんよな……」


 九十九は改めて状況を整理しようと試みる。

 あれ以降オシロス老人らは英主とかいうエルフと一切のコンタクトを取っていない。ドゼルの話だと英主がエバグル王国やイシュラ帝国を滅ぼそうとしているのだから、正体を知らないと面倒なことになるのは確実だ。

 それにしてもこの宮廷魔術師ソクソーンがアールセリアを追放して、その妹のロプティアを女王に据えたとわかったのは大きい。

 決定的な証拠ではないが、今のドゼルとソクソーンの会話は生かせそうだと思う。さらにソクソーンを中心に監視を続ければ、新たな証拠も出てきそうだ。

 ソクソーンの過去に何があったのかも早急に調べる必要が出てきた。

 またエバグル王国内にいるスパイがわかったのも大きい。名前だけだがトリセンなる者が王国崩壊派の一味だと認識する。

 ただ、ドゼルにしろソクソーンにしろ、竜使いやゲオゾルドと共闘している気配はない。


 これはそろそろ誰かと相談しながらことを進めないと失敗しそうだ


 九十九は誰とエバグル王国崩壊を防ぐ相談をするべきか、頭をフル回転させる。

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