第59話 騎士団長マースク・前半
間もなくMIAは検索の結果を報告する。
「今現在も『マースク団長』という言葉を出して、会話をしている者がおります。間もなく、話している者の映像をライブ配信できます」
「おお、早いな……」
21秒後にフギンの視界に、テーブルで酒を酌み交わす3人の若者が映される。
そのうちの一人が、頬に傷があり、眉間にほくろのある精悍な若者に声をかける。
「マースク団長、俺らいつまで、馬やワイバーンの飼育をしなきゃいけないんです? 厩務なんて騎士のやる仕事じゃないですよ!」
「しかしそうはいうが馬やワイバーンは軍の要だ! 納得できずとも育成をおろそかにはできないだろう」
とマースクと呼ばれた頬に傷がある青年が答えた。
「確かに馬とワイバーンは大切ですぜ? でもエバグル王国で武勲を数多く上げた兵が集まってすることですかね? さすがに町に近づくゴブリンを狩っているだけじゃ腕が錆び尽きますぜ! 何より誰が侵略者からこの国を守るんです」
「そうそう。帝国の卑劣漢どもを蹴散らし、悪党どもと知略と武力をぶつけるような任務が必要ですよ」
それを聞いたマースクは困った顔で大きな嘆息をつく。
「みんなの気持ちと意見を自分は理解し納得しているが、しかし第三騎士団の立場は微妙なのだ。迂闊なことをすれば解体もありうるんだぞ?」
そんなやり取りを途中からフギンはアールセリアの前に投影する。蝙蝠型ドローンのカマソッソが、他のドローンが撮ったライブ映像を空中に3D投影したのだ。
「な、なんじゃ、この蝙蝠は!? 怪物かえ?」
「拙僧のドローン……使い魔だ。決してお主らに危害を加えぬから安心せい。それよりも映像を観てくれ」
フギンが映像を指さす。
「この男がマースクで間違いはないか?」
アールセリアとクロカッドは空中投影させた映像に唖然となる。
「う、うむ、確かにこやつがマースクじゃ……。しかしこのような魔法は聞いたことがない。フギンよ、そちはいったいどこの誰なのじゃ?」
アールセリアの問いをフギンは鼻で笑う。
「拙僧は飽くまで悪党を嫌う風来坊であるぞ。で、アールセリア、面倒であるがマースクに冒険者誘拐の件を引き受けてくれるよう説得をしてくれないか?」
「な、なぬ? みどもがか?」
「うむ。こんな奇妙な兜をつけた拙僧が行くより話は悪い方向にはいかないだろう」
「う~む、冒険者誘拐、縁もゆかりもない話だが、頼られれば力にならんでもないかのう。何よりこの国の窮地かもしれぬしな」
「よし! では残りの冒険者を移動させたら会いに行こう。マースクはブロズローンの一番西の宿場町にいるので――」
アールセリアの了承を得たフギンは再び輸送作業に移った。
かくして冒険者全員の輸送を終えたフギンはアールセリアを手招きし、外に誘導する。
アールセリアも不思議に思いながら、外に出ると、突然フギンに腰に腕を回され担ぎあげられる。
「では行くぞ!」
「な? 何をするんじゃ? ふ、不敬であるぞ!」
「3分ほど大人しくしてもらおう。〈
「ひいっ!? なんか怖いのじゃ! お、お許しを、なのじゃ!!」
フギンは透明化してやってきた〈
アールセリアの絶叫を残していきなり時速200キロで飛翔する。
結論から言ってアールセリアはやはり馬鹿だと九十九は断ずる。
マースクに会い、冒険者誘拐の件を委ねるようにする算段のリハーサルをしたが、アールセリアは恐ろしく飲み込みが悪い。
フギンの存在を隠して説明する手順がアールセリアの中でうまく組み立てられないのだ。
またせっかちな自分とアールセリアの相性が悪いとも九十九は思う。屁理屈馬鹿で気が短い自分と大らかで博愛的なアールセリアは考え方がまるで違う。
「だから何で、そちの名前を出してはならんのじゃ? 正義の放浪者フギンが困っている冒険者を助けたとするのが自然であろう!」
「『正義の放浪者』なんか信じる者がおるか! お主の影の配下が冒険者たちを見つけ出し、ブロズローン町に運び込んだの方が通りがいいし、拙僧の存在も隠せる」
「だからいっているであろう。みどもに影の配下なぞおらんぞ? しかもみどもはそちを信用している! それでよかろうが」
「方便だ方便!! いいから拙僧の指図通りに動け!! これをお主からの貸りとし、あとでお主やクロカッドらに助力をするから従ってくれ!」
「うぬう、何かそちの手柄を盗んでいるようでみどもは居心地が悪いのじゃ」
「拙僧はなるべく表舞台に出ない方が自由がきいて動きやすいんだ! ってさっきから何回同じ話をさせるんだ」
といった感じで、交渉の手順を飲み込ませるのに20分掛かった。この宿場に来るまで〈
やはりアールセリアは使えないかもしれない! と思うがここは育てる気持ちでグッと堪えることにした。改めてアールセリアのネームバリューと無駄なカリスマは利用できるのだと、頭の中を整理する。
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