第63話 お、おっぱ……解除する!キリリッ

 アンライトが〈隷属の首輪〉を解除できることに小刻みに跳ねて喜びを表す。九十九は当然のように90センチはあろうかというバストの揺れに目を奪られる。

 〈機械化人間ハードワイヤード〉は常人の20倍の速さで思考・行動できるが、今九十九は全神経と能力を集中して胸の動きを目で追った。


「あっ? おっぱいお好きなのですか?」


「はっ!?」


 ガン見していた事実をアンライトにストレートに指摘され、激しく動揺してしまう。冷静さを完全に失っていた。ここまで男は揺れる胸に弱いのかと我ながらあきれかえる。


「い、いや、あの……健全な男子ならば美しくて大きな胸を見るのは――と、当然な行為なわけでして……」


 これは確実に嫌われた――九十九は突然の窮地に狼狽したがアンライトの態度は真逆だった。

 胸を九十九の腕に軽く押し当てて、青光りする髪の少女は軽快にほほ笑む。


「お礼がしたいのにわたしには体ぐらいしか返せるものが無くて、どうしようかと悩んでいたのですわ。嫌われているかとも思ったけどそうではないようなのでこの体を存分に使って欲しいのですわ!」


「充分に使って……その、エッチなことをしてもいいってことかい?」


 それを聞いたアンライトは大きく口の端をあげ笑う。


「もちろんなのですわ。わたしの体をいつでも自由にしてくださって構いませんわ。ツクモ様ほどの殿方ならばわたしは大歓迎なのですわ!」


「えっ――えええっ~? な、何このエロゲ展開!! 2回目……」


 九十九はいわゆる18禁ゲームをしたことはなかったが、このいかがわしさMAXの展開にそう叫ばすにはいられなかった。しかも特上の美少女となると興奮が止まらない。唐突に噴出する自分の劣情に九十九がたじろいでいると、ドタドタと粗い足音が響いてくる。

 足音の主は緑の瞳をした耳の長い少女であった。


「この〈隷属の首輪〉が解けるだと? やれやれ、あれほど説明したのにまだ理解できないようなのである! いいか? この首輪は魔法王国ビブリデシアの特注品なのである! その構造は高度にして複雑。複合魔法陣や非対称神智符号を矛盾なく、並列して処理しなければならぬのだぞ? 一つ解体を間違えば我らが即死するのである!」


「それは十分承知している。だが――」


「先刻まで我に魔法のイロハをたずねていたそなたが特注の〈隷属の首輪〉を解除できるなぞ、冗談にもなっていないのである!」


 人族には持ちえない美貌をしたリエエミカが寝間着姿のまま、九十九に食って掛かる。

 ハイエルフにして高位の魔法使いのリエエミカからの高説は理解している。特別製の〈隷属の首輪〉はハイエルフであってさえも解除するのが難しいのは疑わない。

 だが、MIAは解除する方法にたどり着いていると報告をしてきていた以上、試さないわけにはいかないのだ。

 確認するために脳内で問う。


「MIA、2回のプロセスで特注の〈隷属の首輪〉も無効化できるって本当なんだよな?」


「すでに解析は終了しています。〈魔法無効化キャンセルマジック〉を放った後に、〈魔法解除ディスペルスペル〉で首輪の中枢部を破壊すれば可能です。ダンビス商会の製品は煩雑な規格ではありますが解除できます」


 〈魔法無効化キャンセルマジック〉、〈魔法解除ディスペルスペル〉とはMIAが魔法の書を参考に、リエエミカからの講義を聞いて理論を形成して構築した独自の新モードだ。〈魔法無効化キャンセルマジック〉は魔法の魔力を消すもので、継続力の強い魔法も一時的に停滞させることができる。〈魔法解除ディスペルスペル〉は発動した魔法の術式を根本的にゼロにするものである。

 すでにオシロスが用意したであろう〈隷属の首輪〉解除で結果を出している。


「リエエミカは簡単には外せないと云っているんだけどどう?」


「この世界の魔法ですが、解析を進めると複雑さ・精密さは問題になるほどではありません。精霊を介することでしか発動しない魔法などはまだ解析が進んでいませんが、星間航行を行う我々の文明・テクノロジーからすると、ほとんどの魔法技術は模倣・改良することは可能です。解除に問題はありません」


「なるほど――わかった」


 声に出さない会話を終えたが、MIAの言葉をそのまま伝えるのはマズいと思う。この世界の魔法は取るに足らないと云っていると思われると面倒だ。

 小さく咳払いしてから話す。


「リエエミカの意見はもっともだ。だが俺には魔法に詳しい知恵者と意見を交換する秘術があるので、首輪の解除は俺は可能だと判断している。そこで今日は希望者だけ、解除したいと思うがどうだ?」


 リエエミカは拒絶の表情を瞬時に浮かべるが、レべリアは一歩前に出る。


「私からお願いする。親愛なるアンライト様と、偉大なるリエエミカ様の露払いとなれるならば後悔などない。なれどツクモも真剣に解除に挑むと約束してくれ!」


 まるでどこぞの歌劇団の王子役が似合いそうな、キリリとした表情でレべリアは頭を下げる。

 それにアンライトが続く。


「ああ、なんという忠義なのですわ! わたしも逃げないのですわ。レべリアの後に続くとここに宣言するのですわ!」


 芝居の一幕のように振舞う姫と侍女に九十九は困惑するが、ここはスルーしようと考える。レべリアに向けて〈多機能粒子銃クラウ・ソラス〉を〈基本射撃オフハンド〉のスタイルで構えた。銃を両手でしっかり支えた上で肩と頬で更に挟むように銃身を安定させたのだ。


「気持ちはわかった。それじゃあ行くよ――できるだけ動かないで!」


 いうが早く、〈魔法無効化キャンセルマジック〉レベル2を放った後に〈魔法解除ディスペルスペル〉レベル3をレべリアの首元に見舞う。


 ゴトリッ!!


 直後、レべリアの首輪は施錠が解除され、床に落ちる。


「なっ!?」


 3人の女性が驚く最中、九十九はすぐに銃口をアンライトに向ける。


「では次はアンライトで――」


「ええっ?」


「同じく動かないで――」   


「は、はひっ!!」


 硬直したアンライトにレべリアと同様の射撃を行う。すぐに王女の首輪も外れ落ちる。


「ひ、姫様!!」


「レべリア!!」


 歓喜に瞳孔を極限まで開いた2人が破顔し、ぎゅっと抱きしめ合う。

 涙を流し、震える姿に九十九も心が温かくなった。それほどに〈隷属の首輪〉というものが人の尊厳と自由を奪うものなのだと改めて思い知った。

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